第21話 バトンタッチ

   ◆◆◆


 ──レアナside──


「《フレア》! 《フレア》! 《フレア》!」


 くぅっ……! デカいのを倒すのに一体一体相手にしなきゃいけないから、数が捌けない……!


「ぎゃああああああああああ!? デカいキモい多いデカいキモい多いデカいキモい多いーーーーーーーーーーーー!!!!」


 リエンはさっきからあの調子で、狙いが定まらず乱雑に魔法を使っている。そのせいか、小さい虫系魔物が今にも結界を食い破りそうだっ。


 これは、ちょっとまずいかも……!


「り、リエンっ。大丈夫、大丈夫だから落ち着いて、ね? いい子だからっ」


「れ、レアナちゃんっ、私っ、わたしぃ〜……!」


 何とかリエンに近づくと、涙目で私の腰周りに抱き着いてきた。普段あれだけ頼り甲斐があるのに、こんな時に幼児退行しないでよ……!


「よ、よしよし、大丈夫、大丈夫……!」


 リエンの背中を擦りながらも深淵の魔物に魔法を撃っていく。それでも、まだまだ深淵から出てきてキリがない……!


 おぞましい魔物を相手にしていると、アビスが顎に手を当てて首を傾げていた。


「……何だ、この感情は? 混乱と恐怖の感情で支配されていた女の心に……安らぎ、だと? 女同士のハグで? ……ふむ、興味深い。その深淵をもっと見せよ」


 女同士の深淵って何!?


「ゆけ、親愛なる眷属よ。奴らに恐怖を与え、更なる深淵へと堕とすのだ」


 アビスが指を弾く。


 次の瞬間、深淵へと続く穴が更に大きくなり──アビス・ジャイアント・コックローチより数倍デカいゴキが現れた。


「……レアナちゃん、私気絶しますので、後よろしく、です……」


「私も気絶したいんだけど……」


 もう、無理っ……!








「頼むぞ、セツナ」


「ええ、ジオウ君」


 ──ぇ……?


「《永久なる氷河エターナル・アイス》!」


 氷属性の魔法が発動する。その瞬間、目の前まで迫ってきていた虫の大群が、目にも止まらない速さで凍りついていった。


「流石、凄いな」


「ジオウ君と契約したおかげよ」


 ……ぁ……じ、ジオウ……!


   ◆◆◆


 ──ジオウside──


「ジオウ……」


「じ、ジオウさん……」


「おう。よく持ち堪えてくれた……なっ!?」


 な、何で無表情で泣いてんだ!? えっ、表情筋死んだ!?


「こ、こわっ……ごわがっだぁぁぁ……! 虫もうイヤァ……!」


「もうやだおうちかえるぅ……!」


 え、えぇ……まあ、見渡す限りの虫系魔物の山だから、気持ちは分からんでもないが……。


「虫系魔物の弱点は氷属性って決まってるだろ。氷属性の使えるセラもいるんだし、手こずることはないと思うんだが……」


「リエンが極度のゴキ嫌い過ぎて……」


 ……あぁ、そういやこいつ、昔から絶望的にゴキが嫌いだったな。むしろ気絶せず、よくここまで持ち堪えたもんだ。


「お疲れ様、二人共。少し休んでてくれ。バトンタッチだ」


 俺、セツナ、シュユが二人の前に出る。


「ほう……我が眷属を一瞬で凍らせるとは、クロムウェルの傀儡も中々やるではないか」


「黙れ。セツナはもう俺の仲間だ」


「仲間……仲間、ね。何故かは分からぬが、この肉体でその言葉を聞くと虫唾が走る。ジオウとか言ったな。貴様を殺したくて殺したくて殺したくて……殺したいほど堪らぬ」


 ゴオォッ──!!!!


 ぐっ……結界越しなのに、凄まじい殺気と魔力だな……!


「セツナ。作戦通り行けるな?」


「ええ。シュユ、手を」


 セツナとシュユが手を握ると、二人を青白い光が包み込む。


「シュユ、好きに動いて。合わせるわ。もし危ないと判断したら、私が動かす。いいわね?」


「ああ、姉様と繋がってるんだ。何も心配はない」


「……ありがとう。じゃあ……行くわよ」


「うむ!」


 シュユとセツナが結界の一部を破り、揃って外に飛び出した。


「《古より伝わりし風槍グングニル》!」


 シュユから繰り出される風の槍。


 だがアビスは、それを避けずに真正面から受ける。


 貫くどころか、傷一つ付けられていない。


「やはり悪魔は光属性でないとダメか……!」


「シュユ!」


「うむ!」


妖精の羽フェアリー・ウィング》を生やした二人が、まるで舞踊を踊るように空中を飛ぶ。


 入れ替わり、立ち替わり、注視していないとどっちがどっちか見失うほど、速い……!


「羽虫がどれだけいようと、所詮羽虫……去ね」


 この魔力、《爆裂》……!


 シュユが飛んでいる軌道線上で、《爆裂》が発動する──が。


「むっ?」


「……嘘……」


 アビスとレアナが目を見張る。


 今のスピードと動きの規則性から、完全に当たると思われていた《爆裂》。


 だが、普通ではありえない急停止と急加速。その組み合わせにより、《爆裂》を完璧に避け切った。


 今のシュユの動きに規則性はなく……予想も付かない動きをしている。


「……どういうこと? あのスピードであんな動き、不可能じゃ……?」


「ああ。だが、セツナの傀儡師パペット・マスターを使えば可能な動きだ」


 セツナは俺と契約し、ステータスが四倍になっている。それに加え、クロと契約してた時のように大群を従えているのではなく、セツナ一人を操っている。


 操作の精密さは、さっきまでの比じゃない。


「で、ですが、シュユさんの動きを完璧に把握しないと、下手な操作をして体をバラバラししてしまうのでは……?」


「流石リエン。よく分かってる。だが、セツナの特技を思い出してみろ」


「特技……?」


 何だ、忘れたのか?


「セツナはシュユ限定だが、魔力の波長を完璧に合わせることが出来る。その波長から、シュユの次の動きや、どんな動きなら耐えられるかを全て把握し、傀儡師パペット・マスターで操作……そうする事で、あの不可能に近い曲芸じみた動きを可能にしているんだよ」


「……凄い……!」


「流石、姉妹ですね……」


 ああ、確かにな。だがそれも長くは持たない。


「レアナ、リエン。今のうちに魔力を練っておけ。アビスを倒すには、お前達の魔力も必要だ」


 二人に指示を出し、俺は俺で魔力を練る。


「クゥ、俺達三人の魔力が、あいつを倒せるだけ練れたと思ったら教えてくれ。そこが、勝負の時だ」


『がってん、です』


 シュユ、セツナ。それまで囮を頼んだぞ……!

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