第7話 死体愛好者は現金なヤツ
「元気にしてたか?」
「はい。あれからレベルも上がり、今では一〇〇体の死体を使役してますよ。欲を言えば、一五〇体は使いたいですが」
げっ、マジか……最後に会ったのは三年前だったが、あの時は七〇体が限度だったはず。それより増やしてるとは……流石だな。
あれから、と言うのは、冒険者を引退……いや、事実上ギルドを追放された時だ。
追放された原因は、殺人未遂。
当時気に入った冒険者仲間の女の子を暗闇に連れ出し、殺そうとしたところを騎士団に捕らえられた。それから脱獄し、今はこうして人の寄り付かない霊峰クロノスに引きこもっている。
椅子に座ると、リエンが使役しているメイド死体の一つが、お茶を運んできた。
「こいつは初見だな。どこのどいつだ?」
「他国の元Sランク冒険者です。私を討伐に来たので、ちょちょいとヤッチャイマシタ」
そんな虹彩を消した目で見るんじゃない、怖いだろ。
て言うか……。
「はぁ? 元Sランク?」
メイド服を着ている死体を見る。ふわっとした服の下に隠れてはいるが……確かに、秘めた力はとんでもなさそうだ。
「……お前、Sランク冒険者以上に強いのか?」
「まあ、私も相当苦労しましたけどね。残り十体まで削られた時は、流石に焦りました」
……こいつは予想以上だな……。
お茶をすすると、リエンが俺を見てにこーっと笑った。
「……何だ?」
「いや、憑き物が取れたような顔をしていますから、友人として嬉しいと思っただけです。【白虎】はどうしたんですか?」
「クビになった」
「だろうと思いました」
鈴を転がしたように笑うリエン。なら聞くな。ふんっ。
「それで、わざわざ顔を見せに来た訳ではないのでしょう? そろそろ教えて下さいな」
「ああ、そうだな」
さて、どこから説明するか……。
俺は、俺のおかれている状況を話した。
【白虎】を解雇されたこと。
レアナという少女に会ったこと。
ユニークスキル《縁下》を手に入れたこと。
ギルドを作ること。
そこに、リエンも入って欲しいこと。
一つずつ説明している間、リエンはにこやかにその話を聞いていた。
「……っと、こんな感じだな。どうだ? 頼めるか?」
「そうですねぇ……今の私は指名手配中なんですけど、人里に降りてまで危険に身を晒すメリットが感じられませんね」
あぁ……そうか。そう言えばこいつ、お尋ね者だったな。
確かにここにいれば、相当強いやつでない限り登りきることも出来ない、天然の要塞だ。昼のうちにここを踏破出来るやつなんて中々いないだろうし、夜になってもアンデッドが襲いかかる。隠れるには持ってこいの場所だろう。
だけど。
「あるぞ、メリット」
「……私が納得出来るメリット、なのですね?」
確かめるように、値踏みするような口調で問いかけてくる。
「ああ。──死体の使役数を、二〇〇にしてやると言ったら?」
「────」
お? 流石に唖然としてるな。そうだろうそうだろう。二〇〇体の死体を使うネクロマンサーなんて、Sランク冒険者にもいないからな。
「さあ、どうする? これで気に入らないなら、俺の手札はもうゼロだけど」
「まままま待ってください。二〇〇体なんてそんなうへへへへ……っと、そんな根拠もないでへへへへ」
止めろヨダレ垂らしながら変な笑い声出すんじゃねぇ気持ち悪い!
「根拠ならある。レアナ……俺と契約した子は、契約前は火属性の魔法しか使えなかった。それが今は、水属性の魔法も使えるようになってる。魔法属性と死体の使役数という違いはあるが、可能性はゼロじゃないぞ」
「契約しましょう今すぐどゅふふふふ」
いや変わり身早いな!?
「お、おう。なら手を握ってくれ」
右手を差し出すと、リエンは両手で俺の手を握り締めた。うへっ、ちょっとねちょっとしてる……汚ぇ。
「じゃ、じゃあ……契約するぞ」
俺とリエンを光が包み込む。そして頭の中に、レアナの時と同じような文章が浮かび上がった。
その文章でYESを選択すると、光が吸収されるように消えた。
「……ふぅ。どうだ?」
「…………」
……リエン?
「…………ふひっ」
…………ふひ?
「ふひ……ふひひひひひ! 素晴らしい! 素晴らしいですよジオウさん! あぁ何という万能感! 貴方の言っていたことは嘘じゃ無かったのですねどゅるふふふふふ……!」
「お、おう。喜んでくれたようで何よりだ……」
だからその気持ち悪い笑い声を止めてくれると助かるんだが……。これだからこいつ、昔から残念美人って言われるんだよな……。
「それで、リエン。俺と契約したからには、俺のギルドで働いてもらうが、良いな? 因みに拒否権はない」
「はい、問題ありません。それなら、呼び方をマスターとした方がいいですか?」
「いや、いつも通りジオウでいいよ」
「ですよねー。今更ジオウさんを別の名前で呼ぶとかちょっと無理なんで」
こいつ一発殴ったろか?
「ですが、山を降りるのは三日ほど待っていて下さい。折角二〇〇体もストック出来るようになりましたから、入れたくても入れられなかった死体を詰めてきます」
「お? なら、ここで待たせてもらうぞ。家事なら任せろ、得意分野だ」
「はい。では早速行ってきますね♪」
リエンはメイドを連れて、鼻歌を歌いながら裏口から出ていった。
ふぅ……これで二人目、無事仲間に出来たな……最悪バトルすることになると思ってたから、助かった。
とりあえず、あいつが帰ってくるまでに料理の支度とかしておくか。
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