第4話 隠しスキルが解放された
「……見つけたわね」
「ああ。思いのほか早かったな」
巣を探して三〇分。森の木々で隠すようにして作られたヴィレッジウルフの巣は、かなり巨大なものとなっていた。
こんだけデカい巣を作ってたら、そりゃ農作物や家畜の被害も半端じゃないな。このタイミングで来れて正解だった。
巣の中では、ヴィレッジウルフ達が日向ぼっこをしたり、食料を食べたりしている。それを俺達は、僅か数メートル近くで観察していた。
「でも、何で私達に気づかないのかしら……ウルフ型の魔物って、嗅覚が異様に良かったと思うんだけど」
「予め風魔法で臭いと音を消して、光魔法で姿を消している。問題ない」
「……それ当然の事のようにやってるけど、ジオウって属性二つ持ってるの?」
「正確には水属性も加えて三つだな。水と風の混合魔法で氷属性を含めるなら四つになる」
【白虎】では、所持属性は最低三つは持ってないといけない。それでも、他のメンバーは六つも七つも持っていて、俺が最少だったんだけどな。
「……一応言っておくけど、普通は属性は一人一つ。どんなに才能があっても、三つが限界なのよ。それに混合魔法なんて、魔法の才能をどれだけ持っていても、殆どの人は出来ない。明らかにあんたが異常よ?」
「……そうなのか? 混合魔法程度なら、【白虎】では三つ掛け合わせる奴とかいたけどな」
「……なんなの、【白虎】って。確実に国一つ潰せるじゃない」
そう言われてもな……俺もそこにずっといたから、全く疑問に思わなかったけど……。
「……はぁ、この話は後にしましょう。じゃあ魔法を解いて」
「このままでも良いんじゃないか?」
「言ったでしょ。私にもCランク冒険者としての誇りがあるの」
「……了解」
言われた通りにレアナに掛けた魔法を解除すると、剣を握り締めて草むらからヴィレッジウルフの巣に向かって駆け出した。
「ん、あれ?」
何故か不思議そうな顔をするレアナ。
しかしそんなのお構い無しに、レアナは数メートルの距離を一歩で縮めると、反応の遅れたヴィレッジウルフの首を切断した。
「え……?」
……レアナのやつ、さっきから何を戸惑ってるんだ? Cランクなら、Eランクのヴィレッジウルフくらい楽勝だろ?
レアナは何かに気づいたのか分からないが、俺の方をギロリと睨んだ。え、俺何もしてないけど?
レアナの奇襲にヴィレッジウルフが臨戦態勢になる。こうなったら厄介だぞ。どうするレアナ。
だが、レアナは俺の心配をよそに、凄まじいスピードで駆け抜け、一振で三匹のヴィレッジウルフを切り裂く。
遠吠えを上げるヴィレッジウルフ。だけどレアナは止まらない。疲れ知らないのか、延々と同じスピードで動き、ヴィレッジウルフを屠っている。
……最近のCランクはこんなに強いのか……何か、才能の違いを見せつけられてるみたいで凹むなぁ。
レアナの目覚しい活躍ぶりを眺めていると、巣の奥から他のヴィレッジウルフとは違う個体が現れるのが見えた。
ヴィレッジウルフと同じ毛色だが、牙のデカさと側頭部から生えてる二本の角が、他のウルフとは違う。
間違いなくこの巣の長だろう。見た目と漂う気配からして、BランクよりのCと言ったところだ。……こりゃ、俺が入らないとまずいかもな。
俺もコンバットナイフを抜いて茂みから出ようとすると、レアナがこっちに向かって手を突き出してるのが見えた。
……どうやら、一人でやるつもりらしい。ここはレアナの意思を尊重しよう。
レアナが剣を両手に構え、ヴィレッジウルフの長に向かって正対する。他のヴィレッジウルフは、レアナを囲うようにして威嚇していた。
「すー……はぁー……」
深く深呼吸をする。
そして──次の瞬間には長と交錯し、バラバラに斬り殺した。
……いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て。
強すぎじゃね? レアナちゃん強すぎよ? 俺より強いんじゃないのこれ? え、凹む。
流石に長がやられて焦ったのか、ヴィレッジウルフ達がたじろぎ、しっぽを巻いて逃げ出した。
数秒後、巣には俺とレアナを残し、生きている生物はいなくなっていた。
……とりあえず労おう。俺は大人だ。年下が俺より強いなんて、今に始まった事じゃないしな。うん。俺は大人だ。
「よいしょっと。お疲れ、レアナ」
「……ジオウ」
え、何? 怒ってる?
さっきと同じく、俺を睨んだレアナは、大股で俺に近づいてきた。
「あんた、私に身体強化系の魔法使ってたでしょ! 私あそこまで強くないわよ! 私にも誇りはあるって言ったでしょ!? 邪魔すんじゃないわよ!」
……へ? 身体強化魔法?
「い、いや、そんなものは掛けてないぞ。そもそも、俺は身体強化魔法は使えない」
「……え?」
「え?」
…………んん?
「で、でも私……私こんなに強くない。あんなに素早く動けないし、ヴィレッジウルフと言っても、一撃で首を切断なんて出来ないのに……」
「……そうなの?」
あんなに何の違和感もなくスパスパやってたから、慣れてるのかと……。
「……私、ジオウとパーティー組む前に、一つ依頼をこなしてたのよ。内容は、ドリルバードの討伐。ランクDの依頼よ」
何か語り出したぞ。
「ランクDの依頼でも、かなり苦戦したわ。つまり私の実力は、DランクよりのCランクってことよ。それなのに、あんな動きができると思う?」
「……思わないな」
その話が本当なら、今回の依頼もかなり苦戦することになる。それなのにあんなに余裕で……。
「あの時と今の違い。それは、あんたがいることよ」
「……俺が?」
「ええ。でも身体強化魔法を使ってない……となると、魔法じゃなくてスキルの方かしら。ジオウって、何かスキル覚えてたりする?」
「いや、覚えてないぞ」
スキルは魔法とは違い、どちらかと言うと自分の防御力や攻撃力、自己治癒力を上げたりするものだ。残念ながら、俺はそんな便利なものを持っていない。
「……もしかして、隠しスキルのせい……?」
「隠しスキル?」
まだ完全に覚醒してないスキルのことで、スキル鑑定でも見極めることが出来ないスキル。それが隠しスキルだ。
隠しスキルを覚醒させるには、それを自覚するしかない。でも自覚する方法は、本人が気づく以外無いとされている。一生気づかない場合もあるし、子供の時に気づく場合もあるらしい。
「……ねぇ、もし良ければ、私が鑑定してあげましょうか?」
「……何?」
鑑定、だと?
「私の眼は《鑑定眼》と呼ばれる魔眼で、対象の潜在能力の全てを見る力がある。隠蔽されているステータスも、隠しスキルも、この眼の前では全てを曝け出すことになる。それでもいい?」
……そうか、魔眼持ち……しかも《鑑定眼》か。確か数億人に一人しかいない超激レアの魔眼だったはずだ。
「……分かった。頼む」
もしこれで、本当に俺が隠しスキルを持ってたら……て、ちょっと期待しちまうな。
「分かった。行くわよ」
レアナの金色に光る眼が真っ直ぐ俺を見据える。
次の瞬間──ガラスを粉々に割るような音が頭の中に響き渡ったのを感じた。
「っ!? まさか、鑑定しただけで隠しスキルが解放されるなんて……殆ど解放されかかってたみたいね」
「……解放されたのか?」
「ええ。それにしても……とんでもないスキルよ。これで、あなたのいた【白虎】とギルドが何であんな化け物揃いなのか、納得がいったわ」
……納得が、いった……? どういう事だ?
「自分の中に意識を向けてみなさい。スキルの詳細が分かるから」
「……分かった」
俺は目を閉じて、意識を集中させる。
すると、頭の中に何やら文字が浮かび上がり……そこには、驚愕の事実が記されていた。
◇◇◇◇◇
スキル名:《縁下》Lv.1
スキルランク:ユニーク
発動条件:オート
効果:発動者が所属する組織全体のステータス量を一定の倍率で増加させる。
倍率:2倍
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます