夏休み16日目

花火大会当日、僕はあの場所へ向かう前に屋台に行くことにした。


毎年、屋台で食べ物を買ってそれを持って海で食べていた。屋台で買い物をしてから結愛のもとへと向かう予定だったけど、やめよう。先に結愛のとこに行こう。僕は歩いて来た道を戻りあの場所へと向かい始めた。


「…来たよ。」


去年、来年はここで花火を見ようと約束した場所。


「思い出して、くれた?」


「うん、全部思い出した。ごめん、謝って許されることじゃない、ただ僕にとって幼なじみの結愛は大切だった、これからもずっと変わらないんだ。思い出させてくれてありがとう。」


「…私のことを思い出さないで過ごす方が幸せだったのかもしれない。でも、永遠に記憶が無くなったって聞いた時、私との思い出が全部無かったことになったみたいで、それが未練となって成仏できなくなっちゃったの。」


「それであの日、僕の前に現れた。」


「そう。最初は記憶を取り戻して欲しいなんて思わなかった。永遠のなかに幼なじみとしての私じゃなくてもせめて幽霊としての私との思い出を覚えていて欲しかった。私という存在を、覚えていて欲しかった。それなのに思い出してほしいって思っちゃって、ごめんね。」


「幽霊としての結愛との思い出も、幼なじみとしての結愛との思い出に変わったんだから、僕は良かったよ、結愛が思い出させてくれて。」


「…ありがとう。」


「ほら、会場に行こう。今日の思い出作りは花火大会でしょ?食べ物買わなきゃ。」


「う、うん!」


そう言って僕らは会場へと向かい始めた。

会場へ着く間僕たちはほとんど謝り合戦のようだった。


「ついた。いちご飴、買いに行こう。」


「…なんかほんとに思い出したんだって実感した。」


いちご飴を買って、焼き鳥、綿あめ、それからポテト。それからヨーヨー釣りもしたし、射的もした。

あいにく僕に射的のセンスはなかったけど。


「そろそろ花火始まるね、戻ろっか。」


「うん。見晴らしいいんだもんね。」


僕たちは行きとは全く変わった様子で思い出話をしながら向かった。


「わ…本当に見晴らしいいね。こんなとこ結愛は1年も僕に見せない気だったのか。」


「あははっごめんって、…ありがとう、気使って屋台回ってくれたんでしょ?生きてる時のようですごい楽しかった。」


「別に、気使ったわけじゃないけどね、今まで通りでしょ。」


ヒュー…ドーン


「あ…始まったね。」


「うん。」


本当に綺麗だった。海から見るより何倍も綺麗だった。きっと今までみてきた花火で一番綺麗だ。


「…あのね、永遠。」


「どうしたの?」


「この花火が終わったら、お別れだよ。」


「え…そんな急すぎるって、結愛が言ったのは夏休み中の思い出づくりだ、まだ夏休みは終わらないのに…」


「永遠と思い出を作るって願いが叶った上に、私の事まで思い出してくれた。もう、未練がないんだよ、未練がなくなったら成仏するんだ。」


じゃあ…


「あと、数分で結愛は、」


「うん、…死にたくなかったな、まさか事故に遭うなんて思ってもいなかった。もっと沢山、永遠と思い出作りたかったのに、」


そう言って結愛は涙を流した。花火の終わりが近づいていた。


「僕はもう、結愛のこと忘れないし、どこかに出かける度に結愛のことを思い出す。もう絶対に忘れないから…笑ってよ。」


笑ってと言った僕の声は震えていて、笑ってと言ったくせに自分も泣いていた。


「うん…うん、ありがとう。沢山の思い出を私にくれて。私たちの思い出作りは、これでおしまい。ここからは永遠が死ぬまでの思い出作り…思い出作りの旅だから、先に天国で待ってるから、天国で会った時は、沢山思い出話を、旅の思い出話をしてね。」


ヒュー…ドーン!


最後の、花火だ。


「「綺麗だね。」」


お互い、涙でぐしゃぐしゃの笑顔でそう言った。


結愛の体が、透けていった。


「お別れじゃないから…!先に天国で待ってるだけだから、だから、またね…!」


「長生きするから、沢山の思い出を作った後に会いに行くから、楽しみにしててよ、また、ね!」


僕の言葉に頷いた結愛は、花火と一緒に、消えていった。


花火大会が終わった。そして、僕と結愛の、僕と幽霊の夏休みが終わった。

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