第32話
授業中も、なんか上の空で。
いつの間にか委員会も終わっていた。
そういえば渉が一緒に帰ろうって言ってたな。
筆記用具を持って、教室にカバンを取りに行く。
教室のすぐ近くまで来ると、教室の中から話し声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声だった。
「でさー、昨日友達と買い物行ったんだけど」
「うん」
「蓮が彼女と歩いてて!」
「蓮に会ったの?」
「そうなの!蓮、彼女の自慢めちゃくちゃしてくるじゃん」
「そうだね」
「だからどんな彼女かなって見てみたら、普通に可愛くて」
「可愛かったんだ」
仲が良さそうな話声。
女の子はテンションが高くて、男の子は、女の子の話をうんうんと聞いている。
伊吹くんが女の子と2人きりで話してる。
それだけで、血の気が引いていく思いだった。
私の代わり、もう見つけたの?
デートをやめようって言ったのは私。
だからこんなショックを受けてるなんておかしい。
確かに伊吹くんは、自分に関心のない女の子だったら誰でもいい感じだった。
次に相手を見つけてデートしても、全然おかしくない。
だから私がこんなこと思うのは間違ってる。
私は自分のほっぺたを両手でパチンと叩いた。
今、入っていくの正直気まずい。
けど話はすぐに終わりそうにない。
部外者の私が、ずっとここで話を聞くのも申し訳ない。
だから、意を決して教室に入っていった。
「あ、井上さんだ」
私の存在なんて無視してくれていいのに…。
伊吹くんの声で、女の子は振り向いた。
綺麗なロングヘアが似合う、美人な女の子だった。
「…あ、邪魔してごめんねー、続けて続けて」
2人の会話の邪魔はしたくない。
伊吹くんの隣の席にあるカバンを取って、すぐにその場を離れる。
教室から出ると、今まで無意識で止めていた息を思いっきり吸い込んだ。
なんでこんなに意識しちゃってるの…!
もう伊吹くんとはなんの関係もないんだから。
これからは普通のクラスメートに戻るんだから。
こんなことで動揺してたらいつまで経っても身が持たない。
そう分かってるのに…。
「”井上さん”か…」
知ってる。
伊吹くんは誰かが近くにいる時は、私を苗字で呼ぶこと。
2人きりの時しか名前で呼ばない。
分かってる。
でも今、伊吹くんに”井上さん”って呼ばれることが、ひどく悲しかった。
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