FILE130:逆襲のW(ワスピネート)スピアー

 デリンジャーが吹っ飛ばされた先は、しくも【呪いの雨作戦】を実行するためにこしらえた祭壇のある、ため池の周辺に広がる採石場の跡地だ。

 蜜月もその地に降り立って、呆れた様子でデリンジャーへと迫る。


「趣味が悪い~んだ」


 彼女はため池を見下ろす高台に建てられた奇妙な和風の祭壇を見て、ため息を吐くと右手に金と黒を基調とする十字架状の長剣【スレイヤーブレード】を担ぎ、左手には同色の銃型デバイス【キルショットヴァイザー】を握る。


「ふふふ、へぇ~へへへへへへ……。汚いマネばっかりやってきたお前もとうとう、年貢の納め時というわけだぁ~」


 余裕たっぷりに笑う蜜月は、マスクを展開させて顔をさらけ出して皮肉な笑いをデリンジャーに向けていた。

 ここまで意地の悪い表情になったのは、彼女としても久しぶりのこと。

 相手がかつてのヘリックスでの同僚であり、何かにつけて煽っていたデリンジャーだったからというのもあるのだろう。


「【わからせソード】と【わからせガンナー】だ。容赦はしない」


「た、宝木のガキがどうなってもいいのか!?」


「ゲス野郎のお前に来たんだよ。デリンジャー君……」


 素顔をさらけ出した蜜月に対し、デリンジャーはバットガイストの姿のままだ。本来なら、恐ろしい形相のコウモリのサイボーグであるべきだったのに、今の彼は精神的にも肉体的にもひどく弱っていて脅威には見えない。


「実験体No.1とNo.13というバケモノたちを逃がした裏切り者がっ、調子に乗ってんじゃあないぞ! し、死ねぇー! お前が死ぬんだッ!」


「別にお前に死ねなんて言ってね~んだけど。アデレードに言われただろ~? ここらで足を洗って、ワタシらと一緒に罪を償うんだよ。お前自身のためにもな」


「わ、わかったようなことを……」


「ワタシだって後味を悪くするつもりはないからな……。それだけのこと」


「ケケケケケケケケーッ!!」


 いきり立ったデリンジャーは、コウモリ傘型の剣である【アマガサイダー】を手にして斬りかかる。

 ただ力任せに振り回しているだけにすぎず、歴戦の暗殺者であった・・・・蜜月にはかなわなかったし、簡単に牽制され喉元に切っ先をあてがわれた。


「マガっさんもだけど、あんたも大概分からず屋だよなッ。ギルモアのじいさんなんかに従い続けたって、道具として死ぬまで使いつぶされるだけだぞ。あんたもそのくらいわかってたはずだ」


「そ、総裁ギルモアに恩をアダで返すようなことはできんっ!!」


「さびしいこと言うなよ!」


 蜜月が素顔を出したまま、まだ組織内で手柄を立てて返り咲くことにこだわるデリンジャーに苛立って蹴飛ばした直後、崖の上から上から音を立てて岩が転がり落ちてきた。

 土砂崩れが起きたのではなく、誰かが意図的に落としたのだ。

 その岩がデリンジャーに直撃するも、蜜月はその前にもう退避し終わっている。


「聖花ちゃんかい!?」


 崖の上に立っていたのは、確かに散々自分や周囲を振り回してきた青髪ツインテールで巨乳の女子中学生だ。

 その女子中学生がVサインをしたのを見て、蜜月はサムズアップで返す。

 そして武器をいったん収納してから飛翔し、聖花を抱くと崖下に降りた。

 デリンジャーは力を振り絞り岩を破壊して脱出するが、聖花に好き放題やられたことに加えて今のでエネルギーを使ったせいで、ひどく疲弊していた。

 更に凍ったフロッグガイストも飛ばされてデリンジャーに激突し、怪人たちは2体仲良く転がされてしまう。


「お、お前重いんだよー! どけっ!」


「アデレード、来てくれたんだねえ!」


「セイカさんも、ミヅキも、待たせちゃったわね」


 ドタバタしてもがいている怪人たちを尻目に、アデリーンはいったんマスクを展開させて聖花に素顔を見せる。

 目線を合わせて両手を肩に置き、それから彼女の頭をなでた。

 これには見守っている蜜月も「エモい……!」と目を潤わせ、手を合わせて喜んだ。


「よしよし」


「えへへ……」


 聖花を笑わせてから、アデリーンは「もう安心よ。私たちにお任せあれ」と言い聞かせて、微笑みを称えたままで凛々しい表情を敵に向ける。

 もちろん蜜月も一緒だ。


「あなたたち、お覚悟はよろしくて?」


 そう言い放ち、2人同時にマスクを閉じてからバットガイストとフロッグガイストへと牽制射撃をしてから突っ込む。蜜月がひたすらに攻めている中、右手に持ったブリザードエッジですれ違いざまに敵を斬り、左手に持ったブリザラスターをある程度撃ってから、頃合を見てビームシールド・【ブリザウォール】へと持ち替えると、怒り気味に近接攻撃をしかけてきたフロッグから身を守る。

 刹那、ブリザウォールで受け止められた敵の鋭い爪が凍り付き、その隙をアデリーンに突かれて吹っ飛んだ。


「う、ぐぐぐ……」


 うめき声を上げている2大怪人へ、息つく暇も与えずアデリーンと蜜月は連携攻撃をしかける。

 ひたすらに、斬って斬って撃ちまくり、空にも打ち上げてから地面に叩き落とした!


「とぉーう!」


「誰だ!?」


 彼女たちが敵を追い詰めていたその時、駆動音とともにサイドカー付きのシルバーホワイトの大型バイクが戦場に颯爽と現れた。

 乗っていたのは、ホワイトタイガーを彷彿させるまばゆいほどの白銀色に輝く特殊なスーツを着たライダーだ。

 そのライダーはバイクから降りて、サイドカーに乗せていたボックスに手をつける。


「新手か!?」


「サイド〇シンか、〇ブルマ〇ンか、サ〇ドファン〇ムなのか、それが問題ね……」


「緊張感ないのな、こんな時にさ~……」


 呆気に取られている敵を前にこのようなやりとりを軽妙に交わしてはいたが、これは余裕というものだ。もちろん油断も慢心もするつもりなどない。

 やがて謎の白銀色のライダーは、ホワイトタイガーの顔を模したヘルメットを外して顔を見せる。


「やぁ、アデリーン。蜂須賀さん。わたしですよ」


 若くして肝の座った女性の声だ。毛先に黒いメッシュが入った艶やかなシルバーホワイトの髪と、未来を見据える鋭いアイスブルーの瞳。整った鼻と口元、そしてきめ細やかな肌。

 この場にいた誰もが、その女性に見覚えがあった。


「え、ええええええええええええええええ!? その顔まさか、せせせ、世界レヴェ~~~~~ルの……」


「おトラさん!?」


「まあ! 珍しいこともあるものね、ヒメちゃん?」


 そう、虎姫・T・テイラーだ。


「て、テイラーの社長をそんな気安く……? おおお、お前ら、彼女とそんなカンケーだったのか!?」


「あるぇ~? あんたたちも知らないはずはないと思っていたんだが」


 とくに動揺することなく、通常通りに接するアデリーンと蜜月を見て、デリンジャーは腰を抜かす。

 彼の隣に立つフロッグガイストこと蒲郡は、正直今のノリについていけず呆れ返っていた。


「わざわざ来てくれたってことはそのスーツ、もしかして!?」


「……いや、あれ・・はまだまだ完成には程遠いのだ。代わりにこれを受け取って!」


 ボックスから金色を基調とし、紫色に輝くクリアパーツの穂先を持つ槍を取り出した虎姫は、それを蜜月へと投げ渡す。

 見入っている彼女に対して、虎姫はまず咳払いをして自身に注目を向けさせる。

 その間に手を出そうとしたデリンジャーとフロッグガイストだったが、アデリーンからビームソードを向けられて恐怖したか、思いとどまった。


「先日お伝えしたワスピネートスピアーです。ぶっつけ本番になりますが、蜂須賀さんほどの方なら使いこなせるはず」


「ええ。どうも……いいものをワタシにくださって、ありがとうございます」


「ではご機嫌よう!」


 虎姫・T・テイラーは大型バイクに乗り込み、高いテンションを維持したまま風のようにこの場から去って行く。


「……行っちゃった……」


「はははははははッ! 来な、怪人ども! 『黄金のスズメバチ』の怖さを思い知らせてやる!」


「ミヅキがこう言ったからには、私も本気で行かせてもらうわ。スパークル、ネクサぁぁぁぁ――――ス!」


 それから間髪入れずに、蜜月は自身の勝利を確信して高笑い。

 アデリーンもエメラルドグリーンに輝く強化パーツ・【ネクサスフレーム】を取り出して右腕のデバイスに装着し、青と白とエメラルドグリーンのボディを持つ強化形態である【スパークルネクサス】への二段変身を遂げ、背中からは一対の氷の翼を生やし、追加装備として青色のコートもまとった。


「虫ケラどもが調子に乗るなっ! ……むっかつくんだよ――――っ!!」


「ゲローッ!」


 どちらの怪人も語気を強めてはいたが、もはや虚勢を張っているにすぎず、攻めてきた2人のヒーローにただ圧倒されるばかり。

 とくにデリンジャーのほうはどんな攻撃を繰り出しても回避か防御をしっかりと決められて、もはや何をしても通じない窮地に陥っていた。


「がんばれ……。オバ……蜜月お姉さん、がんばれー!」


「センキュー! テイッ! デヤッ! ドラァ!」


 まるで女児向けアニメを見ているノリの聖花からエールを受けたとなっては、反撃の隙をも与えずひたすら攻めきるのみ。演武のごとく華麗に振り回してから、蜜月はもらったばかりの【ワスピネートスピアー】で敵を2体まとめて猛烈に、流麗に攻め立てる。

 鋭い突きが怪人たちを襲い、高台の上の祭壇までぶっ飛ばした!

 アデリーンと蜜月は空を飛んで移動し、圧倒的パワーとスピードをもって敵を翻弄し容赦なく確実に弱点を突く。

 デリンジャーはここから飛んで逃げる気力もなくなり、フロッグガイストに至っては機雷や炎を吐き出す気にもなれない!


「お、【黄金のスズメバチ】め……記者に成り下がったお前なんかに負けるオイラでは、ゲロゲロッ」


「幹部になりたいんだってねえ? そうやって上ばっかり見てると、今に大事なものを失くすぞ~」


 舌を伸ばし絡め取ろうとしたフロッグガイストの狙いを見抜いて、蜜月はその舌をWワスピネートスピアーを振り払って切断。

 マスクの下では余裕の笑みを浮かべてみせた。

 うろたえるフロッグを前に彼女は力を溜めて、その赤紫色の複眼を光らせた。


「とどめッ! スティンガースコール!」


「ゲロゲーロ、ま、まいりましたアアアアアア」


 その激しい刺突は豪雨のように連続して敵を打ち、体内に残った機雷ともども爆発四散させて不気味な祭壇も粉みじんに吹き飛ばす!

 フロッグガイストは、水道工事業者の姿になって辺り一面を転がって気絶した。


「が、蒲郡君!」


「よそ見してる場合じゃないわよ! ハッ!」


 おびえるデリンジャー、しかしアデリーンは攻撃の手を一切緩めない!

 パワーアップしてエメラルドグリーンの光の螺旋をまとうようになったビームソードで、目の前の敵を素早く何度も切り刻んで行った。

 それだけでなく、ビームソードと同様にエメラルドグリーンの光を交えたビームシールドでアタックをしかけて、想像を絶するほどの低温エネルギーを押し付けてどんどん畳みかける。


「やや、やめろぉ! やめてくれっ!!」


「終わりっ! グレイシャルストラッシュ!!」


「アンギャアアアアアアアアアアアアアア」


 冷たく輝く吹雪が吹き荒れ、青とエメラルドグリーンの巨大な光の刃がバットガイストをぶった切る。そして、大爆発を巻き起こして撃破した!

 もう目も当てられないほどボロボロになったデリンジャーが、さっきまで祭壇だったガレキの山に横たわる。

 聖花もなぜかついて来ていたが、気にすることは無い。


「やったぁ、アデリーンさんたちの大勝利ぃ! それに引き換え……よっわー! ばーかばーか! ビビり虫♪」


 ピースをして大はしゃぎするだけで留まらず、デリンジャーを前に変顔と変なポーズをして煽りまくってもっと悔しい思いをさせることに成功した。

 さすがにやりすぎたため、アデリーンから止められてしまったが――。


「ま、また負けたぁ。もうウンザリだ! お前らとは関わりたくない……!!」


 げっそりした顔を更にぐしゃぐしゃにして、デリンジャーはゴネた。

 歳の割に子どもじみていたが、ヘリックスでの日々で積もり積もったストレスと疲労も原因に含まれている。


「ダメね。あなたが罪をあがなうと誓うまでは」


「ちきしょう……! もうほっといてくれ!!」


 蜜月とともに変身を解除したアデリーンが長い金髪をなびかせ、太陽を背に受けて――デリンジャーへと手を差し伸べる。

 心の中では安息を求めていたからか彼は一瞬安堵したが、恐怖や不安、焦燥などがまさってその手を取ることを拒否する。

 いや、板挟みにされて限界に達したというべきか。

 そしてデリンジャーは、同じく撃破された蒲郡をほったらかし、これまた情けない悲鳴を上げてワープして逃げ出したのだった。


「ふーっ! 一時はどうなることかと思ったけどさ?」


「めでたしめでたし、ね。ギルモアに処刑されるのが怖くて悪行三昧のデリンジャーも、いつかは罪を償いたいと思い直す日が来るでしょう」


 一仕事終えた感じの達成感のある笑顔で伸びをして、蜜月はアデリーンと肩を組んで喜び合う。

 そんなヒーローたちを前にして、あんなに生意気だった聖花も照れたのかモジモジし出す。


「あの、2人とも……かっこよかったです……!」


「それはどうも♪」


「帰ろっか。宝木さんたちを待たせちゃ悪いからよ」


 彼女たちは行く、果てしない戦いの道を。

 ――このあと、聖花を両親のもとに送り届けてから感謝の言葉をいただき、ごちそうまでしてもらったのはまた別の話。

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