FILE100:モトカノマニア
「……ふふふふ。罠にかかったのはあなたのほうよ、ダイキさん」
「あ……!? あ……!? あっ……!?」
予想外すぎる事態に動揺を隠しきれないカクタスガイスト。
更にクローゼットの中から蜜月と、彼女に抱えられた綾女が飛び出し、敵の目を引く。
「どうせこういうこったろうと思ってね。消灯して、あんたがこの部屋に戻って来るまでの間に――すり替えさせてもらったのさ!」
「そういうこと。あなた、大毅君なんでしょ?」
余裕綽々に笑う蜜月の横で、綾女はある確信をもってカクタスガイストを指差して揺さぶりをかける。
ベッドから起きたアデリーンも加わり、腰に手を当ててから軽蔑するような眼を敵に向けた。
「だ、大毅だァ? オレそんなの知らねーぜ!? オレはカクタスガイスト様だァ」
「しらばっくれないで。それじゃあ、あなたが大毅君じゃないって証明してごらんよ」
「なんだとォ……?」
あからさまに苛立ちを見せるカクタスガイストへ、アデリーンは光線銃・ブリザラスターを向けて威嚇。
相手をいったん黙らせる。
「ここで暴れるのは控えてほしいわね。アヤメ姉さんをこれ以上苦しめて辱めるなら、私たちも容赦しませんよ」
「わ、わかったよ。オレはその大毅とかいうヌケサクじゃねえから!」
「白々しい。……アヤメ姉さん」
アデリーンが顔を向けて頷いたのを合図に、綾女は2人に護衛されつつ――まずは呼吸してから眼前に立つカクタスガイストと向き合う。
「今から質問をします。……私の弟の竜平は、何歳までオネショしてましたか?」
「知るかよ! おめーの弟のことなんて!」
「正解は10歳。小学5年生に上がる手前までです。あの時は本当に大変だったわ……」
「おめーの自分語りなんざどうでもいい!」
カクタスガイストの態度の悪さにカチンときたアデリーンと蜜月は、怖い顔をしてカクタスガイストをにらんでおびえさせ、萎縮させる。
――表面上は粗暴で強気に振る舞っていても、内面は矮小らしい。
「私が大毅君と別れたのはいつのことでしたか?」
「知らねーつってんだろが、てめーッ!」
「大学に進学する前です。お互い、後腐れの無いようにするためだったよね」
「このアマッ! オレは大毅じゃねーつってんのがわかんねーのか? バカか!?」
チベットスナギツネのような虚無の顔をして、アデリーンはカクタスガイストを見つめて――彼を不安にさせた。
まだ突っかかるようならばそれこそ、容赦も躊躇もしない。
呆れてため息を吐いた綾女は、悲しそうな目をしながらも眉を吊り上げて意を決する。
「最後に。私とあなたが最初に出会ったのは高校1年生の春、校庭の桜の木の下でしたか?」
「だから知らねー! どうでもいいんだよ、んなこたァ!?」
「答えは――校庭ではなく、桜の木がある海浜公園でした」
綾女は目を閉じて、非常にがっかりした様子で首を横に振る。
沸点の低いカクタスガイストは、何度も地団駄を踏んで綾女につかみかかろうとしたが、アデリーンに制止されて情けない声を上げる。
「こ、このアマ……。さっきからありもしねえことばっか聞いてきやがって! 全部知らねーに決まってんだろう!」
「――そうでしょうね。あなたが
淡々と、しかし、間違いなく怒っている綾女から次々と鋭い指摘を受けて、カクタスガイストは目を細める。
「そーだぞ、いい加減認めなさいよ。とっくに
「サンボ―――――ッ!!」
蜜月が飄々としながらも、トゲのある口調で追い打ちをかけた。
歯ぎしりして手のひらからも血が出るほど拳を握りしめてから、カクタスガイストは大声で叫んだ。
「ああそうだよッ! オレはそこのビッチの彼氏だった、繁野大毅だよッ。オヤジに先立たれたって言うから、カワイソーに思ってあんなに支えてやったのに、クソくだらねー家族と! クソつまんねー夢なんかのために! このオレをフリやがってッ! ムッカつくぜええええええ! このアバズレがあああああああああああああああああ!!」
カクタスガイストこと大毅は、サボテンの怪人と化した身体でそのトゲだらけの腕を振るって備品を破壊。
首や肩の骨も何度も鳴らし、目もギョロギョロ回して身勝手でいびつな復讐心を露わにする。
「完全にイッちゃってるわね。人間のすることなの? これが……」
「気に入らねーから、全員ブッ殺してやる!! 綾女ェ! 無駄死にしたてめーのクソオヤジのようにな!! サンボーッ!!」
「……あなた、博士のことまでッ!」
綾女と竜平の父・紅一郎を侮辱すると、カクタスガイスト/繁野大毅はスチームを出しながらトゲをまき散らし、部屋の中を爆破し始める。
「危ない! 【氷晶】!」
死ぬことのないアデリーンは、その身で蜜月と綾女をかばいながらかけ声とともに変身。
爆発炎上を繰り返して赤々と燃える部屋の中で冷たく青い閃光が走り、一気に火を消した。
「零華の戦姫、アブソリュートゼロ!」
まばゆいその光に目をやられた上に寒気が走ったカクタスが、恐る恐る目を開ければそこには――青と白の強化スーツを着たヒーローが立っていた。
「ヒイイイイイイイイイ!? お、おおおお、お前はこの前の!? お前だったのかあああああああああ~~~~!?」
「報連相も満足にできないらしいわね? ヘリックスは!」
あれだけいきり立っていたのがウソのように、カクタスガイストはおびえて腰を抜かす。
逃げようとしたところを凍らされて、カクタスガイストは顔面――というよりも単眼を執拗に強い力で殴られた。
「ウギャアアアア……アギ、ウギ、ギギギギギギギ!? イデェ……! イッテエエエエエエ!!」
あらゆる神経と感覚が集中しているのだから、彼にしてみればたまったものではない。
あまりの激痛に、カクタスは両手で顔を覆ってしばらくうずくまる。
「……許せない。私だけを殺そうとしたならばまだしも、父のことまで侮辱するなんて。それだけじゃない、聞いたの。何の関係のない人々にまで勝手な因縁つけて、襲いかかってたってね」
薄々感付いてはいたのだが――。かつて付き合っていた男の、心身ともに醜い成れの果てを目の当たりにした綾女は、うつむいたままそうつぶやく。
彼女のそばにずっと立っていた蜜月もそうだし、大毅と戦っていたアデリーンも――言葉では言い表せないような顔をして、このことを残念がっていた。
「あなたはもう大毅君じゃない。人でありながら、人の心を捨てた怪物よ!」
顔を上げると、彼女は覚悟を決めた複雑な表情をして――大毅だったディスガイストの何もかもを否定した。
「か、怪物だとォ~~……!?」
「あんたさあ、綾さんを愛してたんだろ。彼氏だったんなら、綾さんの幸せを想うべきだったんだ。こんなバカげたマネはやるべきじゃなかったんだよ。なぜそれが分からない?」
「部外者に何が分かるゥ!」
「分かりたくもありません。アヤメ姉さんの想いを理解しようともしなかった、あなたのことなど!」
駄々っ子めいたパンチを繰り出したカクタスを、アデリーンが手刀で静める。
更には――綾女自身が備品だった破片を持ち、それでカクタスガイストを殴った。
今までアデリーンにも蜜月にも、ましてや家族の誰にも見せたことのないような鬼の形相だった。
「あなたとは今日限りで絶縁です」
「あ……綾女……ヴェッ」
綾女が改めて決別を告げたところで、ホテルのボーイが慌てた様子でやってくる。
テイラーグループの息がかかっているホテルなので、事情は把握済みだ。
アデリーンは綾女を片腕で抱き、ある準備に取り掛かろうとしていた。
「怪人が出たんですね!?」
「はい。あとは私たちが対処を」
「お願いします。お部屋は我々のほうでなんとかしますので!」
ホテルのボーイは、状況報告を行なうために去って行く。
蜜月が専用の銃――キルショットヴァイザーを用いてカクタスガイストを取り押さえている間に、アデリーンはエメラルドグリーンに光る強化パーツを取り出して、右腕の腕時計型デバイスにセットする。
それは、自動的に2つの環へと形を変えてデバイスを取り囲んだ。
「アヤメ姉さん。ビックリして私から離れないでね」
「え? ……わかった」
「【スパークルネクサス】……」
察した綾女は、アデリーンの言う通りに。アデリーンはデバイスを左手で触って、エメラルドグリーンの輝きに包まれて――青と白をベースとする強化スーツはそのままに、パワーアップ形態へと変身した。
淡い緑色のマフラーとスカートに加えて、コートも追加され、更に背中からは氷の結晶で出来た翼も生えてきている。
――その言葉にできない美しさに、綾女は息を呑む。
「ここから出ましょう!」
アデリーンは綾女をお姫様抱っこして、敵の攻撃の余波で割られた窓から飛翔する。
そして、ホテルの外に出て周辺の歩道に着地した。
「よっしゃあ、今行くよ! ドラァ!」
「サンボ――ッ!?」
そして蜜月は、散々キレ散らかしたカクタスガイストを投げ落として自身も飛び降りる。
それなりの高さだったが、暗殺者として鍛えていた蜜月にはどうということはなく――暴虐の限りを尽くさんとしていたカクタスへ報復するように彼のボディを踏みつける形で、そのまま着地する。
次にカクタスを銃撃してぶっ飛ばし、アデリーンや綾女と合流すると、ちゃっかりと確保して来ていた綾女の荷物を彼女に渡した。
「いい加減、ご自身の非を認めて罪を償ってください。それともまだ暴れ散らす気ですか?」
「う……うるさい! うるさいうるさいうるさいうるさい! うるさいんだよオオオ~~~~~~!!」
地面を叩きながら暴れ出すカクタスガイストを、愛想をつかした蜜月がキルショットで撃ち抜く。
毒素を含んでいたため、カクタスは体が痺れて動けなくなった。
「今だアデレード!」
「OK、これで終わりよ」
アデリーンが照準を定め、エネルギーを充填してから――より精密に、より強力になったアイスビームを撃つ。
「オーロラエンド……」
「ヒイイイイ!?」
その虹色に輝く極太アイスビームはカクタスガイストを貫き、凍らせてから粉砕して――大爆発を巻き起こした。
繁野大毅が使っていたビリジアン色のジーンスフィアは砕け散り、氷の破片と光の粒が極彩色に煌めいて舞い落ちる。
その光景は必殺技をお見舞いした本人も、見守っていた蜜月や綾女も、思わず感銘を受けたほどだ。
「季節外れの雪みたい……。いや、ダイヤモンドダストなのかな」
綾女が心を洗われたような感想を述べた一方で、体も心も、衣服もボロボロになった状態で大毅が横たわっている。
変身を解除したアデリーンが目を吊り上げて近寄り、彼を締め上げると、その顔を1発――いや、2発、3発と思い切りぶん殴った。
歯も欠けてしまったようだ。
「結局、あなたはアヤメ姉さんのことを愛してなどいなくて、自分だけしか
「う……! お、お、オブアアアアアアア」
「絶対にあなたを許さない…………」
「う、うへええええええあああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~ッッッッッ」
その言葉と行動には、義理の父たる浦和紅一郎を侮辱した事への怒りと、綾女に手を上げようとしたことへの怒りが込められていた。
そうしてアデリーンはおびえる大毅の罪状を書き込もうとしたが、その前に暗赤色のサソリのような怪人が姿を現す。
綾女は不安に駆られてアデリーンと蜜月に寄り添い、2人のそばを離れなかった。
「マガツ!」
「どうやらあんたが裏で仕組んでいたようだな! この選民主義のロクでなし!」
「おのれぃ! よくも俺の『愛などいらぬ作戦』を邪魔してくれたな! 覚えていろッ!!」
不本意ながら大毅を拾ったスコーピオンガイストは、右腕に持った杖をアデリーンたちの前に向けて怒りを示してから、大毅を雑に扱ってワープで去って行く。
――ひとまず、一同は息を吸って自分を落ち着かせた。
「蜜月ちゃん、あの怪人は――」
「
「いいのよ。あんな調子じゃもう、逆恨みする気力も起きないでしょう。もし何かあったら今度こそ――何も出来なくなるようにするまで」
「こ、怖ッ!? アデレード、顔が怖いよ!?」
だが蜜月と綾女の前でそこまで言い切れる辺り、アデリーンにはまだまだ余裕があった。
そのあと、アデリーンは専用バイクの後ろに綾女を乗せ、蜜月はその後ろにぴったりついて行く形で護衛して、3人とも浦和家へ戻り、竜平と小百合を安心させたという。
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