【第14話】カクタスは綾女を逆恨む

FILE096:オフの日の大騒動

 

「今日は1人っきり♪」


 黄金色の長い頭髪と青い瞳をもつ彼女……アデリーン・クラリティアナはヒーロー・【アブソリュートゼロ】である。

 オフの日であり、バディを組んでいる蜂須賀蜜月とも別行動であったため、1人でいる時間を作っていたのだ。


「これください」


「まいどありー!」


 気になっていたブランド物をポケットマネーで購入して、店の外に出ると紙袋を提げて鼻歌も歌って歩く。

 そのあとも食べ歩きとショッピング、趣味のツーリングを楽しむ。書店で漫画や小説に純文学の品定めをした後に、気になっていた本を買い、荷物をいったん腕時計型デバイス・ウォッチングトランサーの内部に広がる異空間へ収納。

 そうしてから、巷で評判のスイーツでも食べに行こうとしたその刹那。


「サンボオオオオオー!! ムっっっっっカつくぜ、このクソガキャアアアアアアアアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


 なんと、機械仕掛けの体でビリジアン色のサボテンのような姿をした怪人が暴れて街を破壊している姿を目撃したのだ。

 しかも襲っている相手は、日本の将来を担う若い男女のカップル――の、男性のほう。

 既に何度もなぶられて傷を負い、流血している。

 女性のほうは怖くなってその場にうずくまって泣いており、周りの人々は恐怖から逃げ惑っている。

 更に、同じように怪人から被害を受けたカップルがもう何人も見られる。

 ――そうとわかったからには、アデリーンとしても放っては置けない。


「や、やめてくれ……!?」


「うるっせ〜〜なこのダボがッ! てめーの耳が腐りそうな声なんざ聞きたかねーんだ! 暇を持て余したゲボカス野郎がのうのうと……このオレの前でイチャイチャしてんじゃねえや!!」


 頭は大きく赤い単眼と鋭いキバを持ち、全身がトゲだらけで関節や下半身など、ところどころに植木鉢の意匠が見られ、両腕が棍棒のように太いそのモンスターは相当頭に血がのぼっているようで、興奮気味にカップルの男性を罵っていた。

 もちろん止められるようなものなどいない。

 ――彼女・・を除いて。


「てめーをミンチにしてからそのアマも一緒に殺してやるからよォォ!!」


「し、死にたくない! でも、【すず】にまで手を出すな!?」


 すずとは、カクタスガイストに襲われている男性が必死で守っている女性の名だ。


「と、【トシくん】……」


「シワチンのクズヤローのくせして、その女の白馬の騎士様にでもなったつもりか! うぜーんだよ!」


 カクタスガイストがそうして暴力を振るうのに夢中になっている間に、アデリーンは徐々に接近する。

 目元は影がかかっていて見えず、その両手を義憤によって震わせていた。


「なぁんでオレばっかりこんな目にあわなきゃならねえなんてよォォォどうかしてるんだよおおお! フラれたオレと同じ苦しみをおめーにも味わわせてやる! 死ねぇえええええ~~~~~~~~ッッッッ」


「何やってるの、やめなさい!」


 目が血走ったカクタスガイストが腕を振り上げ、トシがすずの前で目を覆うように身を守った刹那、アデリーンがものすごい力を拳に乗せてカクタスへと叩きつけた。


「またトゲトゲのある相手かあ……。ともかく、早く逃げてください」


 騒然としていた周囲の人々は既に逃げ去った後で、彼女はひるませた敵と向かい合ったままトシとすずのカップルにそう呼びかける。


「だ……誰だてめー!?」


 血走って赤くなった単眼を見開き、金属製の歯牙をむき出しにした口が塞がらない怪人は、その金髪碧眼で長身の女性の姿を見て震撼する。

 まるで見覚えがない・・・・・・し、――!


「お見せしましょう。【氷晶】」


 サボテン怪人を足払いして少しだけ凍らせると、黄金の長髪をなびかせた彼女はポーズをとって、かけ声とともに変身。

 雪の結晶と王冠をモチーフとする、青と白の強化スーツを全身にまとうまでのそのプロセスはわずか0.05秒に過ぎない。


「ゲエェェェ!?」


 その美しく勇ましい姿を目の当たりにして、がくがくと、怪人が全身を震わせた。


「零華の戦姫、アブソリュートゼロ」


 カッコよく名乗りを上げた直後、アデリーンは目にも留まらぬ速さで徒手空拳を繰り出して怪人=カクタスガイストを宙へ打ち上げ、自身も飛び上がって追撃を加える。

 そうして地面に落とすとカカト落としをぶちかまして、敵も思わず汚い声で叫びたくなるほどの大ダメージを与える。


「か……かっこいい」


「危ないわよ、逃げて」


 逃げ遅れた市民に避難を勧告してから、アデリーン/アブソリュートゼロはまだ暴れようとするカクタスガイストを牽制し、マウントをとってからのパンチを乱打して更なる追い打ちをかける。

 途中で暴れ出して抜け出したカクタスは、へっぴり腰になりながらも両腕をグルグル振り回して、子どもじみた動きで反撃に出た。

 同時に体中のトゲもミサイルのように飛ばしてアデリーンを狙ったが、彼女はというと――。


「サンボーッ! サンボ、サンボーッ!」


「見切った……」


 それを読んでいたアデリーンは全身に冷たい氷のオーラを展開させており、紙一重で避けただけでなく飛んできたトゲをすべて凍らせて宙で崩壊させたのである。


「サンボ……なんでぇぇぇ!?」


「モノアイには……目つぶし!」


「イッデエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」


 攻撃をかわされて、反動でひるんだカクタスガイストは両腕で頭を抱えてショックを受ける。

 更にアデリーンは、ピースサインを作ってからの目つぶしも容赦なく繰り出して、まさしく会心の一撃をヒットさせた。

 ただでさえ痛いこの技を、目が1つだけ、つまりいろいろな神経がそこに集中している相手が食らったとなれば、想像を絶する激痛が全身に走ることは確実。

 次に青を基調とする光線銃・ブリザラスターを装備してビームを連射し、これ以上カクタスが攻撃を行なって街を破壊しないように身動きを封じにかかる。

 アデリーンが非道な敵への怒りと呆れをまじえて撃ったそのビームに当たったカクタスは、面白いように小刻みに苦しみ、悶えて凍った。


「さ、サンボ……サンボオオオオオ!?」


 銃をホルスターに挿したアデリーンは、深呼吸――。

 必殺の構えをとるとバイザー越しにカメラアイを青く光らせ、足元には雪や氷の結晶の形をした紋章を出現させる。

 わけがわからなくなったカクタスガイストは悲鳴を上げたが、もう遅く。


「ゼロブレイク!」


 ジグザグに高速移動して助走をつけ、ハイジャンプしてからの必殺キックがカクタスガイストへと炸裂。

 大爆発とともに氷の粒を降らせながら、カクタスガイストは倒された。

 敵が変身するのに使っていたスフィアが転がって砕け散り、誰が変身していたのか白日の下にさらされる。

 尻もちをついていたのは、ネルシャツに長ズボン姿の青年だ。

 アデリーンと戦って惨敗したためか、体も服もズタボロで、彼女を見てひどくビビっていた。


「ひ、ヒィィィイイイイイッ」


(あら? この人、どこかで――)


 そういえば前に写真で見たことがあったかもしれない。

 というか、思いきり見覚えがある顔をしている。確か以前にアヤメ姉さんが話してくれた――と、彼女がそこまで思い出したところで、青年は目を丸くして情けない悲鳴を上げて後ずさりし出す。


「うわぁあああぁ~~あああああああぁぁ~~!?」


「ま、待ちなさい!」


 直後、もっと情けない叫びを上げて青年は逃げてしまった。

 が、何か落としていったようだ。

 変身を解除したアデリーンは「ぷはぁー……」と、一息ついてからその落とし物を拾う。

 見たところアクセサリー用のネームプレートだ。

 しかし焦げている。


「DAIKI.S……ダイキ……」


 それにはそう書かれていた。

 そしてアデリーンは、少しの間熟考してから考えを整理し出す。

 彼女の脳裏の中で関連する記憶と情報が一気に思い出されて行った。


「つながった。脳細胞がトップギアだわ」


 笑顔で独り言ちた彼女は、ある確信を得たのだ。

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