第2話 謎の女の子

 俺は息を殺し草むらの中に隠れ、森の中でも分かる緑色の肌を持つ醜悪な姿をした小人、通称〈ゴブリン〉の背後に移動し、視覚外からゴブリンの頭部を狙い一撃で倒す。慣れた手付きで行っているが、一度ミスをしてしまうとゴブリンは仲間を呼ぶ習性があるため、周りを囲まれてしまい危機的状況に陥りやすくなる。そのため戦闘はできるだけ一対一で行い、素早く確実に終わらせなくてはいけない。


 「……ふぅ。今ので、この辺りのモンスターはいなくなったかな」


 それにしても、今日はやけにモンスターの数が多かったな。それに何か焦っていたようにも見えた。脳内でそんなことを思いつつも、ゴブリンの頭部から剣を抜き、念のため午後からはいつもよりちょっと狩り場の範囲広げておこうと考えていた。


 「さてと、魔石の回収に行くかな」


 俺は先程倒したゴブリンを含め、午前中に仕留めたモンスター達から魔石を回収していく。なんでもこの魔石にはいろいろな用途があるらしく、買い取りの価格も魔石の大きさによって違う。例えば、ゴブリンやコボルトのような小さなモンスターは大きさに比例して魔石も小さくなる。逆にドラゴンや大型の魔物になると手に入れられる魔石も大きいらしい。実際に見たことがないので、どれくらい大きいのかはわからないが。なんて考えていると、最後の一体の魔石の回収が終わった。


 「結構汚れたし、身体を洗って昼休憩にするか」


 考え事をいったんやめ、近くの川で返り血によって汚れてしまった体を洗い、近くにあった木の根元へ腰かけた。涼しい風が体に当たると同時に偶に、木々の間から暑い日差しがさしてくる。


 「日差しが強いな、夏も本番ってとこかな?」


 タオルで額の汗を拭き、ラディアからもらったお弁当を袋から取り出す。中身は食べやすいサイズに切ってあるサンドイッチだった。あいつ、あんな性格なのに、手先は器用なんだよなーと思いながらも、俺は黙々とご飯を食べた。


 「ごちそうさまでした! はぁーおいしかったー。やっぱりあいつの作るご飯最高だな」


 なんて、絶対に本人には言わないけどね、だって絶対調子に乗るから。と思いつつ、お弁当を片付け、午後からの狩りの準備を進めていると、不意に背後から視線を感じた。


 「誰だ!」


 俺は即座に態勢を整えて、剣を視線のするほうへ構え相手の姿を探した。この辺りのモンスターは全部倒したと思ったが、まだ残りがいたのか? と自分の索敵の甘さに腹を立てつつも、相手の存在に気付かなかったことに驚いていた。


 「…………」


 相手の反応はなし……か。そしたら、でいくか。俺は、剣を右手に持ちなおし左手を正面に伸ばし、魔法の詠唱をした。


 「そこだ! 風弾ウィンドバレット


 俺は、風の初級魔法を三つ放った。当然、敵の居場所が分からないためどれも適当に撃ったが、もしモンスターだった場合は、その場から逃げるか隠れずにこちら側に飛び出してくるだろう。また人間の場合は、その場に潜伏し続けるか、その場から奇襲を仕掛けてくるかのどちらかだろう。まぁ、魔法の威力は、当たっても少し痛いくらいのダメージしか与えられないので大丈夫だろう。


 「さぁ、どっちだ?」


 「いったぁ!」


 二つ目の魔法の放った場所から、バチンという音が発せられた後、少女の痛みを訴える声が遅れて聞こえてきた。


 「へ!?」


 今、痛って言った? もしかして、当たったのか? あの適当に放った魔法が!?


 しばらくすると、草むらの中から何かの紋章のついた、黒色と赤色のローブに身を包んだ白色のミディアムショートの少女が、赤くなっているおでこをさすりながら出てきた。それも、綺麗な赤と紫のオッドアイの目を涙で潤わせながら。


 「こ、この私を見つけ、さらに魔法まで当てるなんて、た、大した腕前じゃない! さてはこの国の宮廷魔導士ね?」


 目の前に急に現れた少女は、おでこをいまだに痛そうにさすりながら、まるで強敵を見るかのような顔をし、大きな声で話しかけてきた。


 「そ、それはどうも、ところでおでこは大丈夫かな? 結構赤くなっているみたいだけど」


 「だ、大丈夫よ、これくらい! でもここまで、私にダメージを与えるなんて、一体何の魔法を使ったの?」


 いや、言えねえぇ! こんなあからさまに自分に自信を持ってる奴に、風の初級魔法ですなんて言えないよ! しかもなんでこんな、ふっ久々に強敵に出会った、みたいな顔してんだよ。こちとらただの平民なんですけど! 


 「ええっと、風の中級魔法だよ! 確かに威力はそこまで強くないけど、ここまで無傷に近い人を見るのは初めてだよ! あと、職業は人に言うことができないんだ、ごめんね!」


 この言い訳は流石に厳しいか? 


 「へ、へぇ、中級魔法ね! た、確か中級魔法ってあれよね、半年に一度使える人が現れるっていうやつよね? 君が使えるのには驚いたけど、まだまだ修行が足りないって感じだわ! 職業については怪しいけど納得したわ」


 ふぅ、苦し紛れの言い訳が通じるのか、というか結構な頻度で中級魔法扱える奴、現れるんですね! しかし、なんでこんなに上から目線なんだ? どっかの誰かに似たような雰囲気を感じるんだが。


「ところで、こんな村から離れた場所に、君は何をしにきたの?」


 俺のその質問に対して、少女は聞かれたくなかったのか、ゆっくりと振り返り、この場から立ち去ろうとしていた。俺はこのまま逃すわけにもいかないので、今まさに気配を消しながら立ち去ろうとしている、少女の肩を掴んだ。


 「ちょっと待とうか! さっきの質問に答えてもらえるかな?」


 「ち、ちなみに、答えずに抵抗したらどうなりますか?」


 「さっきの魔法よりも強いのを君に使う」


 俺のその一言にビクッと身体を震わせ振り返り、またまた冗談でしょといわんばかりの顔を見せるが、俺は無言の笑顔で答えた。すると少女は観念したかのように、抵抗するのをやめた。


 「わかりました。話します」


 「そうか、ならよかった」

 

 俺は、にっこりとしながら少女の肩を離し、さっきまでご飯を食べていたところで話そうと言った。すると少女はどこか遠い方を見つめ、慌てて帽子をかぶり直した。その後分かったと了承し、木の根元に腰を掛け話し始めた。

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