第7話 卒業
年が明け、それから約三ヶ月の月日が過ぎ卒業式間近となった。
そこまでの間では秀二と神坂は問題なく
実はこの聖陵学院は進学校のため余り勉強の得意でない俊哉は猛勉強をしての合格へとこぎ付けたのである。
またマキ、明日香の二人もお世辞にも勉強が得意とは言えず体育推薦のような物も学校自体が行っていなかったため彼女ら二人も猛勉強をしたのである。
そのため、三人は受験ギリギリまで勉強漬けだったため練習はおろかボールにも余り触れていない状態であったためストレスは溜まりに溜まっていただろう。
受験後の三人の表情は全てが終わったような実に明るい顔であったという。
こうしてどうにか高校も希望通り決まり迎えた卒業式。
涙を浮かべるものや、4月から始まる高校生活に明るい希望を描く者。
様々な思いが漂う中、俊哉、秀二、神坂は確実に四月から始まる高校生活の楽しみで胸いっぱいになっていた。
校長の長い祝辞やお祝いの言葉など約一時間以上にもわたる卒業式は終わり、各自教室へと戻り担任の先生からの最後の言葉を聞いて晴れて卒業となった。
「また会おうな」
「高校でも一緒だね」
など卒業式の余韻を浸るように中学生活最後の会話を楽しむ学生たち。
卒業アルバムの最後の白紙部分に寄せ書きをするなど俊哉らも一緒に楽しんでいた。
そして一人、また一人と教室を後にする中、俊哉、秀二、神坂の三人も一緒に教室を出て卒業アルバムと卒業証書を手に正門を後にし歩いていた。
しばらく歩き、ちょうど三人が自宅へ行くために俊哉は右方面へ、秀二と神坂は左方面へと別れるT字路があり軽く挨拶をし、そのまま別れていこうとした時、秀二が言葉を発した。
「トシ」
突然の飛び止めに俊哉が秀二の方を見ると、秀二はグイッと卒業証書の入った筒を向け言い放った。
「あと一ヶ月で俺らは違う高校に進んで敵同士になる。俺と神坂は陵應、トシは聖陵に進んで同じ道へと向かっていく。グラウンドで会ったら、俺は容赦なくトシらのチームを叩き潰すつもりだから。覚悟しとけよ。」
「うぉぉ…叩き潰されるのか…」
せっかくキメた秀二のセリフに何とも情けない言葉を発する俊哉。
そんな秀二に対し俊哉はポリポリと頭をかき、少し目を閉じるとスッと目を開きながら話す。
「うん。俺も同じ気持ち。秀二と神坂のチームを叩き潰すよ。それまで待ってて。」
そう言い返す俊哉に隣でニッと笑みを浮かべる神坂。
秀二もまた、ニッと笑みを浮かべると卒業証書の入った筒をポンポンと自分の肩を叩きながら背を向け歩きだした。
「……待ってる」
そう一言ポツリと呟き俊哉に背を向け歩いていく秀二。
そんな彼に何かを感じたのか神坂が横に並ぶように歩き出し、チラッと秀二の顔を見ると一瞬驚いたような表情を浮かべるも、すぐにフッと笑みを浮かべ秀二に向かって話しかけた。
「寂しいって言えばいいものを。お前もあいつも。」
「今更言えるかよ…」
神坂の言葉に返す秀二の眼には零れんばかりのいっぱいの涙を浮かべており彼は必死に頬をつたわらない様に我慢をしていた。
そして俊哉もまた、二人が背を向け先を歩いているのを良い事に眼にいっぱいの涙を浮かべ、グイッと制服の袖でその涙を拭うのであった。
(三年間ありがとう秀二に神坂。この三年間俺は二人の後ろをただ着いていくだけだった。この二人と一緒なら楽に甲子園行けるかもとも思った。でも俺はそれじゃあいけない。自分の足で力で二人に追いつくって決めた。だからいつか二人のいる場所に、俺は這い上がってくる。それまで待っててくれ。)
歩いていく秀二と神坂の背中を見つける俊哉もまた、くるっと背を向け彼らの歩いて行った逆の方向へと歩みだしたのであった。
まさに今後の歩んでいくであろう道のように。
いよいよ始まる高校野球の世界。
ここに横山俊哉、村神秀二、神坂龍司の三人がまだ見ぬ扉へ向けて歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます