ホワイト・レディの魔力

 いまだに残念な気持ちは残ってるけど、今回のシノブの恋は失恋で終わっちゃった。逆転の可能性は最後まであると期待してたけど、高慢なお姫様と思い込んでいた愛梨が、あんな純情なツンデレ女とは参った、参った。コトリ先輩がユッキー社長のツンデレ愛と競うのを苦手にするのが良くわかったもの。


 あそこまで純情だったら、そうそうは勝てないよ。伊集院さんが魅かれ、最後に愛梨を選んだ気持ちもわかっちゃうものね。伊集院さんにはそんな愛梨が見えてたんだ。でもさぁ、この展開って、やっぱり、


『ホワイト・レディの呪い』。


 これだよきっと。コトリ先輩の時はユッキー社長まで飛び入り参戦しての大騒ぎになったけど、基本はシオリさんとの一騎打ち。二人に差がなかったのは何回も聞いてるけど、最後の決め手になったのはシオリさんの弱い部分だった気がする。


 ユッキー社長はコトリ先輩にかけられていた不幸の呪いに気づいたからシオリさんを選ばせたと言ってるけど、女神と言えども、そこまで人の心をコントロール出来ないはず。あの時の最後の選択は、やはり山本先生自身の意志だったに違いない。


 迷いに迷った山本先生が選んだのは、シオリさんを放っておけなかった気がするんだよね。一人を選べば、一人が泣くことになるんだけど、コトリ先輩ならなんとかなりそうだけど、あの頃のシオリさんは心配で仕方がなかったぐらい。



 シノブと愛梨の一戦は、ユッキー社長の突然の参戦部分がないだけで、似てる気がするのよね。伊集院さんは愛梨を想いながらも、友だち以上の関係になれない寂しさでいたんだよ。そこにシノブが現れたから、魅かれたんだ。


 途中まではシノブにしようと思ってたに違いない。そうじゃなきゃ、歴史談義から乗馬クラブまであれだけ回数のデートを重ねたりしないはずだもの。愛梨だってドイツに行って留守だったし。


 たぶんだけど、ドイツから帰国した愛梨に伊集院さんは会ったんだ。いや、会ったはず。愛梨のドイツ馬術留学は二人の婚約話の解消のためだから、それがどうなってるかを聞く必要があるものね。その時に伊集院さんはシノブのことも話したんだよ。プライドの高い愛梨のことだから、


『あら、そう』


 それぐらいの対応をしたと思うけど、きっとその時に愛梨は気づいたんだと思う。どれだけ伊集院さんを愛していたかを。愛梨だけじゃなく、伊集院さんも愛梨の反応に気づいた気がする。


 そこから伊集院さんは悩みに悩んだ末に愛梨を選んだんだよ。決め手は、このままじゃ愛梨は一人ぼっちになってしまうからでイイ気がする。歳も歳だし、長年想い続けた相手だもの。



 そうなると、あのホワイト・レディの真の魔力とは、長年燻っていた男と女の関係に火を着けるものの気がしてきた。それも大騒動付きでね。


 だってさ、だってさ、愛梨と伊集院さんの関係だけど、もしシノブが現れなかったら、下手すりゃ、ずっとあのままだったとしか思えないじゃない。伊集院さんはひたすら待つだけ、愛梨だって、いつまで経っても愛してる事さえ気づかないとしか思えないじゃない。


 シノブが現れたことで、愛梨は自分が誰を愛していて、誰が必要なのかわかり、一遍にあれだけ燃え上がることが出来たに違いないもの。愛梨さえ気づけば、後の二人は一直線ってところだよ。


 コトリ先輩の時はもうちょっと複雑だけど、コトリ先輩が現れ、山本先生との別れがなかったら、シオリさんが山本先生に再び巡り合うことはなかった気がする。だって、あの時にシオリさんが再登場した時は、コトリ先輩と山本先生を引っ付けるためだったって言うじゃない。


 ホワイト・レディの魔力が召喚した女は、燻っていた女の感情への着火剤みたいな役割を与えられるぐらいかな。男は一度は振り向いてくれるけど、最後は振り向き直して、元の鞘に納まるぐらいの展開。そんな事を考えてたらユッキー社長が大きな紙袋を持って現れ、


「シノブちゃん、ちょっとコレ見てくれる」

「なんですか?」

「お見合い写真。どう、この人なんてお勧めよ」


 山と積まれたのはユッキー社長がかき集めて来たお見合い写真で良さそう。


「けっこうです」

「コトリもそんなこと言ってたけど、売れ残りの会に入っちゃったよ」


 うるさいわい。まだ今年で三十歳。愛梨だって結婚したのは三十四歳じゃない。それと結婚はしたいけど、これは愛する人との愛の形の一つ。そこまでしっかり結ばれたいの思いの結晶なんだ。


 そう結婚するのが目的じゃなくて、本当に愛することが出来る人を見つけて、結婚と言う形まで持って行きたいだけ。それが恋じゃない。キスするんだって、アレするんだって同じよ。やるのが目的じゃないもの。そしたらコトリ先輩が、


「ほんじゃあ、売れ残りの会に入る決心がついたとか」

「そんな気はサラサラありません。次の恋でゲットします」


 でもね、悪い恋じゃなかった。むしろイイ恋だったと思う。これだけドキドキしたのは、ミツルの時以来だものね。今回は実らなかったけど、恋なんて何回してもイイんだ。そう恋花が実るまで何度だって出来るんだよ。それにしても愛梨のノロケは強烈だった。あれだけされると、シノブも強烈に思うよ。


「イイ男が欲しい」


 そろそろシノブもダイナマイトの炸裂が欲しくなっちゃった。よっしゃ、張り切ってシノブのダイナマイトを爆発させてくれる男を探すぞ。そしてね、もっとイイ恋やるんだ。ただしホワイト・レディを使って男を呼ぶのだけはやめとこう。失恋も恋だけど、やっぱり実る恋の方がイイものね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る