二回戦・三回戦

 二回戦は先攻の八位の山科選手がバーを落としてくれたからラクな展開になり、ゆっくり目に回って軽く勝利。神崎愛梨も七位の本田選手を圧倒して三回戦に進出。この会長杯のトーナメント方式は、予選に当たる一回戦こそ時間をかけて行うものの、二回戦からは、ほぼ連戦になってくるのが特徴。馬の耐久力も問われるぐらいで良さそう。


 二回戦が終わって、短い休憩の後に神崎愛梨の三回戦。相手はアジア大会代表の松本選手。先攻は松本選手だったけど、目の覚めるような快走を見せたんだよ。松本選手の実力は団体戦の時に知ってたつもりだけど、自馬になると一段と凄みを増し、


『四三・五一秒』


 ここまでの最高記録で、シノブの予選タイムを上回ってた。そうそう、会長杯の二回戦からはトーナメント方式なんだけど、一回戦の上位選手が後攻に回るシステムになってるんだよね。


 先攻と後攻のどちらが有利かは微妙なところがあるけど、先攻の選手がシノブの二回戦の時のようにミスしてくれたら後攻はラクになるとは思うけど、神崎愛梨の三回戦のように先攻が良いタイムを出すとプレッシャーが逆にかかるかもしれない。


『対戦者、神崎愛梨、馬はメイウインド、甲陵倶楽部所属』


 スタートの合図がかかると神崎愛梨はスピードに乗って第一障害へ。一回戦、二回戦の時とは明らかにスピードが違う。高く舞い、鮮やかに着地すると、見事な方向転換。見る見るうちに全障害をクリアして。


『四〇・七三秒』


 でもシノブには見えた気がする。あれだけ走らせても神崎愛梨とメイウインドには余力がある。あれでも全力でないはず。決勝で会いまみえれば三〇秒台勝負になるのは確実だわ。


 その前にシノブの三回戦。相手は栗岡選手。団体戦の時と同じ組み合わせ。馬場に向かう途中で小林社長が、


「勝てば決勝でっせ」

「社長、金杯で乾杯しましょ」


 栗岡選手も気合が入ってた。団体戦の貸与馬では苦戦してたけど自馬となると違うはず。ここのトーナメントの特徴だそうだけど対戦前に相手選手と話をする時間が作ってあるのよね。


「今日は前のようには参りませんよ」

「お手並み拝見させて頂きます」


 栗岡選手も団体戦の時のリベンジに燃えてるのはよくわかる。競技が始まるとさすがの切れ味。次々に障害をクリアしていく。今日は絶好調みたい。


『四二・一一秒』


 松本選手も上回る時計を叩き出した。シノブはテンペートの耳元で、


「ちょっと気合入れるね」


 こうささやくと、


『わかってる』


 こんな感じの反応が伝わってきた。そしてスタート。まずは第一障害でオクサー。これは一番低くて一四〇センチで小手試しってところ。そこから右に進路を変えて一五五センチの垂直。


 ここからグルッと左に回り込んで、百五十センチのオクサー。ここから直進して垂直のダブル・コンビで二個目が百六十センチ。ここから進路を左に変えて一五〇センチのオクサー。


 第四障害のダブル・コンビから第五障害、第六障害の一七〇の垂直、さらに第七障害のオクサーまでは障害間の距離が長いからタイムを稼ぎたいところ。テンペートは快調に飛ばしてくれてる。


 第十二障害のオクサーを越えると最終障害がトリプル・コンビ。高さはいずれも一七〇センチで、最初が垂直、次が幅一八〇センチのオクサー、三つ目が幅二メートルのオクサー。これを飛び終えるとフィニッシュ。


『四十・九七秒』


 勝った。これで決勝だ。テンペート、よくやった。会場にもハイレベルの戦いにどよめきが。もう三回走ったからシノブはもちろんだけど、テンペートもコースも馬場の様子も覚え込んでくれてる。


 でもこれは神崎愛梨とメイウインドも同じのはず。そして決勝は神崎愛梨が先攻。ここまでシノブとテンペートの走りを見てるから、全力で時計を縮めにかかってくるはず。でもシノブとテンペートは負けないよ。かならず勝ってやる。

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