第3話
「それじゃあ行ってきまーす!」
「おう、行ってらっしゃい」
「いってらー」
「行ってらっしゃい」
3人の声を背にまた僕は出掛けた。
それからあの小屋を探索したが大したものはなかった。小さなベッドがが一つとベッドの側に置く小さな机、それに籠が2つたったそれだけだっだ。中に入って確認しても何もなく、古くなっているためか変な臭いがした。
俺は好きな匂いじゃ無かった為調べるだけ調べたらさっさと出た。
他の離れた2軒も同じ感じで直ぐに調べ終わる。
「どうしよう・・・本当にやることがないんだけど・・・」
さっき勢い込んで出たばかりの為戻るのもどうかと思う。結局1人ではすることを思いつかず街中を歩き回る。結局昨日はあんまり見れなかった南側に行ってみるが本当に興味を惹かれるような物はほとんどなかった。
唯一気になった駄菓子屋は少し入ってみたけどお金を持っていなかったのですぐに帰った。買えないのに見ているのは嫌だったからだ。
「ただいまー」
「おかえり。もう帰ってきたんか?」
家に帰ると祖父が再び庭で草取りをしていた。
「うん。あんまり気になる虫がいなくってさ」
「そうか・・・確かに最近はあんまりいねえかもな」
「うん。それで今日は宿題でもしようかと思って帰ってきたんだ」
「そうか。分かった。まぁゆっくりしていくといい。楽しみ方は人それぞれだからな」
祖父はそれだけ言うと草むしりにまた戻った。
僕は家の中に入ると母が今で扇風機を独占して寝ていた。どれだけ寝るんだと思いつつも起こすのは悪いと思って2階に上がる。
「はぁ。初めてこんなに早く暇になった気がする・・・」
俺は窓から入ってくる空気だけでは足りず扇風機を全開に回し宿題を減らすために頁をめくった。
「はぁ~つまんねぇ」
俺の言葉は空気に溶けた。
******
その日の夜。母は再び友達と飲みに行くとかで居なかった。その為夕飯は昨日と同じ3人で摂ることになる。俺は少し寂しく思いつつも祖父と祖母にだんだんと慣れ始めていた。
「今日この町を色々回ったんだけど何かいい場所とかない?」
今日の夕飯は昨日の様に気合は入っていない。祖母の愛もこれで十分に伝わってきた。その愛を感じながら食事中に話しかける。
「いい場所ってどういうこった?」
「この島はいい場所だと思いますけれど・・・」
祖父と祖母はお互いに顔を見合わせて考えている。
「なんか子供の俺でも楽しめる場所とか・・・てかこの島の子供って何処にいるの?せめて一緒に遊べたらいいんだけど・・・」
俺の言葉にこちらを向き直っていた二人はまたしても顔を見合わせる。祖父が頭を掻きながら話し始める。
「あーそうだな、確かそろそろ終わって遊べるようになる時期だったよな?」
「そうですねぇ。大島に行っていた子達もそろそろ帰ってくるころだと思いますよ」
「え?普段はここに居ないの?」
「そりゃああんまり数が居ねえからな。大島っていうここらを纏めるでけぇ島があってよ。そっちの方が教育とかもしっかりしてるしって事であっちに行ってる子ばっかりなんだよ」
「そうなんだ。じゃあ友達とか作れないんだ」
折角あんなにいい海があるなら友達と一緒に遊んだり森で秘密基地作ってみたりしたいなって思っていたのに残念だ。
その様子を見てか祖父が慌てたように取り繕う。
「大丈夫だぞ。ばぁさんがさっき言ったがその子達が何人か帰ってくるんだよ。それで明日また海か森に行ってみろ。多分いるからよ」
「うん。分かった」
それからは、食卓に居ない母の、昔はお転婆だったという話や僕の友達の話をして過ごした。
その日の夜寝ていると暑苦しさから起きてしまった。少し水を飲もうと思って下に降りる。
「はぁ、やっぱクーラーが恋しいなぁ。暑すぎて嫌になる」
誰にも聞かれてない独り言を呟きつつキッチンの水を飲んで、再び2階に上がる時どこかで子供の笑い声がした。
「?」
不思議に思って足を止めて耳を澄ませる。だけど気のせいだったのか何も聞こえない。再び足を動かすとやはり聞こえた。
『きゃはは』
「!?」
余り大きな音ではなかったけれど確かに聞こえた。聞こえた方はどっちだ?と思って再び耳を澄ますが聞こえない。
「何なんだ?」
気にはなりつつも部屋に帰ってタオルケットを被り、足は出さずに眠った。
******
次の日の朝に起きると母がまた酒臭い状態で横に寝ていた。出掛けて行った時のとてもラフな恰好で寝相が悪い為タオルケットも剥ぎ取っていたのでお腹が思いっきりはだけていた。俺は母のタオルケットをお腹に被せて下へと降りた。
食事を終えた俺は今度こそと勢い込んで海へと向かう。昨日ほど街並みを見ながら行ったわけではなかったので5分もしない内に到着した。
今度は直ぐに飛び込んだりせずに砂浜を見回す。すると遠くに俺と丁度同じくらいの子供達を発見した。
「ホントにいた!」
俺は喜んで彼らの元まで駆けていく。
「ねえ!何やってるの!?」
俺が声を掛けると3人はそろって俺の方を見た。
「誰だお前?」
その中で代表して体の大きな奴が俺に問いかけてくる。
「俺は?俺は大地!夏休みの間だけこっちに来ることになってさ。でもゲームとかもなくて何したらいいか分かんないから色々教えてくれよ!」
「はぁ?何でお前なんかに教えなきゃいけねえんだよ。あっち行ってろ」
「えーいいじゃん。こっちじゃすることなくて退屈で暇なんだよー」
「ふざけんな。そんなに暇なら一生泳いでろ」
「そんな事言わずにさー」
「だったらあの高台から飛んでみてくださいよ。それが出来たら一緒に遊んであげましょう」
そう言ってきたのはでかいやつの後ろに隠れていた俺と同じくらいの子供だった。その二人はTシャツに短パンで俺と同じような恰好をしている。少し違う点といえば長い間外にいたのかかなり日焼けをしているということだろうか。
「え、でもあそこは危ないよ」
そう言ってくれるのは3人の中でたった一人の女の子で真っ白なワンピースを着ていて肌は綺麗な小麦色、だけど男の子よりも薄っすらと焼けているようだった。俺よりも少し背が高く年上かもしれない、素直に可愛いと思ってしまう。
「高台ってどこの?」
俺がそういうとでかいやつの後ろに隠れている奴が俺の後ろの方を指さした。
俺は振り向きそちらの方を見ると確かに高台と言われるくらいの岩があった。
「じゃあ今から飛んでやるから行こうぜ!」
俺は張り切ってそこへと向かう。
「え。まじかよ」
中くらいの奴の呟きを聞き流しさっさと行くと後ろから彼らがついてくる足音が聞こえる。
岩場の目の前に来ると意外と高く見える。しかし、ここで止まる訳にはと思って道を探しながら登った。
「止めるなら今のうちだぞ!」
「ホントに行くんですか?」
「危ないよ!」
でかい奴、中くらいの、女の子がそれぞれ止めてくれる。
だけど俺は止まらなかった。
「っ!!!」
一番上から見下ろす景色は希望と絶望が詰まっていた。ここに座って景色を見渡すだけなら素晴らしいだろう。だけどこれから飛び降りることを考えるとたまらない。
「本気で危ねぇって!」
「冗談ですって!謝るので降りて来てください!」
「降りてきて一緒に遊びましょう!飛べなくたって恥ずかしくないから!」
俺は一度彼らの方を見て皆の心配そうな顔を見る。それだけ見ず知らずの俺のことを心配してくれるってことは、それだけ飛べたらかっこいいって事だろう。
俺は彼らに向けてニッと笑い下を見る。そこは波が当たっては砕け白い泡が立ち上っていた。そして俺はもう一度彼らの方をちらりと見てから飛んだ。
「うわあああああああ!!!」
浮遊感が全身を包む。それに抗おうと何かを掴もうと手を伸ばしても何も掴めない。何も出来ずに落ちていく恐怖から情けない声が出る。
じゃぼん!
大きな音を立てて俺は海に落ちた。
「「「・・・」」」
三人は何も言えずにそれを見ていた。ただ黙ったまま数十秒が経った時でかいやつが声を上げる。
「おい、あいつ浮かんで来ねえぞ!」
その声に弾かれたように三人は彼が落ちた場所へ急ぐ。
ここは・・・どこ?目の前を真っ白い泡が漂っている。更には小さい魚も泳いでいた。今度は逃げられないようにそっと見るだけにとどめた。
(あれ?俺何やってるんだっけ?)
なんだか少し前の記憶がない。そして足が痛い気がする。なんかぶつけたっけ?そんな事を考えていたら何かに引っ張られ上に連れていかれる。
(何何!?抵抗出来ないんだけど!?)
引っ張り上げられる力は強く為すがままになった。そしてそのまま数秒もすると。
ざばぁ。と見渡すばかりの水面に出た。
「ホントに飛ぶなんてすげぇな!?」
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫?どこか怪我とかしてない?」
浮かびながら俺に話しかけて来るこの3人は誰だ?と思うが少しして思い出す。そうだ。俺は見せつける為に飛んだんだ。
そう思って飛び降りた岩を見る。上はとても高く、よくもあそこから飛び降りたもんだと自分でも感心する。
「おい!大丈夫か!?」
でかいやつが俺の顔の前で手を振る。
「あ、ああ。大丈夫・・・」
「泳いで戻れるか?」
「大丈夫だと思う」
「先にいっておけ、俺が後ろから見てるからよ」
「うん」
頭がふわふわして未だにあそこから飛び降りたなんて信じられない。それでも体は動くようで俺の前を先に行く中くらいのと女の子の後を追う。
砂浜に上がると息を整える。心臓がバクバク言っている。
バン!
「痛っ!」
唐突に背中を叩かれた。
何事だと思って振り向くとでかいやつがいい笑顔で俺を見ていた。
「お前まじですげえな!あれを飛べるなんてもっと上のやつじゃなきゃ出来ねぇよ!あっと俺はタクミだ。よろしくな」
「無茶言って悪かったよ。僕はケン、仲良くしてくれ」
「私はミカっていうの。一緒に遊びましょう」
3人はいきなり自己紹介してくる。さっきまでの態度とは裏腹だ。でもあれだけの事を成し遂げたのだ。それだけ凄いことだったのだろう。そう思うと自信が湧いてくる。
「うん。よろしくな!」
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