サネッティ

第1話 序詞

朝8時に起き最初に歯を磨く、そのあと顔を洗って鏡を見る。茶色がかった少し癖っ毛のある髪型をした冴えない青年がいる。そんな青年とはさよならしてダイニングテーブルに置いてある朝食を食べる。

今日は目玉焼きにベーコン、サラダとご飯。目玉焼きは完熟でないと食べれない。健太なりのこだわりだ。

暇だから朝のニュースを見る。

「東京税関 違法薬物の押収量が去年の4倍……」

「ハーブだの大麻だのよくわかんねぇわ」

朝食を食べた後普通なら高校の制服に着替えて家を出るが健太はそのまま部屋に戻りオンラインゲームを始める。

「もうすぐシーズン終わっちゃうからなー。今日は徹夜だな」

リビングを出ると廊下がありその廊下にはたくさんのトロフィーや賞状が飾られている。

「あれから1年か。俺も健人みたいにサッカーしてぇーなー」

健太は弟の健人と同じサッカーチームに所属していた。しかしある大会で健太は膝を壊し、渋々サッカーから身を置くことにした。

「過去は過去だ。思い出すな」

しかしその事実はサッカーを本気で愛していた健太に重くのしかかってしまい不登校になってしまった。




あれから時間が過ぎ夕方に差し掛かろうとしていた。仕事をし終えた母の美代子が買い物袋を手下げて帰ってきた。

「ただいまー」

「……」

「またゲームか、」

健太はいつもヘッドホンをつけてゲームするため美代子の声が聞こえないのだ。

そのことについては美代子も気には留めていないが、帰宅時に迎えられる声がないと寂しいものだ。

美代子は慣れた手つきで夕飯を作りダイニングテーブルにお皿を並べる。

するとドアの開く音がした。

「ああ、おかえり」

「……」

健人がサッカーから帰ってきた。

「どうだった?練習」

「うん」

最近健人の様子がおかしい。朝起きたときは普段通りだが練習帰りの健人はどこか気が抜けていて熱に浮かされているようだ。

「最近なんだかおかしいよ?熱でもあるの?」

「いや別に」

返事もどこか上の空だ。

「そう、ご飯できるから先に食べてしまってね」

「……」

健人は昔から健太と同じサッカーチームでプレーしていた。しかし健太の怪我によりブランクが続き、

いつしかレギュラーメンバーから遠退いてしまったのだ。

「あ、おかえり」

「......」

健太が自分の部屋からリビングに戻ってきた。

「健太、ご飯できてるから食べてしまって。私やることいっぱいあるから早く片付けたいの」

「うん。健人は?」

「まだ食べてないわ。どこか具合が悪いのかも」

「最近ずっと具合悪そうだね」

健太も健人の容態は確認していたらしい。

「自殺でもするんじゃね笑」

「こら、そういうの本当にやめて」

美代子自身も健人のことをすごく気に留めているらしい。なんせ健人がこういった状態になるのが初めてだったのもあるが、元々健人自身はすごく明るく活発な性格で友達からも信頼を寄せられているため余計に心配が強くなる。




「ちょっとコンビニで文房具買ってくる」

そう言って健人が家を出たのが19時過ぎぐらいだった。

「ちょっと健太、健人の帰り遅くない?」

「そう?友達と遊んでるんじゃね?」

時刻はもう21時を過ぎ、もうすぐで22時に差し掛かろうとしていた。

「あんたあの子まだ中学2年生なんだから危ないわよ。探しに行ってきてくれない?」

健太の父親は単身赴任で1人北海道で働いている。

そのため今頼りになるのは高校2年生の健太しかいない。

「わかったよ、近くのコンビニだろ?」

「多分そうだと思うの。一走り見てきてほしいわ」

渋々了解し、健太は寝巻きのジャージのままサンダルを履き家の外にでた。

あたりはすっかり暗くなっていて生暖かい風が健太の肌を掠っていた。

「どこにもいねぇじゃねぇか」

健太はコンビニまでの通り道である公園や広場を探したり、コンビニを数カ所周るが健人の姿が見当たらない。

「なんだ、友達の家か?」

そう思い家に帰ろうとした途端、

「近くで中学生くらいの男の子が飛び降り自殺だって」

コンビニの客が話しているのが耳に入った。

その瞬間、健太は血の気が引いた。

嫌な予感しかしなかった。

「それ!その話、どこであった話ですか?」

「ああ、何でも近くの高層マンションらしいんだ」

健太は感謝の言葉もいわずにただ覚えのあるマンションを周った。サンダルを脱ぎ捨て裸足で走り、途中なんどもクラクションを鳴らされたが、今の健太には何の情報も入ってこなかった。しだいにサイレンの音が聞こえ、そのマンションに人の集団ができているのを発見した。

健太は人混みの中を乱暴に入り込み騒ぎの原因を目の前にする。それは健人の変わり果てた姿だった。

「健人!!!!!」

テープを乗り越え、警察をはがし健人の下へたどり着く。

「どうなってんだこれ......」

健人の首は90度まがり、片目が飛びだし頰がえぐれている。そして至るところから血が溢れ、何やら割れた頭から何かが飛び出している。

「君!下がって!」

「なんでだ!これは健人だ!俺の弟だ!近づくな!」

「彼は君の弟さんなんだね?」

「そうだよ!さっきから言ってるだろ!」

今の健太は情報を処理できる頭ではない。

「何でだ!?どうしてこうなった!?教えろ!教えろよ!」

健太は顔をぐちゃぐちゃにしながら警察の胸元を掴み大声を張り上げていた。

「どうして、、どうしてなんだよ健太......」








後から警察の調査が入り親に連絡、美代子は電話越しでさえ理性を保てていなかった。健人は自殺だった。しかし健太は自殺と認めていない。

なぜなら、健人の死体から薬物が検出されたからである。

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