人生

サカイヌツク

第1話 懇意にして頂いている先生との別れについて

 2020年8月中旬の或る日のこと。


 僕には普段から懇意にさせて頂いていた作家先生が居て。


 彼との付き合いもかれこれ五年に亘るかと思う。


 2020年8月中旬の或る日のこと――


 この日も僕は普段から耽溺しているチャットで先生や他のみんなを交え雑談していた。

 雑談が主体のチャットだが、時には創作議論も交わすし。

 時には、人生について相談し合う。なんてこと侭あった。


 僕と先生は用もないのに朝から晩までチャットに居座り続けている仲だった。


 先生と会話する時間はとても楽しかった。


 それは五年にわたっても尚変わらない娯楽で。


 今も僕はそのチャットに入室して、先生やみんながやって来るのを待っている。


 先生は信望の篤い人だ。

 普段はお道化るように冗談しか発言しないし、中には性質の悪い冗談もしばしば。

 けどチャットなんだし、そう言った冗談で気を許し、笑うのが正解なんだと思う。


 その上で、先生はチャットに訪れる僕のようなワナビに助言や冗談を与え続けた。


 ほんの一時のこととはいえ、先生の発言で報われた人もいると思う。


 僕もその内の一人だ。


 苦しい状況に陥った時、先生に助言を求め、心を安らげていた。


 しかし、彼と僕とで決定的に違うものがある。


 それは生まれて来た時代が違った。


 年齢的に言えば、先生は僕よりも先にこの世を去るだろうし。


 何より先生が、次のステップに向かおうとしている。


 先生はホラー小説でデビューし、その後ノベライズやキャラ文で本を出し続け生計を立てていたけど、次はラノベを出すといい、小説家になろうに一本の長編を投稿し、書籍化の打診を受けていた。


 ラノベを無事に書籍化出来れば、彼は本望なようだ。

 だから次のステップに向かう。


 その意思をチャットで少し仄めかされた。


 そして、極当たり前のことを僕は感じてしまった。


 いつか来る先生との別れについて。


 2020年8月中旬の或る日、僕は彼との離別を気取り始めた。


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