第13話 暴走

「転倒の衝撃で前額部に亀裂発生! 被害甚大!」


「シンクロ率低下、動作不能!」


 その様子の一部始終を見ていたアラタは、何をすることもなくただ突っ立っていた。


「自爆で終了か。これじゃあ、さっきの話は流れちゃうかな? しっかし、転んで頭打って終了なんて本当に何しに来たんだコイツは」


 その時異変が起きていた。完全に停止していたゴーレムが突然動きだしたのである。

 このゴーレムを造った『アルケー』のメンバーからすれば喜ばしいことのはずなのだが、どうも彼らの様子がおかしい。


「初号機再起動! そんなバカな! 動けるはずがありません!」


「停止信号を送れ!」


「……ダメです! こちらの命令を拒絶しています!」


「そんな……まさか……暴走!?」


 ヘルメたちが青ざめる中、メタルヴェリオン初号機は自身の両足でしっかり大地に立ち、口部を大きく開き雄叫びを上げた。


『グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』


 それはまるで獣のような叫びだった。叫び終えると、暴走したゴーレムはアラタを睨んだ後、その場で彼目がけてジャンプし空中で前方に一回転しながら踵落としをしてきた。

 アラタはそれをバックステップで避け、標的を逃した蹴りはリングの舞台を破壊した。


「うおっ、なんつーパワーだ! 一蹴りでリングを破壊するなんて! それにさっきまでとは動きがまるで違う! いったいヤツに何が起きたんだ!?」


 アラタがヘルメに状況説明をお願いすると、彼は目を輝かせながら無理難題を言ってきた。


「初号機は既に我々のコントロールを離れ、暴走している! しかし、非常に興味深いデータが取れている。君はこのまま初号機と戦ってくれたまえ! こうなってしまった以上、命の保証はしかねるが報酬ははずむぞ! 健闘を祈る!!」


「なんじゃそりゃあ!? 無責任にも程があるじゃないか!」


 アラタとヘルメが口論をしていると、初号機が勢いよくアラタに突っ込んできて、パンチや蹴りを次々に繰り出す。

 アラタはそれを紙一重で躱し続け、しまいには暴走する初号機の腕を掴んでそのまま投げ飛ばした。

 

「何っ!? 初号機を投げ飛ばした!? なんて出力だ、あいつにはどんな動力が積まれているんだ!?」


「動力なんてないから! 普通に人間だから! ヘルメさん、これ以上こいつが暴れると、この施設が壊されるかもしれない。今から俺はこのゴーレムを破壊する! いいよね!?」


「やれるものならやってみるがいい! メタルヴェリオンのボディは耐魔術用超強靭合金並びに耐魔術用術式付与型防壁と同じ材質で出来ている! そう簡単に破壊できるものか!」


「その割には転んで簡単に頭割れたじゃん」


「このリングも同じ材質で出来ているから、頭打った時に術式が反発しあって壊れたんだよ!」


「そうですか。とにかく、こいつはさっき俺が破壊した壁と同じもので出来ているんですよね?」


「だぁ、かぁ、らぁー! 耐魔術用超強靭――」


「とっとと終わらせてギルド登録を済ませないとな! 白零びゃくれいかいな!」


 アラタは右腕に白色の魔力を集中させ、メタルヴェリオン初号機に突っ込む。全高五メートルの巨人もまた二メートル足らずの人間に向かって体当たりを敢行した。

 勝負は一瞬で決まった。魔力を込めたアラタの右腕は、強靭なゴーレムの腕を破壊し胴体に風穴を開けた。


「え? あれ? 我々のメタルヴェリオンが…一撃でやられた?」


「だって、こいつはさっき俺が一撃で壊した壁と同じもので出来ているんでしょ? それなら同じような攻撃でこいつも破壊できるのは当然じゃないですか」


 胴体を貫かれたゴーレムはそのまま仰向けに倒れ、今度こそ機能を停止した。錬金ギルド『アルケー』のメンバーが、ゴーレムの周囲に集まりアラタに背を向ける。


(皆で一生懸命造ったゴーレムだったんだよな。それが目の前で壊されたらショックだよな)


 アラタがうずくまる彼らに一言謝罪をしようと近づくと彼らは、悲しむ素振りも見せず反省会をしていた。


「だから、もっと装甲を厚くした方が良かったんですよ!」


「そんなことしたら重くなって跳ぶことが出来なくなるじゃないか!」


「もっと良質の魔石を核にして出力を上げないと話にならないよ!」


 全くめげていない彼らの姿を見てアラタはその場でずっこけてしまう。


「逞しいな、あんたら! 少しは初号機をいたわってあげなさいよ!」


「ふん、大きなお世話だ! 心配せずとも、今回の敗北原因を検討しメタルヴェリオンを改良する予定だ。その時はまた貴様に相手役を依頼する」


「それってギルドへの依頼ですか? でも、俺たちのギルドは申請中で認められるかどうかはまだ分からないんですよ」


「メタルヴェリオンに一撃で勝ったんだぞ! 貴様の魔闘士ランクは少なくともSランク以上だ! そんな魔闘士がいるのなら確実にギルドの申請は通るに決まっている! 万が一通らなかったら我々のギルドに相談に来い、我々ならギルド協会にそれなりに融通が利くからな!」


「ありがとう、ヘルメさん」


「礼などいらん! 次は必ずメタルヴェリオンが勝つ! それと今回の報酬だが、困ったことがあれば我々のギルドを訪ねろ、協力は惜しまん! 以上だ!」


 錬金ギルド『アルケー』はメタルヴェリオン初号機を回収し、自分たちのギルドホームに戻っていった。

 それを見届けたアラタたちはリクルートと一緒に支部長室に戻り、間もなくアラタの魔闘士適性試験の合格証明書を受け取るのであった。

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