第243話 ウェパルの嘲笑②

 その時、1人の男がウェパル目がけて突っ込んでいった。大剣に自らの魔力で発生させた炎を纏わせ、人魚の女性に斬りかかっていく。


「とにもかくにも、こいつを倒さなけりゃ何をやっても振り出しに戻されちまう! 俺がぶった斬る!」


「あらあら、こんな可憐な乙女を傷つけようなんて酷い人。でも、それはそれで興奮するシチュエーションですわ!」


「やかましいんだよ、この変態女! 燃えろ!!」


 スヴェンの炎の斬撃がウェパル目がけて振われるが、大剣が彼女に当たる前に先手を取られた。

 スヴェンの真下に魔法陣が出現し、そこから噴出した水柱が彼を襲い身体の自由を奪う。


「水系魔術の中級〝スプラッシュ〟ですわ。本来は水圧で敵を吹き飛ばす術ですけど、応用すればこんな事もできますのよ」


 クスリと笑いながら、ウェパルが掌をスヴェンに向けると、彼の下方の湖面にいくつもの魔法陣が展開され、そこからスプラッシュが複数噴出する。

 だが、今回放たれた水柱は曲線を描きながら素早いスピードでスヴェンに向かって行った。

 スヴェンは変則的な動きをする水柱をエアリアルで次々と回避する。だが、気が付けば彼はスプラッシュの群れに取り囲まれており、そこには回避する隙間は無かった。


「くっ! いつの間に!」


「はい、たーんと召し上がれ」


 スヴェンを取り囲んでいた、水柱が一気に彼目がけて襲い掛かる。回避不可能と判断したスヴェンは全魔力を防御に集中させ、ウェパルの攻撃を受けた。

 無数の水柱による水圧は、彼を容赦なく圧縮し潰しにかかる。炎と水という属性の相性の悪さも相まって、豪炎の勇者は圧倒的不利であった。

 状況を危険と判断したセス達が救援に入ろうとした時、スヴェンを襲っていた水柱に異変が生じる。

 ぼこぼこと音を立てて沸騰し始めたのだ。そして、その音がますます強くなった瞬間、水柱が爆発し、湯気の中から炎のオーラを纏ったスヴェンが姿を現した。


「炎を甘く見るなよ……高温の炎で熱せられば水は蒸発して消える! 俺の炎で消滅しろ! ウェパル!」


 スヴェンは大剣に纏わせた炎を斬撃波としてウェパルに放つ。真っ赤な炎が直撃し、水面に炎が広がっていく。

 その熱波はセス達の所にも届き、スヴェンの放った炎がとてつもない高温である事を物語っていた。

 スヴェンは空中から敵の状況を探るがウェパルの姿は何処にも見当たらない。


「くそっ、逃げられたか!? 何処に行った!?」


 すると彼の足に何かが絡みつき、下に引きずり降ろそうとしていた。驚いたスヴェンが自分の足を見ると、水中から水で構成されたツタのようなものが彼の足に絡まっているのが見える。


「今度は何だ!?」


「ふふふふふ、掴まえましたわ」


 水中からウェパルがゆっくりと姿を現した。彼女は無傷であり、先程のスヴェンの斬撃は彼女に届いていなかった事を示している。


「くっ! やっぱり当たってなかったか」


「あのような攻撃、水中に避難すればなんて事はありません。周囲に水が豊富にあるこの戦場では、あたくしに勝てる者はいませんのよ!」


 そう言い放つと、ウェパルはスヴェンを湖面に引きずり下ろし、両手に出現させた水の鞭で彼を打ちつけ始めた。


「はぁ……ん、たまりませんわ、この感触! このウォーターウィップで徹底的に調教して差し上げてよ!」


「いてててて! ちくしょう、離せこの変態! 一体お前は何がしたいんだよ!?」


「ふふふふふふふはははははははははっ! さあっ、あたくしに屈しなさい!!」

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