第241話 起死回生

 ガーゴイルの両腕の刃に灰色のオーラが満ちていく。殺意と魔力の二重奏がロックに襲い掛からんと、その力を高めていく。


(やべぇな……、あれをまともに受けたら終わりだ。あの攻撃に対抗するにはどうすればいい? 今、俺が出来る獅子王武神流ししおうぶしんりゅうの技のどれなら勝てる? 獅子王武神流……アロケル……あいつだったら、こんな時どんな反撃をするんだろう? …………待てよ? アロケル……あいつの技……?)


 勝利の為に必死で思考するロックの脳裏に、シェスタで敗北したアロケルの姿が浮かび上がる。

 同じ獅子王武神流の使い手ながら、攻撃の破壊力、速度、全てに圧倒的な差があった武人の姿。


(〝あの技〟なら、今の俺にも使えるかもしれない。試したことはないけど、あれのベースの技は俺が最も得意とするものだ――絶対に上手くいく!!)


 ロックは限界まで魔力を高め練り上げていく。その姿はガーゴイルをさらに苛立たせた。


「往生際が悪いな小僧! 貴様も一端の武人なら負けるときは潔くしたらどうだ!」


「悪いけど、俺、無意識でもしぶとく生き残ろうとするほど、往生際が悪いみたいでね! かかって来いよ、コウモリ野郎!!」


 ロックの挑発に怒りが頂点に達したガーゴイルは、翼を広げ前方にいる敵目がけて高速で突っ込んだ。

 その両腕には、高密度の魔力を集中させた刃が灰色のオーラを放っている。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! このクソガキャァァァァァァァァッァァァァァ!!」


 一瞬で間合いを詰めたガーゴイルが、右腕のエナジーブレードをロック目がけて斬りつけた。

 その時、ロックは左腕に魔力を集中させ、右足の踏み込みと同時に敵の灰色の刃目がけて打ち放つ。

 ぶつかり合う刃と拳は威力が相殺し合い、ガーゴイルは一瞬体制を崩すが翼の力場で持ち直すと、即座に左腕の刃で斬りかかった。


「馬鹿が! そんな闘技で俺様を倒せると思ったのか!? これで死ねやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「やらせるかよ!!」


 ロックは今度は左足を水面に勢いよく打ちつけ前進しながら腰の回転を利用し、魔力を込めた右拳をガーゴイルのエナジーブレードに打ち込んだ。

 一撃目と同様に互いの闘技は相殺し合って、この競り合いは終了するかに思えた。だが――――!!


「ガーゴイル! 見せてやるよ! 俺の往生際の悪さを!!」


 ロックは再び右足を踏み込みながら左拳に魔力を込めて、ガーゴイルの腹に思い切り叩き込む。


「なん……だとぉ……!!」


 まさかの3発目の打撃とその衝撃に目を剥く石像の悪魔。その目に映る少年の顔には、「まだまだこんなものでは終わらないぞ」という意思が込められていた。

 ロックの意図を理解したガーゴイルは、翼を広げ逃げようと試みるが、その時再び身体に重い一撃が入り悶絶する。


「か……かはぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!」


「逃がさねーよ! 最後まで食らっていきな!!」


 踏み込みと同時に放たれる打撃は、その攻撃速度を上げていき、ガーゴイルは打撃の乱舞から逃れる術を失っていった。


「獅子王武神流! 破砕はさい! 連撃掌れんげきしょう!! おおおおおおおおりゃあああああああああああ!!!」


「ギャバゥアァァァァァァァァァァァッァァァァァァァァァッァァァ!!」


 何十発にもわたる打撃の末、余力を全て注ぎ込んだ一撃を打ち込み、ガーゴイルは水面を水切りのように何度もバウンドしながら吹き飛び、止まった場所で力なく水中に沈んでいった。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……、これが今の俺の精一杯だ……」

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