第208話 2人の異邦人
「だって、ここにいるでしょう!? 破壊の神だかなんかを倒す運命のチート勇者が! 呪いがかけられた戦力外通告済みの魔王なんていらないじゃん! ルークさん、世界平和はあなたに任せます。俺は皆と今後の事について話し合おうと思います! それじゃ!」
「ちょ、ちょっと待って! まだ話の途中なんだってば!」
「いやー、さすがにこれ以上何があるんですかね? ピエロな魔王に何か利用価値があるとでも?」
遠い目をするアラタは完全にへそを曲げており、中々取りつく島もなかったが、ルークは根気強く説得し、何とか彼を椅子に座らせるところまで戻ってきた。
「アラタ君、さっきも言ったけど話には続きがあるんだ。むしろ、ここからがとても大事なんだよ。なにせ、君に直接関係する事なんだから」
「俺に? それは一体何なんですか?」
とりあえずアラタが落ち着いた事に安堵したルークは一呼吸おいて話を再開した。
「豊穣の女神アンネローゼ。僕は彼女から、ある事を頼まれた。それは、このソルシエルで再び破壊の神との戦いが起きた時、それに立ち向かうであろう魔王を手助けしてほしいというものだった」
「豊穣の女神……か。そう言えば何かおかしくないですか? アンネローゼは確かベルゼルファーの妹に当たるんでしょ?」
ソルシエルには3柱の神が存在する。まずは、創生の神サイフィード。次は破壊の神ベルゼルファー。そして、豊穣の女神アンネローゼである。彼らは兄妹の間柄だ。
サイフィードを信奉する創生教の古くからの伝承によれば、かつてサイフィードとベルゼルファーは、それぞれの立場の違いからいさかいを起こし、数千年に及ぶ戦いを繰り広げたという。
その結果、ソルシエルの大地は荒野と化し、あらゆる生物が死に絶えた。それを悲しんだアンネローゼは、精霊達を使役し長い時間をかけて荒廃した大地を再生させた。
そのため、豊穣の女神アンネローゼと精霊、特に4大精霊であるウンディーネ、イフリート、シルフ、ノームは強い繋がりを持っている。
一方、長い戦いで傷ついたベルゼルファーは、傷を癒すため深淵の世界へと姿を消し、サイフィードは自分の姿を模倣した〝人〟を創造し文明をもたらした。
その後、サイフィードがどうなったのか、詳しい事は創生教のどの文献にも記されてはいないが、今でもどこかで人々を見守っているというのが一般的な意見だ。
「確かにソルシエルの神3柱は兄妹だけど、だからと言って全員が人を滅ぼそうとしているわけじゃない。女神様はベルゼルファーとは敵対の立場を取っていて、今回の戦いに向けて色々準備をしていた。僕の件も含めてね」
「それじゃあ、その豊穣の女神は俺達の味方って事ですか? 当の本人は今どこにいるんでしょうか」
「それは僕も分からない。なにせ彼女に会ったのは転生する時の1回きりだから……でも、もしかしたらだけど、推測はしているよ」
「え? それは一体どういう――」
ルークはテーブルで両手を組み、真剣な表情を見せる。食事中の際に見せた無邪気なものとは異なる思慮深さを持つ大人の表情、アラタはそれを見て目の前にいる青年は、確かに見た目通りの精神年齢ではないという事を実感する。
「僕が女神様に会った時に彼女は言っていたんだ。『私も自分にできる事をする。現世や異界の子らにだけ重荷は背負わせない』とね。そして、君がソルシエルに来た時に彼女は姿を現さなかった……いや、もしかしたら現せなかったんじゃないかな」
「それ、もしかして」
「うん、豊穣の女神アンネローゼは何らかの状態でソルシエルに来ている可能性がある。神はそのままの状態ではソルシエルに留まる事はできないから、そこを考えると――」
「例えば人間に転生して、この世界で生きているかもしれない?」
「僕はそう考えている。そして、それなら君がこの世界に来た時に姿を現さなかった事も辻褄がいく。あれだけ〝魔王〟という存在を気にかけていた人が、本命が来た時に接触しないなんて事はないからね」
「……………………」
アラタは押し黙ってしまう。今までベルゼルファーやその信徒と戦おうと考えている人は自分達を含めても少数であり、まさか神の1柱が味方かもしれないとは夢にも思わなかったからだ。
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