第206話 閃光の勇者は魔王とご飯が食べたい

 シャーリーは、2人の謝罪に対し特に気にしてはいないようで頭を上げるように諭す。

 アラタとシャーリーの会話が終わった事を確認すると、ルークが手に持っていた皮袋をスザンヌに渡してアラタの側にやって来る。

 

「話は終わったみたいだね。そろそろお昼だし、皆ご飯にしよう。ところでアラタ君は僕と一緒にご飯を食べようよ。君とは前から色々と話をしたいと思っていたんだ」


 ルークのアラタとの一対一の食事。そのシチュエーションに異を唱えたのは魔王軍の面々であった。


「ルーク殿、魔王殿を助け、我々に安静の場所を用意していただいたあなたは、我々にとってまぎれもない恩人です。しかし、あなたは勇者です。魔王殿と2人だけにするのは我々魔王軍としては中々に認めづらいのです」


「俺もドラグの旦那の同意見だぜ。それに話があるんなら俺達が一緒にいても別に問題はないんじゃないの?」


 ルークは指でぽりぽりと自分の頬を掻きながら、残念そうに笑う。それを見かねたアラタが話に割って入った。


「2人とも失礼な事を言わないの! ルークさんは瀕死の俺を助けてくれたんだよ。別に俺をどうこうしようなんて考えてないよ。……ルークさん、俺の仲間が失礼しました。昼食、お付き合いさせていただきます」


「いいの!?」


 ルークの顔がぱあっと笑顔になる。その様子を少し離れていた場所から見ていたメイド長スザンヌは主の無邪気な笑顔を見て、1人悶えていた。

 アラタはドラグとロックの近くに行き、自分を守ろうとした2人に労いの言葉をかける。


「ありがとな2人とも。でも、俺も個人的にルークさんと話をしてみたいんだ。上手く言えないけど、あの人からなんていうか懐かしい感じがしてさ……それを確かめてみたい」


「まあ、お前がそう言うんなら俺達もこれ以上何も言わないけどさ」


「魔王殿、もし何かあれば、その時は拙者達をお呼び下さい。いつでも馳せ参じます」


「分かった。それまでは皆はいつも通りに過ごしてくれ。たぶんそんな事にはならないと思うけどさ」


 その後、アラタはルークと一緒に彼の自室へと向かった。それ以外は屋敷の食堂に集まりメイド達が用意した昼食に舌鼓を打つのであった。

 屋敷の主であるルークの部屋は、豪奢ごうしゃな物は置いてはおらず、客間と同じように高価過ぎず地味過ぎず、品の良い調度品が置かれている。

 そういったところから、この人物は物の価値を見た目ではなく内面に見出すのだとアラタは思い好感を持っていた。


「アラタ君はそっちの席にどうぞ」


「それじゃあ、失礼して」


 部屋の窓側に丸テーブルが置かれており、そこにある2つの席にそれぞれ座ると、ルークはにこにこしながらアラタを見つめる。


「俺の顔に何か付いてます? さっきから俺の顔を見てますけど……」


「ごめんごめん! 何だか懐かしくなっちゃってさ。黒髪に黒い瞳の人って、ソルシエルだとあまり見かけないからね」


「え? それって――」


 ルークの言葉に違和感を覚えたアラタが言いかけると、誰かがドアをノックしルークが対応した。するとドアが開き、スザンヌが食事を乗せたカートを押しながら入室した。


「失礼致します、ルーク様。お食事をお持ちしました」


「ありがとう、スザンヌ」


 スザンヌはカートをテーブルの近くまで進ませる。カートの上には大き目の丼が2つあり、スザンヌがテーブルへそれらを運んだ。


「熱いので気を付けてください」


 アラタの目の前には丼とお箸が置かれ、グラスに水が注がれる。ソルシエルでは、食事の際は主にスプーン、フォーク、ナイフといった欧米風の物が使われることが多いが、地域によってはお箸も使われている。

 だが、今目の前に置かれているお箸は、うるしのような黒い塗料でコーティングされており、アラタがソルシエルで見た箸の中で断トツに美しいものであった。

 そして、丼はややいびつな形をしていたが、それがかえって手作り感を強く押し出しており、温かみがある。


「それじゃあ、食べようか。――いただきます」


「いただきます」


 アラタが丼の蓋を外すと、丼の中には白いもちもちの麺、琥珀色のスープ、茶色い正方形の物体が入っており、ネギで彩られていた。

 アラタにとってそれはとても見覚えのある物ではあったが、この異世界ソルシエルに来てからは目にしたことはなく「あっ」と声を上げてしまう。


「これって、きつねうどん?」

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