第175話 魔王とメイドと参謀がゆく①

 シェスタ城塞都市の西側と南側は貧民街と言われ、アストライア王国の国民でありながら貧しい者と国民以外でこの町に滞在する者が混在する地域となっている。

 北門から侵入した破神教のアンデッド達は町中に散らばり、美しかった街並みを地獄絵図へと変貌させた。

 そして、この西側の区域にアンデッド達を駆逐する3人の戦士の姿があった。魔王軍所属、メイドのアンジェ、参謀のセス、そして魔王アラタの3名である。


「魔王様、前方の2体は私がやります、左側の敵をお願いします!」


「分かった! 任せておけ!」


 セスはファイアーボールで4足獣のアンデッド2体を焼き払う。同時にアラタは1体の人型――アストライア王国騎士の成れの果てと対峙する。


「あれは――! でも、やるしかない!!」


 騎士のアンデッドは接近するアラタに槍による刺突攻撃を繰り出すが、アラタはそれを的確に見切り、剣でいなしながら距離を縮める。


「今、楽にする!」


 アラタは身体に負担をかけすぎないぎりぎりのラインで魔力を高め、身体能力を引き上げる。地面を思い切り蹴って通常時とは段違いの速度で敵の懐に飛び込み、すれ違いざまにその首を一閃した。

 アンデッドの首が地面に落ち、勢いよく転がっていく。そして、間もなくマナの解離現象を起こし塵のように消えていく。

 頭部にある核を失ったアンデッドの身体も後を追うように崩れ落ちていった。


「魔王様、後ろです!」


 セスが敵の接近を知らせ、アラタが後方に視線を向けるとアンデッド化したファングウルフが勢いよく突っ込んで来る姿が目に入った。


「くそっ! 間に合うか!?」


 敵は予想以上に素早く、アラタが体勢を立て直そうとした時には目の前にまで接近していた。


「アラタ様、目の前を失礼します。ヴォーパルソード!」


 アラタとファングウルフの間に割って入ったアンジェの手からは水属性の魔術で構成された水の剣が伸びており、瞬く間に敵の身体を一刀両断する。

 その際、アラタの視界には真っ二つになった敵の姿――――ではなくアンジェのスカートが大きくめくりあがり、その中の下着類の情報が広がっていた。


(白いガーターベルトにストッキング!! それに……白いショーツまで丸見え!! ってあれ? 布面積少なっ!!!)


 スカートの裾が舞い上がっていた数秒間、アラタはそこから目を離すことが出来ずにフルタイム凝視していた。

 彼が我に返ったのは駆け寄ってきたセスに声を掛けられてからであった。


「魔王様お怪我はありませんか? 何だかぼーっとしているようでしたが」


「へっ? あれ? ああ! 大丈夫、見てない、俺は見てないよ!」


 アラタの様子がおかしい事にセスはますます心配になるが、敵を瞬殺し振り返ったアンジェは微かな笑みを見せている。

 

「アラタ様、何を見ていなかったのですか? もしかして、先程アラタ様の前で大々的にめくれ上がった私のスカートの中ですか? あの状況で見ていない等という事はないはずなのですが……時間的に数秒は視聴時間がありましたから。もしも驚かれて内容をお忘れでしたら説明いたします。まず、白いガーターベルトにストッキング、そして下着はエトワールで購入したての白いTバ――」


「すんませんでした、アンジェさん!! 本当はがっつり見てました!! 嘘ついてすんません!!」


 メイドの前で土下座をする魔王の図。セスは主にそのような行為をさせるアンジェに怒りを露わにする。


「アンジェ、魔王様をたぶらかすのもいい加減にしろ! それに今は戦闘中だぞ! 緊張感が足りなさすぎる!!」


「セス、ごめん! わたくしムトウ・アラタ、戦いの中で戦いを忘れました! 緊張感が足りなく申し訳ありません!!」


「そんなことは百も承知よ。だから、この辺りにいた敵を全滅させるタイミングで実行したのよ、問題あるかしら?」


 カオスな状況の中、悪びれる様子もなく淡々と説明するアンジェ。彼女の言う通りに周囲を見ると、周囲に敵の姿や気配はなかった。セスは一瞬ばつが悪そうな表情になるがすぐに体勢を立て直す。

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