第9話 旅立ちの日①
アラタがソルシエルに召喚されてから数日後、バルザスの屋敷では魔王軍の旅の準備が終わろうとしていた。この間、アラタはバルザスから色々と説明を受けていた。
まず〝魔物〟は、元々普通の生物が体内のマナの変質により凶暴化したものであるということであった。
先日アラタ達を襲ったファングウルフやカイザーウルフがいい例である。
そして、体内の生命エネルギーたるマナを、戦闘エネルギーの魔力に変換し戦う者達を〝
魔闘士は、魔力を術式に組み込み様々な超現象を起こす。これが〝魔術〟である。
ウンディーネの話では、地球に帰還するにしても封印を解くにしても四大精霊との契約が必要であるらしい。
四大精霊とは、〝炎の精霊イフリート〟、〝風の精霊シルフ〟、〝大地の精霊ノーム〟、〝水の精霊ウンディーネ〟のことである。
精霊と一口に言っても、様々な種類が存在し各々能力差もある。当然、能力の高い精霊程契約することは難しい。
とりわけ四大精霊ともなると、その能力は極めて高く、たとえ熟練の魔闘士であっても契約することは困難を極める。
精霊が契約の条件として契約者に課すのは、戦闘力であったり知性であったりと定まってはおらず、それが精霊との契約を困難にしている要因でもある。
アラタ達はこれから、契約難易度最高クラスの精霊四体との契約をしなければならない。
四大精霊が祀られている場所は世間一般的には割と有名であり、後は実際に現場に
「もし、いずれかの精霊と契約が失敗したらどうなるんだろう? 色々と詰むんだけど」
「それは分かりかねますな。ともかく実際に精霊に会ってみないと何とも言えません。それに四大精霊が
明らかにアラタのテンションが下降していくのに気付き、バルザスは急いでフォローを入れる。
アラタとしては、この世界における最大規模の王国が誇る騎士団と戦うことだけは避けたかったが、魔王軍のメンバーの戦闘力が高いことは先日のファングウルフの群れとの戦いで分かっている。
少しアラタが落ち着いたことに気付いてか、バルザスは少し皆の所に顔を出してみてはどうかと提案する。
「適度に部下を
自分は魔王ではないと言い残しつつ、アラタは部屋を出ていく。バルザスはそんな彼の後ろ姿が見えなくなるまで笑顔で見送っていた。
屋敷の正面玄関にロックとドラグの姿があった。そこには旅に持っていく荷物が所狭しと置いてあり、そのほとんどをこの二名が運んでいた。
「2人ともお疲れさま。荷物運びありがとな」
「これはこれは魔王殿、主に持っていく荷物はこれで全部です。バルザス殿との話合いはもう終わったのですかな?」
「お疲れー。何よ、ねぎらいに来てくれたのかよ?」
ニヤニヤしているロックに、勘がいい奴だとアラタは思う。
「まぁね、ほとんどの荷物運びは2人に任せちゃったし、悪かったと思ってさ。にしても結構量があるよな。これ全部持って行けるのか?」
「ああ、これくらいなら問題ねえよ。このインベントリバッグに入る範囲内だ」
そう言いながら、ロックはやや古びたバッグを得意げにアラタに見せる。
「目の穴かっぽじってよーく見とけよ。驚くぞー」
再び
アラタは「それをいうなら耳の穴かっぽじってよく聞けだろ! 目をほじったらえらいことになるやん!」と内心思ったが、ロックの笑顔を前に何も言えなかった。
そうこうしているうちに、ロックはインベントリバッグの中に大量の荷物を入れていく。
その光景を
「なに、それ……」
「いしし、やっぱり驚いたな。このバッグは大昔に錬金術で作られた代物でさ、家一軒分の荷物なら楽々収まっちゃうのさ! すげーだろ! 俺はすごいと思う」
ロックは、アラタの反応を見てとても満足そうな笑みを浮かべる。一方、アラタはニコニコしながら大量の荷物を詰め込んでいくロックを見て、かの有名な猫型ロボットを連想していた。
「ロクえもん……」
「えっ? 今なんか言った?」
「いや、何でもない。何でもないよー」
ものの数分のうちに、あれだけあった荷物は全てインベントリバッグの中に収まっていた。
アラタは二人が勧めるままバッグを背負ってみるが、重さは普通で移動には特に支障はない。
「便利なもんだな。これ一つあれば荷物問題は解決だな」
「ええ、後は個人の荷物をこの中に入れて終了ですな」
「じゃあ俺、他の皆に準備は出来てるか聞いてくるよ。元々声をかけに行くつもりだったしさ」
「それは助かりますな。よろしくお願いします。我々はこの辺りで休憩しておりますので。そういえばセス殿でしたら自室にいると思いますので、そちらから当たってみては?」
「ああ、そうするよ。ところで今気付いたことがあるんだけど……そのバッグに全部の荷物を入れるんだったら、わざわざ玄関に荷物集めなくても良かったんじゃないの? 最初から、バッグを荷物の所まで持って行って収納すれば……」
アラタの指摘に短く「あっ」と声を上げた後にうつむくロックとドラグ。少し気まずい空気の中、いたたまれなくなったアラタは部屋を後にしていた。
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