プロローグ




————夢を見ている。

いや、記憶を繰り返している、が正しいか。


『あーー、聞こえますか、姉御』

『ああ、聞こえている……!!今救援に向かっている。どうにかして耐えろ……!!』

『いや、申し訳ないんすけど持ちそうにないんでなるべく早く逃げてくだせえな。敵さん、俺たちを倒す為だけに一個大隊を動かし始めましたんで』

『っ……だがニベル、それではお前たちが……!!』

『このクソみたいな部隊に集められた時点で遅かれ早かれだったんすから。それに俺は皆さんと会えて楽しかったですよ。だから姉御、隊長とどうか幸せになってくだせえ』

『クソッ……ニベル……!!応答しろ、ニベル!!』


これは、私達が生きたあの地獄の記憶。


『くそっ……よくもシャルミをぉぉぉぉ!!!!』

『行くな、カトレア!!』

『ダメだ、彼女はもう———』


仲間達は、同胞たちは次々と倒れていく。


初めは多く集められていたはずのオーヴァードも、気が付けばその数を多く減らし。


補充される人員よりも消えていく命の方が多く。


何より、初めの頃から見知った顔はもう隊長しかいなかった。




————そして、私にもその日が訪れた。



『君までも、私を置いていくのか』

目の前には決して涙を流さず、それでいてその悲しみを隠し切れない彼の姿が。


私の身体はもう穴だらけで、まともに喋ることもできなくて、声ももうよく聞こえない。

それでもこの人が私を必死に救おうとしてくれている事くらいは容易に理解できた。



でも、それは間違いなのだ。



私が救われれば、彼の信念は汚れてしまう。

私が生き残れば、もう二度とその理想は有るべき形では果たされなくなってしまう。


だから本当は拒絶すべきだったのだ。



なのに私は願ってしまった。



彼と共に在りたいと。

たとえ歪んだ形であっても、彼の行先を見届けたいと。


だから私は選んだ。

『貴方の傍にいる事を、誓います』

死してなお黄昏の中で戦う、"レギオン"となる事を。

狂いながらでも彼と共に在り続ける事を。



————それから私達はレギオンとして数多もの戦いを越えてきた。


世に蔓延る不平等を是正する為。

理不尽を無くすため。


ただやはりというか、当然の結果だったというべきか。

私たちのやり方は、存在は次第に歪んでいって、

『これで終わりだ……!!』

『隊……長……』

正しき信念の、願いの下に戦う彼らの刃によって私は斬り伏せられた。



あるべき結末。

正しき終わり。



きっと彼らはその信念を持ってしてエレウシスの秘儀を止め、少女を救ったのだろう。

私たちにはできなかった方法で、全てを正しき道へと進ませたのだろう。



舞台から降りた私に彼らの行先を見ることは叶わない。



それでも、もし死した私の願いさえも叶うなら、この目で見届けたいものだ。



我らの理想を越えその先を行く、彼らと、少女の行末を……



いつか夢見た、幸せな未来を。

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