第27話 速水葵は神絵師である

 次の日の朝。

 今日は祝日で、学校も休みである。

 だが、俺はベッドの中でとんでもない緊張感に襲われていた。

 おいおいおいおいおい! あげちゃったよ完結編!

 炎上したとき、もう二度とあんな気持ちはごめんだって思っていたのに!

 あああああ反応が怖いよお!

 昨日の俺は、更新したらすぐパソコンの電源を切って、寝たのであった。

 長らく更新していなかったサイトである。更新して、すぐに反応があるわけもない。

 そう思って、昨日はあんなにかっこつけて更新したというのに、今ではこのざまである。

 覚悟はできている、だって?

 ばか! 俺のばか! もっと推敲すべきだったんじゃないのか!? 

 ベッドの中で悶えながら、スマホでサイトを開こうとして枕に顔を埋めることを繰り返していた。なにやってんだ俺。

 やっぱり誰にも見られない方がマシだったんじゃ……いや、それだとせっかく描いてもらった速水の絵を見てもらえないし……


「……んがああああ!」


 がばっと起き上がり、パソコンを立ち上げ椅子に座る。

 今回は俺の小説だけじゃない。速水の絵も載せたのだ。

 俺にはこれを見届ける義務がある。

 意を決し、サイトを開いた。


「…………!」


 片目を閉じて、そっとモニターを見る。

 俺の小説サイトは、案の定炎上して……いや。


 炎上は――していなかった。


 ちら、と見たコメントは、好意的な意見だったように見えた。


「……お……おおお!」


 謎の雄たけびを上げながら、一気に最新のコメント状況を確認する。

 そこにあったのは、速水の絵に対する賞賛の声と、偽者の小説に対する怒り。

 それが俺のサイトに寄せられていた。

 それを見て、どっと椅子にもたれかかる。


「よ、よかった……ほんとうによかった」


 力が抜ける。

 思わず椅子から転げ落ちそうになり、慌てて座りなおす。

 正直、かなりびびっていた。

 また、前みたいになるんじゃなるかって。

 それどころか、速水の絵までバカにされるんじゃないかって。

 でも、どうやらそれは杞憂だったらしい。

 俺のサイトは、平和だった。


「コメントは……」


 ゆっくりスクロールしながら、寄せられたコメントに目を通していく。

 中には、「完結おめ」「おつかれ」「まだやる気あったのか草」といった、完結を祝ってくれているコメントもあった。いや、最後のは祝ってくれているのか微妙だが。

 とはいえ、炎上したときはアンチコメしかなかったから……こんなコメントですらありがたい。

 それよりも、速水の絵に対するコメントが圧倒的だ。

 こっちは、微妙なコメントすらない。賞賛するコメントばかりだ。


 なにこの神イラスト

 すげえ、これ誰が描いたの? プロ?

 こんな絵を描く絵師いたっけ?

 感動で涙が……画面が見えない


「……すげえわ、あいつ」


 速水の絵はこのサイトだけに留まらず、既に拡散されていた。

 あの炎上した小説サイトで描かれた絵がやたらレベル高いと、ちょっとした話題になっているようだ。

 俺の小説の出来云々よりも、あいつの絵が脚光を浴びている。

 どうやら、前に巻き添えを喰らって非難されていた応援イラストを描いた人物と、今回の神イラストを描いた人物が、同一人物だと気付いている人はいないようだ。

 今回の速水の絵は、本当にアンチを黙らせてしまっていた。

 あいつの絵のおかげかもしれないが……俺は、自分の小説が受け入れられているのが嬉しかった。

 その証拠に、今度は投稿サイトにあげられていた偽物が非難されており、そちらは削除されたようだった。

 あの同級生が犯人だって証拠はないけど……俺は自分のトラウマが少し解消された気がした。

 俺はにやついた顔をそのままにしながら、コメントをひとつひとつ読んでいった。

 まあ、俺の本物の完結編に対しての反応も全部が好意的とは言えないけど……俺のサイトは良い意味で、少しの盛り上がりを見せていた。


「……勝ったな」


 静かにガッツポーズ。

 炎上してからずっと心にあったもやもやが、晴れた気がした。

 肩の荷が下りた、というところか。


 俺はもう、大丈夫だ。

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