第18話 円城紡は困惑している
速水が? 俺の小説の?
言っていることはわかるが、理解ができない。
「それ……本当か? だって速水のやつ、そんなこと一言も……」
「そう……だったんですね。でも、そうかもしれません」
夢野は自分で納得したように頷いていた。
「言えなかったんだと思いますよ、本人には」
夢野はまた小さい声に戻っていたが、ハッキリと強い口調で言った
「ファンだからこそ、炎上のことはよく知っていましたし……それが原因で未完で終わっていることもよく分かっていました。まさか顔なじみが作者だったなんて……なんて言えばいいのか、わからなくなると思います」
速水の絵を見せてもらったとき。
速水に、俺が小説を書いていたことを話したときのことを思い出す。
そういえば、あのときのあいつの反応……今思えば、過剰だったような気がする。
速水の嬉しそうな声。
あのとき、速水が嬉しそうにしていたのは……俺が炎上作家だったことを茶化すためじゃなくて、単純に自分の好きな小説の作者に出会えたからだったとでもいうのか。
「わたしが『迅雷伝説』を読んだのも、葵ちゃんに勧められたからなんです」
嬉しそうに話す夢野。
それを見て、夢野の話は本当なんだと悟る。
「わたしも葵ちゃんも、部長さんの小説が好きだったんですよ」
……やばい。涙が出そうだ。
そんなことを言ってくれる人がいるなんて。
それも、こんな身近に。
俺のサイトでも、最初は好意的な意見をくれる人が確かにいた。
俺の小説を面白いと思ってくれてる人は、いたんだ。
「……ありがとう、夢野さん」
俺は溢れそうな涙をぐっとこらえて、力強く言った。
「俺、また前みたいに小説を書けそうな気がするよ。やっぱり俺、小説を書くのが好きだから」
「それを聞いて安心しました。部長さんならきっと大丈夫ですよ」
にこっと微笑んでくれる夢野。まずい、惚れそうだ。
……そんなことしたら、速水にぶん殴られそうだが。
あいつの夢野好きは尋常じゃないからな。
「よし! 俺、早速――」
と、意気込んだところでスマホが鳴った。
なんだこんなときに。タイミング悪いな。
スマホを取り出して着信の相手を確認する。
速水からの電話だった。
……あいつから電話? 珍しいな。
「もしもし? どうした?」
「あ、先輩……あの、確認したいことがあって、それで」
電話から聞こえてきたのは、速水の不安そうな声。
速水には珍しく、なんだかぎこちない。
「お、おう……何かあったのか?」
「最近『迅雷伝説』の続き、書きました?」
……は? 何を?
「いや、書いてないけど……なんで?」
「ですよね、やっぱり」
「どういうこと?」
「『迅雷伝説』が、小説の投稿サイトにアップされてます」
……今、なんて?
「しかも、それがちょっとした炎上騒ぎに……」
思考が追いつかない。
なんで? 誰が?
「サイトのURL送りますから、見てみてください」
「あ、ああ……頼む」
電話が切れた。
「今の、葵ちゃんですよね? どうしたんですか?」
夢野が俺の様子を見て、少し焦ったように言う。
俺は声を絞り出すようにして答えた。
「『迅雷伝説』が……ネットにアップされてるって」
「……え?」
「今、サイトのURL送ってくれるって……あ、もう来てる」
速水から送られてきたリンクをタップし、サイトを開く。
夢野も覗き込んできた。
そのサイトは、誰でも自由に小説を投稿、閲覧できるサイトだった。
このサイトから何人もプロが出ていることもあり、見ている人は多い有名なサイト。
その中に、確かに『迅雷伝説』の項目があった。
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