第16話 円城紡は思い出す

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「円城、何やってんの?」


 中学卒業を目前に控えたある日。

 教室で『迅雷伝説』の設定をノートに書いていたら、前の席に座っていた友人に声を掛けられた。


「俺が書いてる小説の設定資料集書いてるんだよ。見る?」


 円城紡。中学三年生。

 その頃、俺の書いていた『迅雷伝説』は終盤に差し掛かっていた。

 わずかな読者から好評を得ていた俺は、調子に乗っていた。

 自分の小説が面白いということを疑っていなかったし、もっとたくさんの人に見てもらいたいと思っていた。


「え、お前小説なんて書いてたのか? 見せてくれよ」

「おう、見ろ見ろ。どうだこれ、かっこいいだろ?」


 中二病全開の技名やキャラ設定をドヤ顔で語りながら、自分の書いている小説を紹介した。

 俺があんまり嬉しそうに語っていたものだから、周りにはいつのまにか数人のギャラリーが出来ていた。

 それが俺には、心地よかった。


「それでさ、ここのサイトに投稿してるんだ。結構面白いって言ってくれる人もいるんだぜ」

「すげえな、将来はプロになるのか?」

「なっちゃうかもなー! プロの小説家、かっこよくね?」


 そのときの俺は気付いていなかったんだ。そんな俺を見て、嘲笑っている人がいることに。


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 その日の夜。

 クラスでも注目を集めた俺は、興奮していた。

 俺には小説を書く才能がある。

 もっとみんなが面白いと言ってくれるような小説が書ける。

 だって俺の頭の中には、まだこんなに書きたいことがあるのだから。

 そう信じて疑っていなかった。

 俺は学校でも披露した技名とキャラの設定資料集を、ネットに投稿することにした。

 技にはひとつひとつ、丁寧な解説もつけて。

 総文字数は、ざっと一万文字以上。

 我ながらめちゃくちゃかっこいい。

 こりゃまた、絶賛間違いなしだろうな――そう思って、その日は寝た。

 ……そのときは、わくわくしていたんだ。

 どんな反応が貰えるのか、楽しみだった。

 だが、次の日。

 朝、目を覚ましてスマホを見ると、とんでもないことになっていた。


【悲報】円城紡くん、中二病を遺憾なく発揮してしまう


 クラスのライングループで、そんな見出しと一緒に俺が投稿していたサイトのURLが貼られていたのだ。


「なんだこれ、イタすぎる」

「円城ってやっぱりこういうの好きだったんだなw きめえw」

「悪魔の業火『ヘルフレイム』、かっこよすぎぃ!www」

「やばいやつじゃんw」


 ……なんだよ、これ。

 俺の小説は、完全に晒しものになっていた。

 誰も面白いなんて言っていない。

 馬鹿にしたように、笑うだけ。

 震える手でそれを見ていると、今度は別のURLが貼られた。

 今度はなんだ、そう思って開いてみると……まとめサイトに、俺の『迅雷伝説』が転載されていた。

 そして、そこでも笑いものにされているのを見て、俺は絶句した。

 クラスの誰かが拡散したんだ。

 俺のことを、笑いものにするために。

 俺の小説は、ただの自己満足だったんだ。

 俺はその日から学校に行かなくなり、卒業式にも行かなかった。

 幸い、新年度から引っ越すことが決まっており、高校では中学の同級生が誰もいないことがわかっていた。

 だから、高校には通うことができた。

 アニメ部の先輩にも恵まれて、俺は立ち直ることが出来た。

 だが、小説を書くことはできなかった。

 『迅雷伝説』の結末は頭の中に出来ていたのだが、書けなかった。

 クライマックスで、更新は止まったまま。

 小説を投稿していたサイトを開くこともなくなった。

 炎上した俺の小説は、それっきり。

 完結させることができていない。

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