船底の財宝

男は1人用の小型船の上で、レーダーに表示される針路を確認する。

「港まではあと半分くらいだな。今日の商談も上手くまとまって何よりだ。」

男は宝石の商人だった。

孤独かつ秘密主義な性分で、

ひたすらに用心深いので客との商談はいつも海の上で密かに行っている。


「随分と気前の良い客だった。お陰でしばらく分の現金が手に入ったな。」

男はその日の売上金と、残りの商品となる宝石たちを丁寧に袋に詰め、

船底にある小さな隠し扉を開けると、その中に大事そうに仕舞い込んだ。

そして再び舵を手に取り針路を調整していると、

後方から一艘の小型船が近づいてきた。


不審に思った男は舵を切り、針路を変えたが、

その船もまた後を追うように追跡した。

嫌な予感がした男は船の速度を上げた。

しかし、呆気なくその船に追いつかれてしまい、

隣に船体を横付けされてしまった。

小型船からは覆面をつけた男が現れ、一瞬のうちに男の船に飛び乗ってきた。


「急に何をするんだ、ここは私の船だぞ。」

「黙れ。さもなければ撃つぞ。」

覆面男の手元には小型の銃が。

「お前は海賊か。」

「そんなところだな。

ここらの海上で秘密の取引をしている宝石商がいると聞いてな。

商品も売上金も必ず船の中にあることが分かっているのだから、

海上の強盗にとってこんなに良い標的はいないだろう。」

男はそれを聞いて堂々と返す。


「残念だな。取引が終わった後には、

売上金も宝石もそのまま特殊な金庫に入れて海の底に沈めてしまうのさ。

毎回海底では潜水艦に乗った私の仲間が待機していて、

金庫を回収した後は私とは別ルートで解散しその後陸地で落ち合うのさ。」

それを聞いた覆面男は銃を持っていない方の手で、

ポケットから装置を取り出して笑う。

「ハッタリをかましたつもりだろうが、通用しないぞ。

これは最新型のウソ発見器だ。俺みたいな家業には必須でね。」

取り出した小型装置には男が嘘をついていた時の声色や

発汗量を分析した結果が表示されていた。


男はため息をついて答えた。

「観念するしかないようだな。

お目当ての財宝は船底の隠し扉の中だ。

これは本当だ、装置を見てみろ。」

覆面男は手元の装置を確認して頷く。

「よし、じゃあお前はもう用なしだな。ここで死んでもらう。」

「おいおい待ってくれよ、せめてもの情けはないのか。

脱出用ボートを使って、ここからはもう離れるから見逃してくれ。

この船も丸々お前にやるからどうか見逃してくれ。」

「ふん、まぁ良いだろう。財宝さえ手に入れば後は興味はない。

その代わりさっさと出ていけ。」

男は脱出用ボートを海に下ろすとそこに飛び乗り、

物騒な覆面男を乗せた船から早々に離れていった。


覆面男はそれを確認すると船底に移動すると、大きな隠し扉を見つけた。

「よしこれだな…ん。思っていたより固いな。ええい、引っ張るぞ。」

思い切り船底の扉を引きあけると、次の瞬間、

物凄い勢いで海水が船内になだれ込んできた。

覆面男はそれに対処する間も無く、

訳もわからないまま船と共に海の底へと沈んでいってしまった。

その様子を宝石商の男は遠目に眺める。


「やれやれ、用心はし過ぎるくらいが丁度良いようだな。

財宝も守れたことだし、船はまた買い直すとするか。」

男は脱出用ボートの船底にある小さな隠し扉を開け、財宝を取り出した。

「ウソ発見機には“船底の隠し扉の中”としか言っていないからな。

まさか本船でなく脱出用ボートの船底に財宝が隠してあるとは思うまい…」

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