毒味係

高い城の天頂にそびえる天守閣で、一人の若い殿が倒れた。

食事中に突如喉を抑え苦しみ始め、その後まもなく意識を失ったのだ。

その後も容体は安定せず、殿の側近は事態の収束を図るため関係者を集めた。


「殿の容体は未だ安定することなく、生死を彷徨っている。

これが毒殺を目論んだ何者かの陰謀であることは明らかだ。

そうなると怪しいのは料理を作った者が誰か、だ。」

料理係は真っ先に反論する。

「ちょっと待ってくださいよ、私はいつも通りに料理をしただけです。

私が料理を完成させた後に誰かが毒を盛ったに違いません。」


すると皆の視線は配膳係に注がれた。

「わ、私じゃありませんよ。第一、毒味はしっかりしたはずでしょう。」

「しかし、事実こうして殿が倒れておられるのも事実だ。

先代の殿に引き続き毒を盛られるなど決してあってはならなかったのに、

それを今回も防げなかった我々の罪は重い。」

若殿の父である老いた先代の殿もまた毒を盛られ、命を落としていた。


「おそらく今回の毒も先代に盛られていたのと同じ物だ。

殿は先代と違ってお若いからどうにか持ち堪えているが、

依然として油断ならない。」

「先代の時には毒味係はいたのですか。」

「いや、その時はいなかった。

ただ、先代が倒れた後に原因を調べるべく、

同じ食事をとらせた若いのが今の毒味係だ。」

配膳係は何かに気付いた顔で腕を組んだ。


側近は続ける。

「先代と同じ過ちは繰り返すまいと、

以後全ての殿の食事に毒味係を同席させたというのに、

なぜいったいこのようなことが…」

料理係は声を荒げる。

「それなら犯人は毒味係で決まりですよ、

毒味したフリをしてその後に殿に毒を盛ったのです。」

「いえ、私はそんなこと…」

「うるさい、じゃあ毒味して自分だけ助かった理由は一体なんなんだ。」

「確かに。その点に関しては説明責任と言う物があろう。」

「し、しかし私はずっと殿に尽くしてきた身ですのでそんな…」

配膳係は口を挟む。


「あの、それってもしかして毒味係が先代の時に毒を摂取して、

以後その毒の耐性がついてしまったからなのでは…」

「あっ…」

場が凍り、中年の冴えない毒味係はバツの悪そうな顔で皆の顔を見た。

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