種の保存

地響きのような物凄い轟音と共に建物が揺れる。

博士が窓の外を見ると爆撃機が隊列をなして飛び去っていくのが見えた。

世界は大きな大戦に突入しており、地球全体が終末の時を迎えようとしていた。


「日に日に戦火は勢いを増しているな。」

「早くDNAのサンプルを持ち出して出ましょうよ。」

怯える助手は博士を急かす。

「あと少し、解析が終わらないことにはこの研究所を捨てられないのだ。」


博士が指差す先では大きなコンピューターが音を立てて分析作業に取り組んでいる。

この機械には地球上で見つかった一通りのDNA情報を詳しく分析させているのだ。

「このコンピューターが地球上に繁栄する全ての種のルーツを

詳しく解析するまでは私の研究は完成したとは言えん。」

「でも、それを待っている間に、

ここの研究所ごと爆撃されればDNAサンプルも全滅ですよ。

この地球の種の保存のためには安全確保が先です。」

「うむ…」


2人が揉めていると、再び大きな爆撃音が聞こえた。

揺れる天井からは幾らかアスファルトのかけらが落ちてきた。

「もう時間はありません、早く出ましょうよ。」

痺れを切らした助手がコンピューターの電源を落とそうとすると、

機械から甲高いエラー音が鳴り響いた。

「なんだ?解析が終わったのか?」

「い、いえ。何か新しい情報を見つけたようです。

それぞれの種のDNAコードに共通して、

暗号のように隠された文字列が存在することがわかったようです。」

「何だと。大発見じゃないか。文字列を抽出して翻訳モードにかけてみろ。」

助手がキーボードを叩くと画面上にメッセージが現れた。


【このメッセージを読んでいるということは、

かなり人類の技術も進化したということだろう。

人類というのは進化をするとすぐに争いをはじめ、

世界の終末にまっすぐと歩みを進めてしまうものだ。

残念ながら”我々”の場合もそうだったわけだが…。

何にせよ、これを読んでいる君たちもそうなってないことを祈るばかりだが、

もし君たちが滅びゆく地球の種を保存したいと苦心しているのであれば、

最善の保存方法を教えよう。】

「何だこれは、

なぜこのようなメッセージが全ての生き物のDNAに入っているのだ。」

博士は気味悪がった。


【方法は簡単、全ての生き物のDNAサンプルから

それぞれオスとメスで一対のクローンを作り

ノアの方舟のように宇宙に飛ばすのだ。

君たち含む全ての地球の種が環境に適応できる星の座標は以下だ。】

「あ、ここ。見たこともない星の座標が書いてあります。」

助手は画面を指差す。


【それと、クローンを作る時に、

そのDNAコードの中に高度な暗号を仕込んでおくと良い。

この人類の発展の歴史が、この広い宇宙の中でいったい何回目なのかを

記録しておくのに役に立つからな…】

博士は途方もない内容のメッセージの内容に腰を抜かしてしまった。


「何ということだ…。我々人類の歴史もこれが初めてではないということか。」

「博士、これからどうしましょう。」

「とにかく先代の助言に従ってみるとしよう。

手始めに人類のクローンから一対づつ作るとするか。」

「この進化から生まれてしまった争いの過ちを繰り返さないためにも、

記憶や知性は無くしておいた方が良さそうですね。」

「ああ、そうだな。それにしても思っても見なかったな。

自分がこうしてアダムとイヴの生みの親になるなんて…」

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