優れた狩人

ぱしゅん、と音を立てて弓矢が放たれる。

弓矢は空中でぐらぐらと軌道をゆらつかせると、

獲物の少し横の地面に情けなく刺さった。


「おい、何やってんだ下手くそ。」

男は狩りに同行していた村の長に叱責される。

「お前はいつまで経っても狩りが上手くならないな。」

「はぁ、すんませんで。こう見えても頑張ってんですが。」

「お前以外の村の若いのは皆一人で獲物を獲れる様になってるんだぞ。」

「誰かに狩りを手伝ってもらえれば楽なんですがね。」

「呆れたやつだ。わかった、ではわしの家の猟犬をお供につけてやろう。

狩りに連れてって野生の勘でも学ぶことだな。」


以後、男には猟犬がつけられ、一緒に狩りをするようになった。

最初のうちは男も大して期待していなかったが、その猟犬は大変優秀で、

男よりも正確に獲物を探し当て、男が行動するよりも早く獲物を仕留める様になった。

「ははぁ、これはすんげえ犬だな。今日だけでこんなにも獲れちまった。」


成果を見た男は思わず魔が刺し、犬の持ち帰った獲物に、後から自分の矢を刺した。

村の人々は驚いて山から帰ってきた男のもとに駆け寄った。

「わぁ、すげえな、どうやってこんなに獲ったんだ。」

「あれからおらも弓を練習してな、その成果ってわけよ。」

「たいしたもんだ。今夜は宴だな。」

そうして、犬小屋でぽつんと食べ残しを当てがわれた哀れな猟犬を差し置き、

男は宴で豪勢に飲み食い、村の皆から優れた狩人として讃えられた。


その後も男は猟犬と借りにいくたびにたくさんの獲物を持って帰り、

毎晩のように開かれる宴会では村の英雄と称讃され続けた。

だがそんなある日、いつもの様に皆が宴会をしていると、

顔を真っ青にした村の青年がやってきた。

「鬼が出たぞ!みんな今すぐ逃げるんだ!」

みなざわついたが、若い別の村人がそれを静止する。

「何、鬼だって?恐るるに足らない、天下の優秀な狩人がうちにはいるからな。」

「え、おらですか。」

男は反論する間もなく、猟犬を連れて山に行かされることになった。


おどろおどろしい山の中を歩いていると、ずっしずっしと大きな鬼が現れた。

「ほう、自ら山に乗り込んでくるとは勇敢な。なんの様だ。」

「お、おらの村には近づかねえでくれねえか。」

「なるほど、よし良いだろう。その無謀ともとれる勇敢さは気に入った。

それに見たところ狩りの能力も高そうだ。

優秀な狩人の方はその度胸に免じて村に返してやろうじゃねえか。

その代わり去り際に生贄はもらうからな。」

「あ、ああ良かった。これで安心だ、生贄ならここに確かにおりますんで…」


「おい、ずいぶん遅いな。大丈夫か?」

村の人々は固唾を呑んで山からの帰りを待っていた。

「見ろ!帰ってきたぞ!」

村人の視線の先には、あの恐ろしい鬼をも認める真に優秀な狩人が、

男を生贄に解放され、尻尾を振りながら山から降りてきた。

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