第06話】-(小さな償い。そして
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
カナタ・男性〉主人公に想いを寄せるギルメン
トゥエル・男性〉ギルメン、主人公と相思相愛
──────────
「この技も凄いですね……それにしても相手に魔力を分け与えることもできて、
「うん……まだまだ練習が必要だね。ごめんね、私のコントロールが下手で」
するとカナタが私の近くにくると私の頭を軽く撫でてくれる。
「いえ、僕は紬がこの力をコントロール出来ると信じていますよ。少しずつ頑張りましょう」
まるで兄の様に優しく声を掛けてくれる。私はまた肩を降ろしコクリと
それに私にとっての最大の難関は、このリミット解除発動中、いつも自分の中の『わたし』と戦っているということだった。
練習の当初はこの自我のコントロールで精一杯でこんな風にカナタと会話をしたり、魔法を具現化することさえ出来なかった。それも練習を重ねていくうちにここまで出来るようになっていた。
なんとかルノンさんとの特訓で自我の主導権を握ったものの、もう一人の『わたし』はいつでも私を食いちぎろうと
彼女から送られてくる
「うう……」
私は片目を
頭の中に
「紬、しっかりして下さい‼」
フラッシュバックのように流れる負の残像、声、大波が押し寄せる。
私が
ここで負ける訳にはいけない。
自分をしっかり保つんだ、と言い聞かせる。
私はこの手のぬくもりに何度助けられたか。
こんな時、ルノンさんの言葉を思い出す。「大切なものを壊してのいいの?」、と私に語り掛けてくる。
そしてぐっと
荒い呼吸を立てながら整える。胸に手を当て瞳を閉じる。今日も私は『わたし』に打ち勝った。こうして反復して自信へと
そこへカナタがタオルを差し出してくれる。私は「ありがとう」とお礼を告げ左手でそれを受け取った。
「……あ」
カナタが思わず言葉を零した。
彼の顔を
カナタはまだ私が左ききのことを気にしていた。
瞳の中に悲しみの
こんな時、私に出来ることは今まで通り普通にすること。それが彼にとっていい事じゃないかと思い知らないふりをしていた。だから
「左利きもだいぶ慣れてきたでしょ? トゥエルの部屋では右利き禁止だからね」
「…………」
カナタの顔が
「……あ」
今度は私が思わず声を漏らす。
私はカナタの地雷を踏んでしまったことに気が付く。疲労の汗と冷や汗が
「いいですよ。紬に気を遣わすのも悪いですし。トゥエルの話題を出しても。それに彼のおかげで左利きの練習の成果が出ているのも確かですから」
カナタはそう言うと笑いかけてくれた。でも、少し口がひきつっている。
彼なりに精一杯の笑顔を
─────
私は座り込んだまま視線を足元にある
伝えなくては。
「あ、あのね……カナタ」
そこへカナタがまたもや私の言葉を
「あ、ちょっと待ってください」
「んん⁉」
「紬、ちょっと目を
「──⁉」
え……これはもしや……。
この
私の視線まで腰を下ろすと彼は
「紬が今頭の中で思っている事はしませんから」
「わわっ⁉」
私は赤面を隠すように手をわたわたした。私が
暗い視界の中でカナタは私の右手を握り、持ち上げ何かしている。それは数秒のことだった。私が疑問に思っているとカナタが合図をする。
「もういいですよ」
瞳を開けて、カナタの方を見ると彼は満面の笑みを浮かべている。私はカナタが何かしたであろう右手に視線を移した。
「これって⁉」
私の瞳が大きく開いた。
私の右手の小指にはリングがはめられていたのだ。
私が驚いて目を丸くしているとカナタは優しい声色で。
「プレゼントです。気に入ってもらえるといいのですが」
私は右手を天にかざした。リングは太陽の光を浴びてキラリと綺麗にささやかに光を帯びていた。細くて飾らないシンプルなデザインのリング。
「綺麗……」
自然と言葉に出していた。
それにしても。
「どうして指のサイズが分かったの?」
私は右手を降ろすともう片方の手で握りながらカナタに尋ねた。そのリングは私の指にぴったりとはまっていたから。カナタは少しだけ頬を赤く染め頬を
「この間、城に迎えに行って公園に寄った時です」
「あの時……⁉」
確かに指を触ってくれていたけれど。と同時にカナタとのあの行為も思い出す。私もカナタと同様頬を赤く染める。
それにしてもあの時からこのリングの事を考えていてくれていたのだろうか。私の気持ちを察したのかカナタが補足を加える。首を
「
私から視線を外すと、そのリングに優しい眼差しを向けていた。カナタの思いやり、優しさが小指から伝わってくる。私は小指のリングを
それに……私はこの気持ちを受け取る資格があるのだろうか。
私が黙ったまま
「あ‼ もしかして好みじゃなかったですか⁉ それならまた探してきますよ⁉」
私は瞬時に首を横にふる。私の心の中は締め付けられ息が出来なくなる。切ない気持ちが溢れ出してきた。
─────
このままではいけない。
カナタのこの真っ直ぐな気持ちに私も答えなければ。
「あのね……カナタ」
すると私の上半身はふわりと後退していく。草のベッドの上に私は寝そべっていた。私の
「……え」
「……」
私はカナタに押し倒された状態になっていた。
私の両腕をカナタが
カナタの前髪の先端が私の
彼の息遣いが聞こえそうなその距離で。
逆光でカナタの
「トゥエルのことですね」
私は瞬時に顔を赤らめた。目が揺らぐ。
この私の顔が全てを物語っていたのかもしれない。
カナタは視線を横に流す。
とても悲しい瞳をしたかと思うと次の瞬間には一気に私の顔に距離を縮めてきた。
(続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます