第08話】-(代償

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

ギルメン〉トゥエル、ユラ、カナタ、フルーヴ

ラルジュ、ラメール〉共闘相手、双子の兄妹

──────────


(客観的視点)



 ──『白蘇鳥リザーレクト



 トゥエルの足元の真横に魔法陣が出現し白い大鳥が召喚された。


「二人の元へ」


 トゥエルが倒れているユラとイトアの方に指を差し静かに指示を下す。大鳥は倒れている二人の元に飛んでいくと両翼りょうよくで包み込んだ。白い光が二人の身体を包み込む。二人の顔は心なしか穏やかな表情に変わった。


「二人はこれで回復させますわ」


 それを確認したトゥエルは振り向き、後方にいた双子の方に視線を向ける。ラメールはカナタの様子を確認すると顔をかしげニコリと笑う。


「りょーかい。これで討伐完了だね」

「はい、お姉さん達の分」


 そして分け前の半分をぞんざいにトゥエルに向かって軽く投げる。それを黙って受け取るトゥエル。ラメールは、ユラとイトアの事など目もくれずカナタの元に行くと彼の上半身を抱き上げ、その胸に身体をすべり込ませた。


「それにしてもよかった~‼ 私の旦那様が助かって」


 瞳を閉じ、安堵あんどの表情を見せる。それを無表情のまま見ていたカナタは冷たい声色で突き放す。


「離れてもらえますか?」


 彼もまたラメールになど目をくれず、ラメールの両腕をつかんで自分の身体からぎ取ると立ち上がり、大鳥の両翼りょうよくの中で横たわっているイトアの元へ駆け寄る。手を強く握りしめた。


「……イトア」

「えー、そんなのがタイプなの~⁉」


 ラメールは口をとがらせ子供がするように駄々をこねた。目を薄めなげく。しかし口角を上げ、挑発的ともとれる言葉を吐き捨てた。


「でもいっか、ラメールの方が胸も大きいしスタイルだって。その内カナタも私のとりこにさせちゃうんだから」


 ひざをついていた体制から立ち上げるとひざの草を払いのける。そして首を振り長髪を背中に流した。兄と無言で会話を交わすと。


「じゃぁ、私達はこれで」

「…………」


 ラルジュは依然無言のまま。ラメールは別れの挨拶を告げると四人を背に早々に森の中に姿を消していった。



★ ★ ★



(紬/イトア視点)


「……ん」


 ガタゴトと背中を揺らす床で私は目を覚ました。どうやらこの床の感触、天井の景色から馬車の中だということが分かった。私は馬車の椅子でユラの膝枕に頭を乗せ横たわっていた。


「動くな。まだ治療中だ。じっとしてろ」


 確かユラも気絶していたような気がする。私より先に目を覚ましたのだろうか。


「ユラ、身体は大丈夫なの?」


 私は目の前にあるユラの顔に向かって尋ねた。回復してくれていることは分かるけれどユラだってかなりの魔力を使ったはず。そのひたいに汗が流れている。


「イトアの力があの大魔法を使っても有り余るほど流れてきたんだ。魔法の反動で一時期気絶しちまったけどこっちは軽傷だ。それにしてもイトア、お前のあの力何なんだ⁉」

「うん……」


 私はうまく言葉にすることが出来なかった。左手が温かい。今度は視線をそちらに向けるとカナタがひざを曲げかがんだ姿勢で私の顔をのぞき込んできた。彼が私の手を握っていてくれていたのだ。


「紬……」

 カナタは私の顔にこうべを垂れると私にしか聞こえない声でささやいた。


「イトア、どうやって連続して発動できましたの? あなた何をしたの?」


 カナタを通り過ぎ対面の椅子に視線を移すと膝あてのストールを身体にかけ、馬車の椅子に横たわっているトゥエルがそのままの姿勢で尋ねてきた。彼女も魔力を使い果たしてしまったことが分かった。


「……」

 私は瞬時に答えることが出来ず黙ってしまう。


「イトア……」

 カナタが横たわっている私の身体を抱きしめてくる。


「おい! まだイトアは重症なんだ。どさくさに紛れて触んなっ」


 私をカナタから引きがしながら、ユラの怒号どごうが馬車の中で響いた。


 私は右手をおもむろに天にかざす。


 やっぱりだ。

 ──右手の小指はもう私の意志では動かなくなっていた。


─────


 拠点ホームに帰る頃には私の治癒は終わっていた。ふらふらになったユラもベッドに腰をかけそばにいてくれている。私は大事をとってベッドに横になっていた。


「イトア‼」


 そこへ血相を変えたフルーヴがノックもままならず部屋に飛び込んできた。開口一番かいこういちばん。彼は単刀直入たんとうちょくにゅうに切り出す。


「どこを……代償だいしょうにされたの?」

「え、あの」


 私は何もいっていないのに彼は全てを知っている口ぶりで私に問いただす。そして珍しく声を荒げ、かす。


「いいから、見せて」


 私は圧倒され、しぶしぶ右手を差し出した。


「右手の小指です。感覚が……動かなくなりました。」


 フード越しからでも分かる。

 フルーヴの顔がさーっと青ざめていく。


「何を言ってるんだ⁉」

 初めて聞く私達の会話の内容に動揺を隠せないでいるユラの姿が見える。


「馬鹿ッ‼」

「それが、耳だったら…どうするの? それが……目だったら……どうするの?」


 ユラの動揺を余所よそにフルーヴは凄い勢いでまくし立ててきた。私はまたしても圧倒されてしまい言葉を詰まらせてしまう。


「それは……」


「それなら、私の魔法で何とかできるんじゃないのか⁉」

 話しの端々はしばしから察しをつけたユラが口を開いた。


「ユラ、これ……契約だから……魔法で治せる理屈……通じない」


「なん……だって⁉」

 ユラは絶句した。


 フルーヴは唇をわずかに震えさせ怒りをおさえながらゆっくりと静かにさとしてきた。あれは、救世主じゃない……悪魔だよ、と。私はフルーヴの顔をとてもじゃないけれど見ることが出来なかった。やましい気持ちをまるで隠すかのように。


「一度……味を占めてしまったら……また頼ってしまうよ」

「……」

「次からは……頼っちゃダメ……絶対だよ」

「……」


 私は深くうつむいた。素直に返事を返すことが出来なかった。あまつさえあの時私には天使に見えてしまった。それは簡単に力を得るという甘えなのだろうか。トゥエルの言葉を思い出す。あれは身体をむしばんでいく、と。


 その通りだ。こんな事を続けていくと私の身体はまともには……。化け物になってしまう。トゥエルとフルーヴの言葉の意味を今、やっと実感した。


「どういう……事ですか?」


 この声に私の瞳孔が開く。

 グラグラと揺れる。


(続く)

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