第07話】-(リミット解除/覚醒

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

フルミネ〉人食らいになってしまった少女

ギルメン〉トゥエル、エテル、ユラ、フルーヴ

──────────


(客観的視点 続き)


「もう、終わりにしよう、フルミネ」


 エテルにもう迷いはなかった。鋭い眼光がんこうの先にフルミネをとらえている。そして攻撃の体制をとる。昨日と同じようにトゥエルがワルキューレを召喚した。慎重しんちょうにフルミネと間合いを取る二人。


 それに気が付いたフルミネが挑発してくる。


「あら、今日はおとなしいのね。それじゃあ、私からいくからあああああっ‼」


 フルミネの筋肉が増強されていく。それはもう少女の容姿ではなかった。あれから何人の人間を食らったのだろうか。みるみると二の腕、太もも、ありとあらゆる身体の筋肉が張っていく。異形いけいの姿へと変貌へんぼうしていった。


「フルミネ……」


 顔をしかめるエテル。フルミネは片手を天にかかげ。



 ──『落雷螺旋フードゥル・タンペット



 円月輪に稲妻がまとわりついていた。その円月輪を両の手に具現化しエテル達の元へ突進してきた。先頭に位置していたエテルに向かいフルミネは大きく振りかぶり片方の円月輪を投擲とうてきする。


 昨日よりも確実に速度を増した凶器。その違いに驚愕きょうがくしながらも寸前すんぜんのところでエテルは身体をのけり交わしていく。回避した円月輪が大木に直撃したと同時に大きな爆砕ばくさいが起こり、大木は木端微塵こっぱみじんとなった。


「あれに少しでも当たると、ああなっちゃうわよ」


 人間が当たろうものなら恐らく腕の一本は吹っ飛ぶであろうその威力に一同は圧倒される。優越感に浸りながらフルミネは自分の手の内を明かしていく。そして今度は四本の円月輪を具現化した。


「さて、避けきれるかしら」


 余裕さえ感じられる声色で問いてくる。フルミネは飛躍し、イトア達がいる方向に向かって円月輪を投擲とうてきした。片手に二本ずつ一気に投げつけていく。円月輪は自分の意思があるかのように散らばり大きく旋回し四方しほうに散らばっていった。


「こっちに集まれっ‼」

 ユラがイトアとフルーヴに声をかける。


 ユラは防御壁プロテクションを具現化し、円月輪を弾いていく。エテルとワルキューレは自力でその円月輪を交わしていく。しかし、ブーメランのように一度回避してもその刃は追いかけてきた。


 フルミネは回避に専念しているエテルに向かって間合いを詰め、そしてエテルの腹部に強烈な拳をぶつけた。エテルの身体がくの時に曲がる。そして宙に舞った。


「ぐはっつ‼」


「まだまだああああっ‼」


 そう言うと宙に舞ったエテルの背中に思いきり足を上げ、強烈なかかと落としを食らわし地面に叩きつける。


 地面に亀裂を作り、倒れるエテルの姿を確認したフルミネは次にワルキューレの元に疾走しっそうしていく。


 ワルキューレは後転しながら踊り狂う円月輪を交わしその攻撃のチャンスを待っていた。フルミネが間合いに入るやいなや、フルミネに向かって剣を振りかざす。フルミネは真正面から攻めてきた。まるで自分が優位であることを知らしめるかのように。


 フルミネはワルキューレの剣を上半身をりするりと交わすと背中に旋回し回し蹴りを食らわし、次の瞬間待っていたかのようにワルキューレの眼前がんぜんに円月輪が姿を現す。


 咄嗟とっさに回避するも腹部に被弾ひだんする。ワルキューレの強固な鎧が幸いして致命傷とまでとはいかなかったがこちらも強烈な一撃をもらう。


「きゃああああああああああっ‼」


 トゥエルの悲鳴がとどろく。

 彼女の舞が中断された。


 そしてよろめいたトゥエルに向かって円月輪が一直線に向かってきた。それを瞬時に察知したイトアがトゥエルの元に駆けていく。トゥエルの背中に直撃するすれすれのところでイトアが背中を押す形で交わした。


 その時彼女の流れる長髪が円月輪の餌食えじきとなった。その長髪はばっさりと。


「あらあら、女の命が可愛そうに」


 攻撃の手を休めその様子を見ていたフルミネが口に手を添え上品にクスクスと笑う。イトアの髪は肩にかかるくらいまでの長さまでさらわれた。


「イトア、その髪……」

「ううん、こんなのいいのっ‼」


 トゥエルの心配を余所よそにイトアは気丈だった。その気丈な姿が気に入らないとフルミネの形相ぎょうそうが変わっていく。と同時にイトアを舐めるように見ていたフルミネの瞳がピタリと止まった。


─────


 彼女はニヤリと笑った。あごを上げ見下した視線でイトアに手のひらを上に人差し指でさしてくる。


「あら、あなた、リミットを外してないの?」

「りみっと⁉」

 イトアは頓狂とんきょうな声をあげる。


「あなたその素質があることに気がついていないみたいね。うふふ。リミットを外さないと面白くないわよ」



「イトア‼ 聞いちゃダメっ‼」



 そこへ透かさずこれまでに聞いたことのないフルーヴの胸声きょうせいが二人の会話をさえぎる。それに驚くイトアだったがフルミネに問いただす。


「何……を言っているの⁉」

「聞いちゃダメ‼ 言ってるっつ‼」


 静止するフルーヴを余所よそにフルミネが話を続ける。


「私が外し方を教えてあげるわ。こうやって外すの」


 手を拳銃けんじゅうのように構えるとフルミネがイトアに向かって銃口じゅうこうを向けた。そして「バァン」と見えない銃弾じゅうだんがイトアの頭を貫いた。


 次の瞬間──。


「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」


 イトアの悲鳴にも似た叫声きょうせいと共に彼女の周りに天に届くまでの光の柱がほとばしった。


「うふふ。こうでなくっちゃ」

 頬杖をつき満足そうにせせら笑うフルミネ。


「イトアに何をしたっつ⁉」


 エテルが声を荒らげ問いただすもフルミネは彼にイトアを見るようにとあごで合図を送る。一同が見守る中、しばしの間、イトアはうつむき無言を貫いた。


 そして。


「……そびましょ」


 イトアが何かつぶやいた。するとこれまで見たことのない鋭い眼光がんこうをフルミネに向けたイトアの姿に皆が驚愕きょうがくした。


「「「「イトア⁉」」」」


 一変してイトアは子供のように首をかしげ微笑む。



「遊びましょう?」



 そして無表情に変わる。薄花色うすはないろの瞳に光を消して。


「あははははは。それよそれっつ‼ それが本来のあなたの姿」


 フルミネは興奮に満ち溢れ顔を紅潮こうちょうし口角を大きく上げあざ笑う。その瞳の先にはイトアしか見ていない。イトアはおもむろにフルミネに向かって手をかざした。瞬刻しゅんこく風の刃がフルミネの腕を吹っ飛ばす。


「「「「──っ⁉」」」」


「あれ……無詠唱じゃなくて⁉」

 手を口に当て信じられないと目を見開くトゥエル。


「そうだよ……イトア本来の力……なんだと思う……強制的に外された」


 いつも無表情のフルーヴが顔をゆがませ静かに告げた。


(続く)

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