第60話 ロックリザードの討伐に向けて

討伐失敗から丸一日が経過した。

 怪我人が出て慌ただしかった村は次第に落ち着きを取り戻していた。こんなに早く落ち着きを取り戻す事が出来たのは、奇跡的に死者が出なかったからだろう。同じ失敗でも死者がいるかいないかで全然違う。


 負傷人たちもポーションなどで治療を有る程度終えたらしい。

 その人たちから情報収集が終わったのか俺たちはとある家に集められていた。俺たちだけではない。ぱっと見十人ほどのドワーフが集められていた。その中にはクレアの姿もある。


「集まってくれてありがとう。討伐作戦のためにも情報を共有しようと思う」


 中心の方で村長さんが声を上げる。


「今回の討伐対象は知っていると思うがロックリザードだ」


 ロックリザードは鋭い爪と強靭な顎を持つ魔物だ。地面の中を掘って進み、鉱石などに含まれる栄養分を摂取して生きている。洞窟などに住み着く事が多い魔物だ。


「ロックリザードは強固な外皮に覆われている。その外皮は食べた鉱石によって強度が変わる」


 村長が言おうとしている事が分かったのかざわつき始める。

「みんなの予想通りだ。早期に対応したが、すでにロックリザードがアダマンタイトやミスリルと言った鉱石を食べたせいで、その外皮はとんでもなく硬くなってしまった。並の剣では傷一つつける事が出来ないだろう」

 村長さんは険しい表情で説明を続ける。アダマンタイトやミスリルは武器にも使用されら鉱石だ。そしてそれらを使った武器はかなりの強度を持つ。そんな鉱石を食べたロックリザードの外皮が硬くなってしまっていると言うまでもないことかもしれない。

 周りのドワーフ達の表情は硬い。それでも村長さんの目には諦めの色はない。


「だが、我らはドワーフ族だ。私たちには鍛え上げた武器がある。他種族に誇れる武器だ。今回の作戦は皆が持ちうる最高の武器で挑んで欲しい。そうすれば勝利は確実だ」


 村長さんの言葉に指揮が上がったのがわかる。自分達ドワーフ族が作る武器への自信から来るものだろう。


「一刻を争う。これ以上時間をかけるわけにはいかない。出発は明日だ。各自準備を終え村の広場に集まってくれて。それでは解散!」


 ぞろぞろと部屋を出ていき、俺とエリン、アウラ、そして村長さんとクレアだけが残った。

 村長さんがこちらに近づいてくる。


「協力に感謝する」


「いえ、俺たちも困りますから。出来る限りお手伝いします」


「ありがとう。ギルドを通した正式な依頼ではないが、しっかりと報酬も出すつもりだ」


「はい」


「期待している」


 そう言い残すと家を出て行った。肩に力が入っており、気持ちが張り詰めているのが分かった。

 村長さんと入れ替わるように今度はクレアが近づいてくる。


「クレアも今回の討伐に参加するんだな」


「うん、ボクも村のみんながやられたのに黙っていられないよ」


 その目には強い決意が浮かんでいる。


「ボクだってそれなりに戦えるんだ。鍛治士は自分で素材を取りに行くこともあるから、戦えないとやっていけないよ」


「なるほど」


 ドワーフの男の腕は丸太のように太いし、体格だって良い。決して弱いようには見えない。クレアの腕は太くはないが同じドワーフなのだから弱いわけがないだろう。それに姉であるソフィアさんはギルドマスターを務めている事からも明らかだ。


「ボクも準備があるから、また明日」


「また明日」


 クレアの姿が見えなくなるとエリンが口を開く。


「武器を作りに来ただけなのに大変なことになっちゃったね」


「そうだな。でも、ほっとけない」


「アレスならそう言うと思っていたけど、村長さんの依頼を受ける前に一言欲しかったかな」


「そうね」


 完全に俺が悪いので素直に謝るしかない。


「ごめん、気をつける」


 疑いの視線を向けられる。何故だ?

 頭を振って思考を切り替える。今は明日の討伐のことを考えなくてはいけない。


「俺たちも明日の準備を始めよう」


「わかった」


 一度失敗している討伐。簡単なわけがない。

 気を引き締めて明日の作戦に臨もう。

 遺跡で見つけた剣を使うためにも負けられない。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


久しぶりの更新です。

更新が遅れてしまい申し訳ありません。

精神的なダメージと日々の生活が忙しくなかなか執筆活動が出来ていませんでした。

フォロー数もかなり減ってしまいましたが、そんな中でも待っていてくださった皆様、ありがとうございます。

不定期更新になってしまいますが、これからも応援よろしくお願いします。

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