第18話 仮説の証明

 俺はエリンを自室に呼び出していた。

 昨日の検証で一つの仮説を立てた。エリンが森で見せた強さと俺があの時に感じた違和感。この二つが関係があるとするならば、おそらく俺は加護に影響を与えることができるのではないかと考えた。もしそうだとすれば、エリンの力が一時的に上がったのは俺がエリンの加護に影響を与え、加護の効力を上げたからだ。

 このことが正しいのなら、今後の展開にも説明がつく。

 転生前に読んだ作品の中で、仲間たちが力をつけていくのに対して、主人公は実力が思うように伸びていなかった。

 おそらく、仲間たちの加護に影響を与えていたため、自分の加護の効力を上げる事が出来ていなかったのだろう。そのせいで主人公だけが周りについていく事ができず、無能呼ばわりされたのではないかと思う。

 だが可能性を考えるのならば、本当に周りの実力が高く、主人公が無能だったと言うこともあり得る。


 その場合、俺はどうしたらいいんだ?

 頭を振って一度考えを止めた。まだ本当に加護に影響を与える事が出来るのか分かっていない。そんな状況でいくら考えても意味がないだろう。

 まずは加護を影響を与えられるかどうかを調べなくてはいけない。そのためにエリンを呼び出したのだ。


「よし、始めるか」


「なにを?」


 エリンは不思議そうに首を傾げている。そういえば何も説明していなかった。 


「森の中でエリンが強くなった理由を一つ考えついたんだ」


「本当に!?」 


「あぁ、だから今日はその確認をするために来てもらったんだ」


「そうだったんだ。私は何をすればいいの?」


「えーと……」


 始めようと思ったが、何をすればいいのか全くわからない。

 あの時は無我夢中だったからあまり覚えていない。覚えていることは、違和感を感じたと言うことだけだ。

 とりあえず、心の中でエリンの名前でも呼んでみるか


 エリンっ!

 当然のように特に変化はないな。次はエリンに意識を集中させてみるか。


 俺はエリンの目をじっと見つめる。すると、エリンも同じように見つめ返してくる。しばらく何も言わず見つめていると、だんだんエリンの顔が赤くなっていく。 


「そ、そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど……」


 俺も異性と見つめ合うなんて気恥ずかしいが、今はそんなことにかまっている暇はない。


「なにか感じたことあるか?」


「その……ドキドキしたかな」


 そう言うことを聞いているわけではないんだけど…これも失敗か。

 今度はもう少し踏み込んでみるか。


「少し体を触らせてくれないか?」 


「えぇ!?」


 大きな声を上げると、自分を抱きしめるかのように腕を胸元で交差させる。


「ち、違う。変な意味じゃない。て、手を触らせて欲しいんだ」


「なんだ、最初からそう言ってよ」


 考え事をしていたせいで、変態みたいな言い方になってしまった。


「はい、どうぞ」


 エリンはこちらに手を出してきた。それを握る。驚くほど柔らかく、温かい手だ。


「あっ……」


「どうした?」


「べ、べつになんでもないっ」


「そうか?」


 直接触れることでより加護の気配を感じやすくなった。

 俺は目を瞑り意識を集中させる。

 加護からは、力強さ、威圧感、圧迫感を感じると同時に、温かさや優しさと言った安心感も感じる。なんとも言えない不思議な感覚だ。

 加護の気配は感じやすくなったが、まだ何かが足りない。

 もう少しで何かが掴めそうだ。意識をさらに集中させる。まるでエリンが持つ加護の全てを感じ取るように……


「あっ」


「おっ」


 二人の声が重なる。


「なんか今、変な感じがしたよ」


 たしかに何かが『繋がった』気がした。今の感覚を忘れないうちにもう一度だ。

 俺の仮説は間違っていなかったんだっ。

 予想以上に興奮している自分がいる。


 この世界で記憶を取り戻してから、エリンの事を助けることや、これから待ち受ける悲惨なことばかりを考えていて余裕がなかった。だが、エリンを救う事ができたことで少しだけ余裕を持つ事が出来るようになった。

 これから少しずつ他のことにも意識を向けて行きたい。きっとその方が楽しい筈だ。

 前世は自分の夢を叶える前に死んでしまった。悔いがないと言えば嘘になる。せっかく転生できたんだこの世界で悔いなく生きたい。

 そのためにも悲惨な運命になんて負けてたまるか。

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