第435話 私のもの!

「う〜ん」


 さてさて、どうしたものか。

 シルヴィアは……なんか機嫌が良さそうだけど、保護者様の目の前で二度寝しようした事実は変わらない。


 これは言ってしまえば、テスト中に試験官が真後ろで見ているにも関わらず参考書を開いてカンニングしていたようなもの!

 皆んなみんなが待っているリビングに着いてしまう前に何か解決策を見出さねば!


「レフィーお嬢様? どうかなさいましたか?」


「ん、何でもない」


 朝昼晩のデザートにお昼のおやつの命運がかかっているっ! とまぁ、普通の有象無象ならあまりの重大さに怖気付いてしまうだろう。


 だが! 私は全ての魔を統べる幼魔神!! 泣く子も黙る、六魔王が一柱ヒトリっ!

 ふふふっ、唸れ! 我が頭脳っ!!

 私の用いる力を! 神能をフル活用して打開策を見つけ出してやろうっ!


「ふふっ」


 私は暴食も怠惰も強欲も嫉妬も傲慢も憤怒も色欲も! 大罪を統べる原初の悪魔!

 欲しいものはなんでも……物でも、人でも、世界すらも私のモノなのだ!!

 この私に不可能はな……


「ふふ、さてレフィーお嬢様。

 神能で並列思考や思考加速までお使いになって、何をお考えになっていらっしゃるのかはだいたいわかりますが。

 到着致しましたよ」


「っ!?」


 ば、バカなっ!!

 我が家は……と言うか私の部屋はシルヴィアを筆頭に過保護な皆んなみんなが施した数々の侵入者対策でそれこそ神級の神能を有する者じゃないとたどり着けない程に厳重な警備がなされているはず!


 当然、物理的な距離もそれなりにある。

 まだ部屋を出て数十秒。

 こんなにすぐにリビングまで辿り着けるはずが……


「悪魔ちゃん、忘れたの?

 いちいち面倒臭いって、悪魔ちゃんが自らそれぞれの場所へのショートカット用の転移門を作ったんでしょ?」


「あっ」


 そう言われてみれば、このお屋敷をダンジョン内に作った時に広大なお屋敷を歩いて移動するのが面倒……こほん、時間短縮のために転移での移動手段を用意した気がする。


「皆とファルニクス様がお待ちですよ」


 ど、どどどどうしようっ!?

 まだ何の打開策も考えついてないんですけどっ!!

 このままじゃ……このままじゃあ私のデザートが……


「おはよう、レフィー。

 待っていましたよ」


「ん?」


 いつも通り、クズ勇者なんて比較にならないほどの王子様感とイケメンオーラ全開なファルニクスはいいとして……ちょっと離れた場所でニヤニヤとこっちを伺い見る眷属の皆んなに七魔公達。

 何この状況?


 と言うか、何故に七魔公の皆んながここに?

 いやまぁ別に世界樹ダンジョンの運営を任せてるとは言え、皆んながずっと世界樹にいないとダメなわけじゃないし。

 皆んなにはこのお屋敷に自由に出入りする許可を与えてるから結構な頻度でここにいるけども……


「ふむ」


 これは、さっきシルヴィアが言ってた大事な日ってのに何か関係あるのかな?

 いつもなら抱きついてくるミーシャとアリーも抱きついてこないし。

 むしろ興味津々って感じで、目をキラキラさせてこっちを観てる……


「レフィー」


「ん? なに?」


「朝食までまだ少しありますし、少し私と一緒に散歩に行きませんか?」


 散歩かぁ〜。

 竜の姿になったファルニクスに乗って遊ぶのは楽しいけど散歩はなぁ〜。


「う〜ん」


 まぁ、別にいいか。


「ん、わかった」


「ではシルヴィア。

 少しレフィーを借りますね」


「はい、どうぞごゆっくりと」


 何そのやりとり。

 別に仲が悪かったって事は無いけど、ちょっと前までは何故かお互いに牽制しあってたのに。


「むぅ……」


 この2人、いつの間にこんなに仲良く……


「じゃあレフィー、行きましょう」


「ん」


 差し出されたファルニクスの手を取ると同時に一瞬で周囲の景色が切り替わる。

 相変わらず一切のロスもない鮮やかで見事な転移だけど……転移するなら散歩じゃないじゃんとか言ってはいけない。


 お屋敷どころか幼魔神の試練私のダンジョンの外に出るとなると、徒歩だったら数日どころか年単位で時間がかかる。

 だけら転移でダンジョンの外まで移動するのは当然なわけだけど、ここは……我が悪魔王国ナイトメアが首都、魔都フィーレの上空か。


「ふふん!」


 何度見ても我ながら素晴らしい街並みっ!

 いやぁ〜、流石は私だわ!!


「ん?」


 この魔素の揺れは……


「ふふふ、しっかりと記録に残さねば!」


「やはりシルヴィア様もですか」


「では、ノワールも?」


「はい、私も準備は完璧に整えています」


「お、お2人とも流石ですね」


「「ふふふ」」


 何やら笑いあってるシルヴィアとノワールに、2人を見てちょっと引いてるアス。


「あっ! いましたよ!!」


「ミ、ミーシャ様! 静かにしてください!!

 気づかれるじゃないですか!」


「リリィーもね」


「あわわわ! なんだか私までドキドキしてきました!」


「アリーちゃんも?」


「ちょっと皆様、静かにしてください。

 バレちゃいますよ」


 騒ぐ女性陣の皆んなに、それを注意する真面目なレヴィア……まぁバレバレだけど、何をそこそことしてるんだろ……?


「レフィー。

 私はキミがどれほど辛い思いをしてきたのかを少しは知っているつもりです」


「ん? うん」


 まぁ、ファルニクスは私の過去を全部知ってるし。


「かつてのレフィーの婚約者はキミを裏切った……ですが、私は何があろうとも。

 たとえ、世界を滅ぼそうともレフィーを裏切らないと、私がレフィーを護ると誓います。

 だから……どうか私と共に、生きてはくれませんか?」


 上空で跪き。

 いつもの柔らかな、だけど何処か緊張したような笑顔で膨大な魔素エネルギーを宿した白く輝く指輪を差し出すファルニクス。


「ふむ」


 これは……もしや、ファルニクスに求婚されているのではっ!?


「……」


 ほほう、これはこれは! そうですか、そうですか!!

 私と共に生きて欲しい、ねぇ〜。


「ふふっ」


 私が黙り込んでるからかファルニクスも不安そうな面持ちになってきてるけど……


「ファルニクス、お前は勘違いしてる」


「勘違い?」


「ん、ファルニクスの前でクソ女神に言ったはず、ファルニクスは私のモノ」


「それは……」


「スイーツも、皆んなも、この国も、世界も!

 そしてファルニクスも、私が欲しいものは全部私のもの!」


 何たって私は、大罪を統べる原初の悪魔だし!


「ふふん! だから私がファルニクスのものになるんじゃない……私とけっ、けけ結婚したいのなら!

 ファルニクス、お前が改めて私のモノになれ!!」


「……ふふっ、まったくキミは。

 せっかく勇気を振り絞ったのに……でも、それでこそレフィーですね」


「ど、どうするの?」


「では改めて誓います。

 私はレフィー、貴女のものとなりましょう」

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