第431話 処刑執行! その8

「〝付与ノ神〟」


 さぁ! 現実を思い知れっ!!



『償え!』



「「っ!?」」



『お前達のせいだ!』


『お前達のせいで!』


『なんで私達が!』


『ふざけるなっ!』


『全部お前らが悪い!』


『償えっ!』


『償え!』


『償え!』

『償え!』

『償え!』

『償え!』

『償え!』

『償え!』

『償え!』

『償え!』

『償え!』



「なん、だ……?」


「何、これ……」


「ふふっ、これが、今! 人間共が思っている事。

 人間は、絶対的な力で、押さえつけられ、捩じ伏せられた時。

 自分では、どうしようもない、事態に、陥った時。

 そして、自身に不利益が生じ、不幸が降りかかった時」


 こういう思考に走る。

 すなわち!


「自分は悪くない。

 悪いのは、アイツだと、責任を誰かに、押し付ける」


 自分がこんな目に遭っているのは誰のせいだ?

 なんで自分がこんな目に遭わないとダメなんだ?

 こんな事になったのは誰のせいだ?


 人間はほぼ全ての事柄の責任の所在を明らかにしたがるけど、その責任を自身が持つ事を嫌がる。

 責任を取りたくないと、誰かに押しつけて自分は悪くないと思い込みたがる。


「結果、その責任は、権力者。

 多くの人間共の、上に立つ者、代表者のせいだ、という結論に至る」


 つまり! 五大国の中で唯一、我が悪魔王国ナイトメアについたアクムス王国に避難しているとは言え。

 流石のアクスム王国でも数百万、数千万、もしかしたら億単位に届いてるかもしれない程に膨大な数の人間を受け入れ、十分な衣食住を保障することなんて不可能。


 まぁ、この世界の大国よりもはるかに発展してる地球の主要国でも一度に億単位の人間を何の混乱もなく受け入れる事なんて不可能だろうし。

 いかに五大国といえども当然なんだけど。


 私達とクズ勇者共との間で戦争が勃発した事になって低下した生活水準。

 満足な食事もできず、暖かく柔らかいベッドなんてあるわけもなく地べたで寒さに震えながら毛布に包まるしかできない生活。


 では、なんでこんな苦しい思いを。

 辛い思いを自分がしないとダメなのか?

 自分達も私を悪様に罵り、蔑み、石を投げ、私が処刑されることに歓喜していた事実を棚に上げて身勝手で醜い人間共は考える。


 そもそも、こんな事になったのは誰のせいだ。

 誰がこの戦争の原因を作ったのか。

 全てはあの時、冤罪で公爵令嬢を処刑したせいじゃないのか?


「自分達は、悪くない。

 悪いのは全部、お前達だと、考える」


 自分達は冤罪だって事なんて何も知らなかった……いいや、知る事なんてできるはずもない!

 だって、権力者達がお偉い貴族様や王族の方々がそう言ったのだから!!


 そう自分に言い聞かせて、それを免罪符に罪悪感から逃れるために。

 こんな事態に陥ったという責任から逃れるために、人間共は勇者や聖女であるお前達に全ての責任を擦り付ける!


「復讐は次の復讐を生む?」


 確かにその通りだ。

 この戦争によって、そしてお前らを殺すことによって、私の事を怨み、憎しみ、憎悪する者は一定数現れる。


 けど……私の圧倒的な、絶対的な力を目の当たりにし、心が折れた大多数の人間共は保身に走って絶対に敵う事のない私ではなく。

 もっと手頃な対象、すなわちお前達へと全ての責任をなすり付けて憎悪する事で自分は悪くないのだと思い込む。


「人間共が、恨むのは、お前達。

 私じゃない」


「「っ!!」」


 ふふっ! 前回……旧魔王との戦争の時は私を全ての元凶とし、私と私の大切な人達を槍玉にあげる事で権力者共に向くはずだった人間共の不満を逸らしたけど。

 今回、体のいい生贄たる私はどこにも存在しない!


「あはっ!」


 全ての人間共の希望の光にして、多くの人々から尊敬される英雄である勇者が!

 誰にでも平等に接する、心優しくみんなから愛される聖女様が!

 今や多くの人間共から恨まれる対象へと堕ちた!! いい気味だわ〜!


「そんなの、そんなのあんまりよ……! 私達は全力を尽くしたのにっ!!」


「ふふっ、そんな事は関係ない」


 全力を尽くした者が。

 必死に努力した者が全員報われるとでも思ってるのかな? そんなハズないのに。


「大多数の、人間共にとって、過程なんて、関係ない。

 重要なのは、結果だけ。

 ふふっ! ねぇ、どんな気分?」


 人間共のために必死に頑張ったのに。

 下心はあっても、身命を賭して私と戦ったにも関わらず、全ての責任を背負わされて大勢の人間共から憎悪される気持ちは?


「「っ……」」


 さてさて! 悲痛そうな顔で落ち込んでるところ悪いけど……


「勇者ノアール。

 聖女リナ」


 バカ共の勘違いも正してやった事だし……そろそろ、コイツらの処刑を始めるとしよう!!


「これより、お前達の、処刑を開始する」

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