第400話 罪を贖え

 ふふっ! これでクズ勇者が! アバズレ聖女が! 救世の六英雄が私に対して行った非道が公になった!!


「あはっはっはっ!!」


 それだけじゃ無い!

 アルタイル王国だけじゃ無く各国のその他大勢のお偉い方老害共が民衆の不満を為政者である自分達から逸らし、少しでも軽減するための生贄にされた事も!


 これ幸いと実際にはなんの罪もない私の家族を拷問して処刑し、我が家に仕えていた使用人達を嬲り殺し、私の事を庇ってくれた友達さえ無惨に殺した事。

 かつて為政者共が葬り去った闇が公になった!!


「ねぇ、勇者ノワール」


 お前のお隣にいる愛しの愛しのアバズレ聖女の本性を知った気持ちは。

 アバズレ聖女が前アルタイル国王であるお前の父親達と共謀して私を嵌めて! 貶めて! 嘲笑い! 嬲り殺した事実を知った気持ちは?


 仲間であるガスターが、マリアナが、クリスが、フェリシアが。

 六英雄達が冤罪で私を殺すために、アバズレ聖女に交渉を持ち掛けられてありもしない証言をしてた事を知った気持ちは?


 まぁ、クリスはアナスタシアが遣わした聖女様であるアバズレ聖女リナを狂信してるし。

 フェリシアは仲間の言う事を疑いもせずに信じ込んで正義の名の下に行動しただけでアバズレ聖女と交渉はしてないんだけど。


 ふふふ! 私と言う幼い頃からの婚約者がいながら真実の恋って言う私からすればイタ過ぎる、けど当人からすれば響きの良い浮気をして。

 さも当然とばかりに自分の都合で一方的に、虐待とすら言える王妃教育を長年受けてきた私を切り捨て。


 私の時間を、私の半生を無駄にし。

 それでも聞き分け良く、なんの文句も恨み言も言わずに粛々と身を引いてあげた私に対して……アバズレ聖女の言う事全てを盲目的に信じ込んで。


 大した調査も行わず、私の言い分なんて一切聞く事なく捕らえて。

 普通なら下級貴族でもあり得ないのに、公爵令嬢であった私を地下牢に繋ぎ。

 度重なる暴力、拷問、陵辱に飽き足らず、私の事を悪魔と呼んで貶めた。


「今、どんな気分?」


 お前のした、とても人々を守る勇者様とは思えない。

 それこそ悪魔のような所業を客観的に見て、思い知った気分は?


「ねぇ、教皇クリス」


 かつての婚約者が他の男と話しているところを見ただけで浮気だ、不貞行為だ、アバズレだと罵って捨てたお前が!

 心の底から狂信していた心優しい聖女様が、私から婚約者を寝取るだけでは飽き足らず、私と私の大切な人達ごと排除した醜いアバズレだと知った気分は?


 お前の信仰する神が。

 人々を守護する慈愛の女神アナスタシア様が、お前自身がかつてアバズレだと罵った行為を! 私に対して行われた非道を黙認していた事実を知った気分は?


「どんな気持ち?」


 ふふっ! さっきから全員、黙り込んじゃってるけど。

 もっと、もっと、もぉっと! 煽ってやる!!


「ねぇ、聖女リナ」


「っ!」


 おっ! 流石は私を排除して王妃の座を手にいたアバズレ聖女様、この状況でまだ私を睨みつけるとは!!

 あはっ! 心優しい聖女様らしくない表情になっちゃってるよ?


 私の記憶付与のサプライズは気に入っていただけたようで何よりだわ〜!

 それで? 自分の本性が暴かれちゃった気分は?


 私を嵌めて、貶めて、嘲笑って、嬲り殺してくれた事実が公にされた気分は?

 お前の欲望のせいで、原初の悪魔が生まれて、こんな事になった気分は?


「どんな気分?」


「……う」


「ん?」


「違う! 違うのです!

 あれは私のせいでは……あれは、あれは! 仕方なかった事なのです」


 何を言い出すのかと思えば、仕方ない? このバカ女神は何を言ってんのやら。


「聖女リナは私達の都合でこの世界に無理やり連れてきてしまった。

 家族とも、親しい友人ともある日突然引き離されて、この世界の問題に巻き込んでしまったのです!」


 ふむ、まぁこの時点で言いたい事は色々あるけど……一応最後まで聞いてやるか。


「それでも! それでも聖女リナは、そんな私達の世界を守ろうと!

 人々を守り、苦しみから助けようと尽力し、勇者ノアール達と共に魔王を討ち倒してくれました」


 何やら涙ながらに語ってるけど……白々しいわ!

 何が魔王をだ! その魔王を作り出してたのは管理者! つまりはこの世界の主神たるお前なんですけど。

 それを世界を守ろうと尽力してくれたって……


「魔神レフィー、貴女は聖女リナが可哀想だとは思わないのですか?

 私達の都合で突然親しい者達と引き離され危険に巻き込まれたにも関わらず、死力を尽くして魔王を倒してくれた彼女に感謝の気持ちは無いと言うのですか!?」


「……」


「私はこの世界の神として彼女に、この世界のために身を粉にして尽力してくれた聖女リナに報いる必要が……」


「ふふっ! あはっはっはっはっ!!」


「な、何を……きゃっ!?」


 あ〜、せっかく最後まで聞いてあげようと思ってたのについつい笑っちゃった上に、クソ女神の頭を踏んで邪魔しちゃったわ。

 だってまさか、私の記憶を見た直後でこんな事を言うとは思わなかったし! うんうん、これは私は悪くない!!


「聖女リナが、可哀想だとは思わないのか?」


 ふふっ! 当時の私ならともかく、今の私がそんな事思うはず無いじゃん。

 それに……


「アバズレ聖女の召喚は、そこにいる勇者ノアールが、王族が議会も通さず、独断で勝手に行った事。

 それに、その手段を与えたのはお前自身だ」


 つまり、クズ勇者共とお前のせいでアバズレ聖女は召喚されたってわけだ。

 聖女の召喚を事後報告で知った私に、勝手にお前達の罪を着せるな。


「私達の都合で、突然親しい者達と引き離された?」


「そ、そうです!

 貴女なら、彼女の苦しみがわかるハズです!!」


「ふざけるな!」


「っ!!」


「この世界に召喚されて家族から、友達から、親しい者達から引き離された聖女が可哀想って言うのなら!

 そのアバズレ聖女のために、家族も! 友達も! 仕えてくれていた使用人達も! 親しい者達を皆殺しにされた私は可哀想じゃ無いとっ!?」


 何が、貴女なら彼女の苦しみがわかるハズだ。


「何でそのアバズレ聖女に向けられた気持ちを私には一欠片も向けられない?

 何で王族の! クズ勇者の! クソ女神の! お前達の罪を贖うために私が! 私の親しかった者達が生贄にならなければならないっ!!」


 罪を償え? 悔い改めろ? ふざけるな。


「お前達こそ……罪を贖え」

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