第237話 難易度は的確なのだよ

 地上約100メートル。

 五大国が一角であるアクムス王国の王都フェニルを一望でき、世界樹の頂上から見る日の出はまさに絶景!

 絶景なんだけど……


「ふぁ〜……眠い」


 そろそろ早い人は起きて仕事を始める時間だから、もうちょっとで人間達の慌てふためく姿をみれるだろうけど。

 もうめちゃくちゃ眠い!


 さっきから瞼が重いし、断続的に強烈な睡魔が襲いかかって来てる。

 今なら一瞬で心地いい惰眠を貪れる気がするわ。


『昨日の昼間にあれだけ寝たのに。

 と言うか、そもそも悪魔ちゃんって受肉してるとは言え悪魔族デーモン、精神生命体だから睡眠も食事も必要ないんだけど』


 ふっ、何を今更!

 私は暴食にして怠惰! 大罪の悪魔なのだ。

 精神生命体だから睡眠も食事も不要? そんな事は関係ないのだよっ!!


 そもそも! 悪魔族デーモンは精神生命体うんぬんの前に自身の欲望に忠実な種族。

 例え必要がなくても寝たいと思ったら寝る! 食べたいと思ったら食べる!


 それに、私は転生してからは悪魔族として自分の欲望に従って毎日のように惰眠を! 美味しいご飯とスイーツを貪って怠惰に、自堕落に過ごして来たのだ!

 ふっ、毎日の習慣をナメないでもらいたい。


『なんでちょっとドヤってるの?』


 と言うか!

 この状況で眠たくならない方がおかしいと思う!!


『無視……』


 邪神は昨日の昼間にあれだけ寝たのに、とか言ってるけど、アレはただのお昼寝だし。

 何より世界樹の内装を整えるために徹夜明け!


 そんな状態で、柔らかな風が吹くように魔法で調整された世界樹の頂上でモフモフな氷魔猫ヒョウマネコ姿のミーシャを抱きしめながらフカフカなソファーに座って!

 パラソルを立てて暖かな朝日を浴びる……これで睡魔が来ないわけがないっ!!


「むむむ……」


 何とか絶えなければ!

 せめて王都フェニルの人間達が世界樹の存在に気づいて慌てふためき、驚愕して大騒ぎを始める姿を見るまでは寝るわけにはいかないのだ!!


「レフィーお嬢様、無理をなさらずにお眠りになられた方がよろしいのでは……」


「やだ。

 リアルタイムで見たい」


 私は原初の悪魔にして魔を司る魔神!

 この私がこの程度の睡魔に屈するわけがない! 私なら抗えるハズ!!

 ハズだけど……うん、念のために王都の様子を録画しとこ、あくまでも念のためにっ!


「そうだ」


 寝落ちしないためにも、私が徹夜までして創り上げた世界樹の内装を説明してやろう!

 ふふん! ありがたく聞くがいい!!


『いや、私もずっと見てたし、わざわざ説明されなくても知ってるんだけど……』


 煩いっ!

 こちとら眠くて機嫌が悪いんじゃ! 黙って聞いてろっ!!


『そんな理不尽な』


 まずは第一階層!

 ここは、世界樹の内部だけじゃ無くて世界樹を造るために展開して結界の範囲内全てが階層領域になるわけだけど。


 第1階層では上階層に繋がる階段以外には世界樹の中も空洞になっていて特に何も存在しない。

 この階層だけは世界樹攻略のための準備区画。

 ギルドの支部とか、宿とかが作れるように10数メートルの高さがある空洞になってる。


 だから厳密にはこの世界樹の高さは100メートルを超えてるわけだけど……

 うん、細かい事は気にしない! はい、次っ!!


 第2階層から第9階層までは洞窟じゃ無くて壁と床が木でできた壮大な迷路が広がる。

 出現するのはゴブリンとかスライムにコボルトと最下級の魔物だけだし、特にトラップとかも存在しない。

 いわゆる初心者エリア!


『もっと鬼畜な迷宮ダンジョンを造ると思ってたけど、初心者エリアなんて……

 いや本当に驚く程に悪魔ちゃんにしては易しい難易度だよね』


 ふっ! 何のために私が冒険者をやっていると思っている!?

 ただ単に遊んでいるだけだとでも思ったか?

 ふふん! 冒険者として遊……こほん、活動する事で人間共の平均的な実力を調べていたのだ!!


『今、遊んでたって言いそうになったよね?』


 シャラップ!

 今そこは重要じゃないから一々話を止めないでもらいたい。


『……』


 話を戻すけど、この世界樹は別に侵入者を殲滅する事が目的じゃない。

 無論、上階層に行けばいくほど難易度は上がるけど、この世界樹の目的は多くの人を集めて世界に循環させるエネルギーを得る事にある。


 迷宮ダンジョンでDPやエネルギーを集める方法は別に侵入者を排除する事だけじゃ無く、内部に侵入者があればそれだけで微量とは言え獲得できる。


 大勢殺して一時的に大量のエネルギーを得たとしても、王都のすぐそばだから警戒はするだろうけど、それじゃあ誰も挑戦しなくなるかもだし。

 それよりも迷宮の旨味をアピールしてより多くの人を呼び寄せた方が遥かに効率がいいのだ!


『まっ、そりゃそうだろうね』


 そして! 記念すべき第10階層、ここはいわゆるボス部屋である!!

 出現するのはホブゴブリンが1匹とゴブリン、コボルトが3匹ずつ。


 まぁ、ぶちゃけそこまで高い難易度でも無い。

 最下位のFランク冒険者でもしっかりと準備を整えてパーティーで挑めばほぼ確実に犠牲を出さずに突破できる程度だからな。


『うんうん、ちゃんとした迷宮になってるようで私も一安心だよ』


 誰目線なんだよお前……まぁ、別にいいけどさ。

 そんでもって、次の第11階層から第19階層まではまた迷路が続くわけだけど。

 ここではゴブリンやコボルトの上位種であるホブゴブリンやホブコボルトが数匹の小規模の群れを率いて出現する。


 さらに16階層からは、トラップが少しだけ設置されているのだ!

 とは言っても、下の階層に落とされる落とし穴を始め、殺傷能力の低いモノだけだけど。


 そして、目標であった第20階層。

 ここでは私の大っ嫌いな豚こと、オークが3匹ボスとして立ち塞がる。


 まぁ、オークは自体は通常種だから危険度Dランクの雑魚だけど。

 それが3匹となればFランク冒険者はもちろんEランク、Dランクの冒険者にも一応の関門となる……ハズ。


『けど、流石に簡単すぎるんじゃ無い?

 まだ20階層までしか造れてないし、王都フェニルにはBランク以上の高位冒険者も結構いるからギルドが調査に乗り出したら簡単に突破されると思うんだけど』


 まっ、確かにオーク3匹程度ならCランク以上の冒険者なら手こずる事なく処理できる。

 が、しかしっ! そこに至るまでに広がる広大な迷路。


 ふっふっふ〜! 今回の徹夜の内、殆どの時間を費やして作り上げた自信作なのだ!!

 危険がないか、ゆっくりしたペースで攻略を進めるだろうギルドの連中に数日で突破される事はまず無いと断言できるっ!!


「ふぁ〜……」


 どう? 邪神も結構頑張ったと思うでしょ?

 ふふふ、ふ〜ふっふっふ! ふはぁっはっは!! さぁ、私を褒めるが、いい……


「あっ、レフィー様!

 どうやら人間達が世界樹に気付いて騒ぎ始めたみたいですよ」


「本当ですね。

 ほら陛下、早速大騒ぎになってますよ?……陛下?」


「ふふ、どうやらレフィーお嬢様は眠ってしまわれたようですね」

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