付与って最強だと思いませんか? ~悪魔と呼ばれて処刑されたら原初の悪魔に転生しました。とりあえず、理想の国を創るついでに復讐しようと思います!~
フウ
第1章 悪魔誕生編
第1話 プロローグ
その日、人々は熱気に包まれていた。
巨大な山脈で分断された大陸の西方部に存在する大国、アルタイル王国。
その王都では各国の王侯貴族や重鎮が訪れ、盛大な祭りが催されていた。
皆が皆、浮かれ、酒を飲み、人々の顔には笑顔が浮かぶ。
それは長年に渡る宿願の日。
強大な悪が滅び、世界に真の平和が齎される日──
「これより、断罪の儀を執り行う!!」
王都の中心の聳え立つ、美しく荘厳な王城。
その正面に広がる、普段は王都民達の憩いの場となっている中央広場。
この日のためだけに中央広場に建造された、特設ステージに立つ1人の男の声が響き渡り……
「「「「ワァァァッ!!」」」」
一際大きな歓声が巻き起こった。
*
アルタイル王国が位置する大陸西方部と比べ、強大な魔物達が数多く存在し、未だ未開の地も多い大陸東方部。
その地にて魔王が復活したのが、今から約5年ほど前の事。
魔王は空を埋め尽くす魔物達の軍勢を率いて侵略を開始。
僅か3ヶ月足らずで大陸東方部が魔王によって支配され、その強大にして圧倒的な力の前に、人類は瞬く間に窮地に追いやられた。
そんな人類を救ったのは、勇者様を筆頭とする6人の英雄。
勇者様と彼の仲間である英雄達によって魔王は倒され、世界に平穏が訪れた……かに見えた。
しかし、本当の巨悪は別に存在したのだ。
その巨悪こそ──諸悪の根源こそ〝悪魔〟。
かの魔王以上に狡猾で卑劣な悪魔は、なんと密かに人類を支配しようと画策。
人の皮を被りと、人間の中に紛れ込んでいたのだ。
しかし、その事実と正体を勇者様と共に戦った英雄の1人にして、勇者様の現婚約者である聖女様が見破られた。
慈悲深く心優しい聖女様は、卑劣な悪魔にさえも歩み寄ろうと試みたが……
焦った悪魔は愚行に。
事もあろうに、手を差し伸べた心優しき聖女様を抹殺しようと凶行に出た!!
しかしながら、幸いな事に聖女様は軽傷を負われただけですんだ。
聖女様の身を案じた勇者様が、聖女様の身の回りの様子を探らせていたのだ。
こうして、勇者様の指示を受けていた騎士達によって、卑劣な悪魔は捕われた!!
「慈悲深く手を差し伸べた聖女を……彼女を抹殺しようなどと断じて許される事ではない!!
奴を連れて参れ!」
先日アルタイル王国より発表され、世界を震撼させた報せを、改めて周知するかのように長々と話していた男。
先程、断罪の儀の開始を高らかに宣言したアルタイル王国国王の言葉受けて、
みすぼらしいボロボロの貫頭衣を身に纏い、痩せ細ったカサカサの肌の至る所から血を流す。
無造作に短く切られた髪はボサボサで、かつて至宝と呼ばれた美貌は見る影もない。
名を呼ぶのも悍しい、その少女……悪魔は、人々の罵声にも一切の反応を示さない。
ただただ、ハイライトを失った……既に死んでいるような虚な瞳で虚空を見つめる。
その時、ステージの上に現れた1人の青年の姿に、罵声とは違った歓声が湧き起こる。
青年の名は、ノアール・エル・アルタイル。
大国アルタイル王国の王太子にして、魔王を討った勇者。
「無様だな」
ノアールは磔から降ろされ、引き摺られるようにして断頭台の前に跪かされた悪魔……かつての婚約者を軽蔑したように一瞥し、ポツリと呟く。
「見るがいい。
これが愚かにも、貴様を庇った者共の末路だ」
無気力に項垂れる少女の髪を無造作に掴み上げ、無理やり視線をソレに向けさせる。
悪魔の、少女の視線の先に並ぶのは、少女と親しかった者達の……首。
「…っあ、あ……あ!」
家族の、従者の、親友の──苦痛と恐怖に歪んだ貌をした首。
わざわざ横一列に並べられたソレを目にして初めて、虚な目をしていた少女の焦点が合わさり、碧い瞳の目が見開かれる。
これ以上、人々を惑わさないようにと──余計な事は喋れないようにと、早々に潰された喉から言葉にならない声を漏らし。
その瞳から涙が零れ落ちる。
「聖女であり、将来の王太子妃。
ひいては王妃となるリナを殺そうとした貴様を匿い、庇ったのだ。
結局、最後まで何も話はしなかったが……彼等は拷問を受けて、苦しみ抜いた末に死んだよ」
ノアールを一瞥する事すらなく、ただただ唖然と目を見開いて少女は涙を流す。
「残念だよ。
君にはリナを支えてほしかった」
もう自分の声も聞こえていない様子の元婚約者の姿を、ノアールは少し悲しげな目で数瞬見つめて踵を返す。
そしてノアールが現在の婚約者である、聖女リナに寄り添ったのを確認し……断罪の刃が振り下ろされた。
悪魔と呼ばれた少女の首は宙を舞い……突如として、少女の首と身体が白き炎に包まれる。
誰もが唖然とする中、一際強く白炎が光り輝き……少女の亡骸が消滅した。
それは誰にとっても想定外の出来事だった。
国王にとっても。
各国の重鎮達にとっても。
勇者にとっても。
そして……聖女にとっても。
一瞬の静寂が広場を支配し……人々の歓声が鳴り響いた。
白き炎は、神聖なる神の炎。
何も知らない庶民達にとって、それは正しく下劣な悪しき悪魔を聖女様が浄化した証に他ならない。
魔王は打ち滅ぼされ。
諸悪の根源たる巨悪……〝悪魔〟は処刑され、神聖な白き炎に焼かれて骸すら残さずに消え去った。
人々は遂に真の平和が訪れたと歓喜に沸いた。
悪魔と呼ばれた少女が処刑された日。
その日は後に聖炎祭と呼ばれ、盛大な祭りが催される祭日となる事となる……
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