第77話 三者三様の反応

「よく言った」

「鈴音様、かっこよかったです」

 一気に盛り上がる会場の中、健星とユキがそう褒めてくれ、鈴音は良かったと笑みが零れていた。やっぱりこの二人に褒めて貰えるのが一番嬉しい。

「いやあ、これでもう心配はないね」

 すでに酔っ払いモードの月読命がそう声を掛けて来たが

「まだ鬼の問題がありますよ」

 と健星からずびしっと指摘が入る。うん、健星って本当に月読命に容赦がない。いつもどおりだ。

「でもまあ、こんだけどんちゃん騒ぎしていたら、彼らはどう思っているかなあ」

 しかし、月読命は大丈夫じゃないと笑い、あっちを見てみなよと、清涼殿の隅で天海と政子がにやにや笑っている様子を指差す。

「してやられたってことですか?」

 健星はじどっと月読命を睨む。

「いや。政子もここまで上手くいくとは思っていなかっただろうし、天海もそうだよ。それに、ここにいた誰もが、王が替わるという新しいことに挑み、どうなるか解らない不安の中にいたんだ。それを解きほぐしたのは鈴音の手柄だよ」

「えっ?」

 急に自分に話題が戻って、鈴音はびっくりしてしまう。

「変わらなきゃいけないって思いながらも健星に頼りっぱなし。どうすればいいのか解らなかったのを、鈴音が一気に解決したんだよ。健星だって、実は自分が王になっても上手くいかないって解っていたから、すぐに鈴音を推す側に回ったんだしね。つまり、鈴音がいなければここまで丸く収まる結果は得られなかったんだよ」

「そ、そんな」

「それに君が、妖怪たちを受け入れるって表明してくれた。これも大きいだろうね」

 月読命はそう言って、こうやって妖怪が集まってくれること自体が珍しいんだよとしみじみ呟く。

「ああ、縄張り意識っていうか、ここにいたいって気持ちが強いから」

「そう」

 鈴音もこうやって王になるなんて騒動がなければ、妖怪がこんなにも色々といるなんて知らなかっただろう。しかも現世のお寺がいいと思っている妖怪やこの川がいいと思って住み続けている河童がいることも知らなかったはずだ。

 そんな彼らも、新しい王ってどんな人だろうと興味を持ってくれていた。それまで冥界なんて関係ないと思っていたはずなのに、ちょっとは見てみようかと思ってくれたのだ。これは大きな変化だろう。

「結局のところ、選挙と言い出したのも、多くの妖怪に興味を持たせるためだったってことだな。この冥界はほぼ元人間たちが官僚仕事をすることで成り立っている。その関係性を変化させるためにも、半分ずつ血が流れている鈴音は丁度よかったってことだ」

 やってらんねえぜとばかりに健星は言うと、ぐびっと瓶ごとビールを飲み出した。もう今日の仕事は終わったということか。

「まあまあ。俺もここまで考えてなかったよ。ま、まあ、紅葉はどこまで読んでいたか不明だけど」

 月読命はそんな陰謀だったみたいに言わないでよと眉を下げる。が、紅葉の名前が出たことで、健星も鈴音も、そしてユキも納得だ。

「そうだ。どうせ私が二十歳になったら冥界に呼び寄せるつもりだったみたいだし」

「ああ。仕組まれてるよ。どうせあの左大臣も右大臣も知ってたに違いない。その上で今まで傍観してたんだ」

「はあ。九尾狐とは素晴らしきものですから」

 鈴音が溜め息、健星が馬鹿馬鹿しくなってきたという顔、そしてユキは賞賛という、いつも通りの三者三様の反応だ。

「鈴音様、大変です」

 と、そこにあの平将門がどかどかと駆け込んできた。その格好はなんと甲冑かっちゅう姿だ。

「ど、どうしたの?」

「鬼どもが動き出しました。出陣準備を」

「ええっ」

 鈴音は一週間経ったっけと健星を見たが

「ほらな。無視できなくなって動き出した。行くぞ」

 解りきっていたと、さっさと立ち上がった。

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