第39話 健星が背負っているもの

「ううん。つまり妖怪の統治って難しいってことね」

 ただ、鈴音にもようやく月読命が匙を投げ、健星が現代で取り締まる必要があることを理解した。

「そうだ。七人ミサキにむやみに人を招かないように注意すると同時に、俺は七人ミサキが起こしてしまった理不尽な死を始末することになるってわけだ。まあ、取り締まりを強化という点には、こういう現世に居着いている妖怪だけでなく、現世と冥界を行き来する連中のこともある。冥界にいることが出来るのならば、現世にちょっかいをかけるのは止めさせたいところだ」

 刑事だって万能じゃないからなと、健星は溜め息を吐く。そりゃあそうだろう。というより、全部に対応していたら健星が倒れてしまうのではないか。

「それは大丈夫だ。妖怪どもからすれば俺は人間かもしれねえが、人間からすれば俺は人間じゃねえし」

「は?」

 何それ、なぞなぞか。鈴音は健星の言いたいことが解らずに訊き返す。

「お前は本当に物事をしっかり考えない奴だな。だからここまで流されるだけで、理解が一つも追いついていないんだ」

 それに対して健星、ど直球な嫌味を言ってくれる。悔しいことに、それに対して反論できない自分がいる。

「だって、健星は人間でしょ」

 しかし、ここで説明してもらえなかったら、二度と聞き出せない気がする。これから一緒に戦っていくわけだし、知らないままにはしたくなかった。鈴音は違うのと、ずいっと顔を寄せて訊く。

「うひゃっ」

 それになぜかユキが変な声を上げたが、今は無視だ。健星の整った顔が間近にある。吸い込まれそうな、綺麗な目だ。

「なんだ、キスでもしてほしいのか?」

 が、にやっと笑って健星がそう言ってきたので、ヤバッと鈴音は身体を引いていた。よく考えたら、異性にここまで接近したことなんてなかった。心臓が妙にドキドキしている。顔が真っ赤になってくる。

 健星とキス。キスって、いやいや、ないない。後宮で散々からかわれたけど、ないから。顔は綺麗だけど、目も綺麗だけど、それだけは絶対にない!

「からかい甲斐があるな」

 そんな鈴音の反応を、健星はにやにやと笑って言ってくれる。ああもう、腹立つなあ。

「そんなことはいいから、健星ってつまり何?」

 まだどくどくいう心臓と、真っ赤になった顔のまま、鈴音ははっきり答えなさいと右膝を立てて人差し指を突き刺す。まるで大岡越前だ。って、詳しく知らないけど。でも、気分は取り調べだった。

「何って。要約すれば死者だ」

「え?」

「冥界で生まれ、冥界で死ぬ存在。常にそこに漂う存在。それは人間から考えれば死者ってことさ。まあ、俺はこうして生きている状態だから、正確には死者ではないが、そんなことは関係ない。現世の連中とは寿命も違う。つまり、俺は人の理から外れた存在だってことさ。普通の人間からすれば、俺も妖怪だろうな」

 くくっと、健星は今までに見たことがないニヒルな笑みを見せる。でも、それはどこかで傷ついているような顔だった。きっとこの人は、その事実に傷ついている。

「健星は、人間よ」

 気づいてしまったからか、鈴音の口から自然とその言葉が零れていた。健星はその台詞に一瞬だけ固まったが

「半妖の姫に同情されるほど、俺は落ちぶれていない」

 ふんと鼻を鳴らして笑顔を引っ込めた。まったく、こいつもこいつで難しいなあ。問題だらけじゃん。

 

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