第37話 支持してくれているのは?

「ともかく、鬼どもは詳しい調査結果が出ないとどうしようもないな。俺のところの家臣団と一緒に探りに行っているんだろ?」

 健星は再びユキに確認。

「はい。もしも再び危害を加えるような動きを見せた場合は、すぐに動けるようにしてあります」

 ユキは抜かりなくやっていると頷いた。取り敢えず、鬼に関しては逐次情報が入るはずだ。問題はそれ以外というところだろう。

「鬼だけじゃないんだ」

「まあな。妖怪は多種多様だ。そもそも一枚岩に固まって何かをする連中でもない。だから派閥も多い」

「うわあ」

 すでに面倒臭い予感しかしない。鈴音は思い切り顔を顰めてしまった。って、じゃあ、味方は誰なのよ。

「鈴音様に王になってもらいたいと思っている者は多いですよ。まず狐、狸、犬神、これだけでも相当な数でございます」

 鈴音の疑問に、大丈夫ですとユキは胸を張る。が、全部動物じゃんと鈴音は頭が痛い。

「他には」

「雪女や橋姫といった、女性陣はもれなく」

「そ、そう」

 妖怪にも女子がいるのねえと、鈴音は曖昧だ。というか、雪女は知っているけれども橋姫って誰?

「まあ、男妖怪も紅葉の娘ならばと期待しているからな。ある程度は支持しているだろう。問題は意外と平凡な娘だってことくらいで」

 そこに健星の余計な一言が入る。悪かったわね、平凡で。美人じゃない自覚はあるもん、と鈴音は鼻を鳴らす。

「まあ、気の強さが気に入られるだろう。俺しか候補者がいないのならばと思っていた奴も、ほぼお前に付くから問題ない」

 健星はそんな鈴音の不機嫌なんて無視して、菅原道真すがわらのみちざねとか怨霊たちの票は大丈夫だろうと言う。

「いや、怨霊も入ってくるの、妖怪って」

 鈴音は不機嫌になっている場合ではなくなってしまった。怨霊って恨んで死んだ人ってことでしょ。怖くないのとびっくりだ。

「普段は気のいい連中だから問題ない。というより、怨霊ってのは、まあいい。講釈すると面倒だ。会えば解る」

「は、はあ」

 何だろう。鬼の時といい、このすっきり説明されない感じ。もやもやするなあ。でも、会っても問題ない人たちなのか。

「まあ、大多数は問題なくお前に投票するし、邪魔しようともしないはずだ。だから、鬼以外で邪魔をしそうな奴を考えればいいだけだ」

 健星は何か思い当たるかと、ユキに訊ねる。

「そうですね。七人ミサキや船幽霊、通り魔といった、もともと人間に害をなし、人間そのものを取り込む類の妖怪たちは、そもそも締め付けを強くするためのこの選挙自体に反対です。月読命様のような、怪異は仕方がないと許容されないことそのものが嫌ですからね」

「やはりそっちか」

「何一つ解らないんだけど、通り魔って犯罪の名前じゃないの?」

 鈴音は質問と手を挙げた。ガンガン訊いていかないとまた置いて行かれる。

「もとは妖怪の名前だ。それを犯罪の名前として使っている。順序が逆なんだ。魔に魅入られたとしか思えないから通り魔、と現代でも考えているってことだよ」

 質問に対して健星は馬鹿にすることなく答えてくれた。なるほど、妖怪が先か。って、現代人。意外と妖怪を許容してるよね、本当に。

「人間と妖怪の棲み分けは無理ですからねえ」

 ユキもしみじみと言っていた。ううん、トラブルは増加しているけれども、どうしても切れない相手か。そりゃあ難しい。

「どうやればみんなが幸せになるかってことよね」

 鈴音は難しいなと腕を組んだが、妖怪の問題はそれ以上にややこしいと健星が溜め息を吐く。

「ややこしいって」

「先ほどの例の七人ミサキで言えば、奴らは人間一人を殺して成仏することを願っているんだぞ。つまり、奴らに取っての幸せは誰かの死だ。根本的な解決が存在しない」

「なっ」

 あまりのことに鈴音は絶句。

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