第31話 隠居したら旅するんだ
「会って解ったと思うが、この人は多くの妖怪たちから慕われるものの、叱ったり戒めたりというのが苦手だ。昔は人間の方も鷹揚で、妖怪が悪戯しても『ああ、妖怪か』で済ませていてくれたから、こんな人でも大丈夫だったんだ」
「健星、あなた、よく本人を目の前にそうずばずばと言えるわね」
「ははっ、いつものことだ。鈴音。気にしなくていいぞ」
かかっとイケメン台無しの笑いをする月読命は、健星の横暴な言い方にも慣れていると軽い。だから、その軽さが今回の選挙騒動になったんでしょと、鈴音は溜め息を吐いてしまう。
「まあまあ。つまりね、妖怪が、この言い方も江戸以降だからあれだな、怪異というものがあっても、人間は仕方ない、人智を越えた存在がやったことだと受け入れられていたんだ。それはどんな理不尽であっても、神や妖怪、怪異の仕業として受け入れることが出来ていたんだ。ところが、今は何にでも因果関係を求める。妖怪や怪異が入り込む余地がなくなってしまったんだ。するとどうなるか、あらゆる齟齬が生まれる」
「え、ええ」
急に王様らしく語り出した月読命にびっくりするが、すでに健星の仕事を知っているので、それはすんなり納得出来た。
鬼の仕業のままでは事件が解決しない。被害者もその家族もどうしていいのか解らない。だから、それに見合ったストーリーを作り、事件をすり替えてしまう。
こうしないと納得出来ない、齟齬が生まれるというわけだ。
「そう。健星には非常に助けられている。こいつはいつも優秀で助かるんだが、それも限界が来ていると思っている。そこで、政権そのものを変え、妖怪たちの認識から変える必要があると気づいたんだよ」
「ほほう」
ようやく王様らしいじゃないと鈴音は頷くが
「凄いですね。俺が予め用意したカンペをほぼ変更なく言っちゃうとは」
と、健星が台無しにすることを言う。
「だって、結局は俺には解決できない。でも、今のままじゃ健星が動きにくい。むしろ反発する奴がいるってことだろ。俺の出る幕じゃなくなったってわけじゃん。まあ、ここの統治もイザナギ様から託されて二代目をやっていただけのお飾りだ。そろそろ隠居したいし」
「うわあ。それはユキが語ってたイメージ通りだわ」
気まぐれに引退。その印象そのままのことを月読命は言ってくれる。ひょっとしなくても、この人、かなりの自由人じゃないか。よく二千年も持ったなと、そっちにビックリさせられる。
「隠居先はどうするつもりですか?」
でもって健星、まだまだ容赦なしだ。だからあんたはその口の利き方でいいのか。相手は王様だろう。
「隠居先はもちろん
「うわあ。完全にリタイア後のサラリーマンの発想じゃないですか」
しかし、鈴音もここまで来ると遠慮が飛んでくる。思わず素直な感想を言っちゃった。
「まあね。でも、俺って神様としてはメジャーじゃないし。まあ、一応は
が、月読命は気にした様子はない。色々と引退時期なんだよと、むしろあっけらかんとしていた。
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