第26話 女房装束って重っ!
「
「なっ」
翌日。何食わぬ顔で現われた健星は、人生初の女房装束に浮かれる鈴音を見て、ずばっとそう言ってくれた。いくら何でもその言い方はないだろと、鈴音は絶句する。
「小野殿は褒めるのが苦手だものねえ」
しかし、着付けてくれる紅葉はそう言ってにこにこと笑っている。何それ、褒めたくなくて嫌味を言う小学生か。鈴音はそんなことはないだろうと健星を見ると、不機嫌そうな顔にぶち上がるだけだった。
「はあ」
何だか疲れる。普通の感覚を持った人がいないんだ。鈴音はそう思うことで自分を納得させた。それにしても――
「重い! 平安時代の人ってこれ着て過ごしてたの? 凄すぎ。お雛様を見て憧れていたけど、重たい」
そう、女房装束、いわゆる十二単の重さにびっくりしていた。ヤバいわ。これ、身動きが出来ない。
「慣れれば大丈夫よ。それに今日は気合いを入れての正装だから、羽織っている枚数も多いしね。普段は
紅葉は娘の姿に満足し、いいわねと今度は髪を梳かし始めた。
「はあ。ついに本当に立候補か」
鈴音はぺたんと畳の上に座り、大丈夫なのかと心配になる。そう、朝から紅葉に女房装束を着付けられている理由はただ一つ。正式に立候補したことを現在の王様に報告するためだ。
「あれ? 健星も報告に行くんでしょ?」
しかしふと、健星がスーツ姿なので、それでいいのかと確認してしまう。すると
「後で着替える。先に事件の報告だ。ってお前、なに気軽に下の名前で呼んでくれてるんだ」
健星にますます睨まれてしまった。鈴音としても、何でそんなに気楽に呼んでしまったのか解らない。
「いいじゃん、別に。減るもんじゃないし」
「ふん。着替えは後だ。取り敢えず、鬼の件はストーカーをしていた末の犯行として片付いた。そして問題の鬼だが、
健星は淡々と告げるが、鈴音には羅刹って何と理解出来ない。しかし、紅葉の顔は険しくなっていた。
「ユキ」
そしてユキを呼ぶ。
「はい、何でしょう」
着替えの最中とあって別の部屋にいたユキは飛んできた。そして女房装束姿の鈴音を見つけ
「お美しゅうございます」
と頬を赤く染めて言ってくれた。美少年に褒められると、これはこれでリアクションに困る。鈴音は
「ありがとう」
と曖昧にしか頷けなかった。くう、健星に貶された方がすとんと自分の気持ちに合致するのが悲しい。
「ユキ、羅刹の動向を探って欲しいの。左近に調査隊を編制するように言って」
「承知しました。あの、お食事はどうしましょう?」
「ああ。そうね。
ユキの確認に、紅葉はどうすると健星を見た。
「いや。自宅で済ませる。着替えもあるしな。羅刹に関してうちの者も同行させて欲しい。それだけだ」
「解ったわ。左近にそのまま伝えて頂戴」
「解りました」
ユキは一礼するとパタパタと奥に駆けて行った。その様子を見ていた鈴音は
「ユキってひょっとして偉いの?」
と疑問になって訊ねる。
「お前は何も知らないんだな。ひょっとして羅刹も解ってないのか?」
それに対して健星の嫌味が飛んでくる。この人、一度は悪口を挟まないと話せないわけ。
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