第36話



「できたあー!完成!!」


「「あ、終わった。」」



 いつの間にかアシュレイがいた。というかもう夜!?いかん、集中しすぎた!よく見ると夕飯の支度してるし…!


「わああっごめん!声かけてくれればよかったのにっ!」


「いやかけたけど…聞こえなかったみたいだし。」


 そうなの?申し訳ない…でもその分いい物が出来ましたから!

 今日はもう夕飯だから、明日試着してもらおう。お嬢様の意見も聞きたいしね。…ん?どうしたラッシュ。



—昼間この部屋の扉の前、複数の気配があった。敵意や殺意は感じられず、偵察の様なものだろう。小物故、放っておいたが—


 ふうん?恐らく…アイニー様のとこのメイドあたりか?お嬢様に危害を加えるタイミングでも伺ってるのか、お茶会の事が気になるのか。

 まあいい。どうせお茶会でもこっちを蹴落としたいんだろうよ、かかってこいや!!





 次の日。早速お嬢様に着てもらうのだが…。


「お嬢様、教会に行きませんか?」


「え?嬉しいけど…いいの?」


 もちろん!!最近皆に会えてないんだし、ドレスのお披露目をするのだ。この屋敷の人間共に見せる気はありませーん(トロくん除く)。

 支度をし、侯爵様に一応外出の報告。馬車借りんとね、無理なら別にいいけど。



 好きにしろ、のお言葉いただきましたー。好きにしまっす!行きはアシュレイが御者をする。もちろん練習済みですとも!楽しみですね、お嬢様!









「あー、リリー様!」

「リリー様、久しぶりですー!」

「あれ、かみのけみじかくなってるね?でもかわいい!」

「リィちゃんも短い!?かっこいー!」

「みんな待ってましたよ。リィちゃんも!」

「オレは?」

「あ、いたんだレイ。」

「はっ倒すぞお前。」



「まあ…ふふふ。」


 うんうん、教会に着くなり子供達が集まってきたよ!皆お嬢様に会えるの楽しみにしてたもんね~。

 まるで誘蛾灯に群がる虫…いや屍肉に喰いつくハイエナ………いい例えが浮かばん!!


 ううん、マズいぞ。執事として自然に褒め言葉が出てくる様にしなきゃ。お嬢様が恥をかく!あ、お花に集まる蝶々とかいいかな?


「何百面相してんだ?お嬢様の着替えすんだろ。」


 おっといかん。さあて、気合入れますか。




「はーい、じゃあ皆。今からリリーお嬢様の新作ドレスのお披露目だよ!素直な意見をちょーだいねー!」


「「「はあーい!!」」」


 いい返事、花マルをあげましょう!それではお嬢様、どうぞ!!照れくさそうに顔を出すお嬢様は、もうそれだけで可愛い。可愛いは正義、とは世界の真理だね!何事にも例外は存在するが。



「ど、どうかしら…?」



 …完璧でございますお嬢様!!まるで妖精の如き神秘的な美しさを醸し出しているお嬢様は、最早人間にあらず。天上の存在、女神様と言われても違和感がないね。いや天使だろうか?

 こりゃもうどんな殿方も落としちゃうね。…ロリコンに目え付けられたらどうしよう!?!?精霊警備を強化しないと…!

 私が早速お嬢様を完璧にお護りするための算段を立てていたら、アシュレイに横から声をかけられた。

 

「お前今何考えてんだ…?ほら、子供達の反応見てみろよ。」




「わあ、リリー様すっごくきれい!!」

「お姫様みたい!可愛い~!」

「ねえねえ、くるって回って~。」

「ふわふわだね!おくつもかわいい!」

「まあまあ、本当にどこのお姫様かと思いましたわ。」

「本当だ、絵本に出てきた王女様みたいですね!」

「リィちゃんはこういうの着ないの?似合いそうなのに。もちろんリリー様もお似合いですが!リィちゃんだったら赤がいいかな?」

「ブレねえなお前…。」


 うーん、大好評!そして靴に目をつけたパイル、将来有望ですぜ。あとカルマは何故私を出す?




「さ、今日はこのまま皆と遊びましょうね。お嬢様、ドレスが汚れたり破れたりしても私が直せますから、気にせず過ごしてください。」


「あら、じゃあそうさせていただこうかしら!

 みんな、絵本を読みましょう?」



 …うーん、本を読むお嬢様の周りにちびっ子達が集まる姿、絵になる…。私に絵心があれば絵画に残して劣化防止の魔法をかけて、未来永劫語り継がせるのに…。

 とりあえず拝んでおこう。ご利益ありそうだし。

 そしたらアシュレイが呆れていたけど、結局一緒に拝んでいた。何故かカルマも、君はあっち行きんさい。


 拝みながら…ずっとこんな光景を見ていたいと思ってしまった。

 変わらないものはない。ここにいる子供達もいつかは卒業するし、お嬢様だってここに来れなくなる日が必ず来る。

 その時が来るまで…それまではこの微笑ましい光景を見続けていたい。




 そうしていつも通りの交流を終え、屋敷に帰る時間だ。

 皆寂しそうにしていたけど、またすぐ来るからね。と言って別れた。さて、帰りは私が御者だ。事故には気を付けねば。



「よろしくねー、デン。」


「ヒヒン!」


 デン(馬)に声をかけ出発する。馬っていいよね…やっぱ馬型の精霊呼ぼう。白馬がいいかな、黒も捨て難いが。…シマウマか?いや…でも…いや、ないな。いっそペガサス?ユニコーン!…普通の馬にしよう。

 そういえば。普通の人って動物と精霊の違い分かんのかな?私は感覚で分かるけど…あとで聞いてみるか。


 結果。アシュレイは分からないらしい。明らかに動物じゃない、リュウオウみたいな姿なら精霊だと思うらしいが…でもお嬢様は分かると言っていた。

 魔力量とか、そういうのが関係してんのかな。魔法は奥が深いね~。


 そういえば帰り際、シスターがあの鳥は大変美味しかったと言ってきた。だが、獲った事も食べた事もぜっっっったい誰にも言ってはいけないと念を押された。何故だ?





 




 そして、決戦の日がやって来る。






「あら、まだ出発しないの?鈍間ノロマな主を持つと大変ねえ。」


 お茶会の日、廊下を歩いていたらアイニー様が声をかけてきた。

 クスクスと、メイド達も一緒に嘲笑う。鈍間なのは、こんなに早く出発しないと間に合わないそちらの方ではなくて?と言いたい衝動を抑える。


「まあ、心配してくださり感謝致します。ですがご安心を。それよりも、会場でお会いしましたらよろしくお願いします。」


「…もし王宮で会っても、私に声をかけない様伝えてちょうだい。」


 お金貰ってもかけませーん。


「かしこまりました。」



 ところで、アイニー様の今日のドレス…本当にそれで行くの…?




「さ、行くわよ。」


「はい、お嬢様!今日は一段とお綺麗ですわ。」


「今日のドレスもとてもお嬢様にお似合いです。王子様方も、目を奪われてしまう事必至ですね!」



 はい、私もそう思います。私も思わず二度見三度見しましたから…。

 いや~…私が絶対回避したいと思っていた、フリフリゴテゴテモサモサドレス、お似合いですよ。多分。

 しかも濃いピンク。頭のてっぺんから爪先までピンクピンクどピンク更にピンク。ピンクに罪はないが、最早視界の暴力。そしてピンクがゲシュタルト崩壊してきた。ピンクってなんだっけ?

 一生分のピンクを見たのではないかという錯覚すら覚える。デザイナー、大丈夫??子供でも許される範疇超えまくりだぞ?

 それにアクセサリーつけすぎ。あんま多いと下品だぞ。まあ言わないけど。

 言ってもブチ切れるか、可哀想な子扱いされるだけだし。

 そしてメイド達。本気で褒めてる?それとも太鼓持ち?本気だったら、心の底から同情するよ。



「お嬢様、陽射しが強いのでこちらをどうぞ。」


 追加のピンク来た!!可愛い日傘なのに…凄く腹立つ…ピンクに殺意すら抱くわ…。





 そしてピンクを送り出し、お嬢様の部屋に戻る。


「ただいま戻りましたー。」


「おかえり。時間は大丈夫かしら?」


「ええ、空から行きますから。お嬢様には形状記憶魔法掛けますし、強風でセットが乱れても大丈夫ですよ。

 まあそれ掛けてると着替えとかも出来ないので…着いたら解きますね。」


「ええ、お願いね。」


「はいっ。じゃあアシュレイ、準備始めよっか。」


「了解。」



 そうしてアシュレイの手も借りつつお嬢様を仕上げる。はあ、可愛い…。


「やっぱりお嬢様は可愛らしいです!もしも泉で水浴びなどしていたら、天女と見間違うほどの美しさ。ああでも羽衣伝説って…やっぱ天女ナシ。」


「お前ってたまに意味不明な事言うよな…。」


 なんとでも言いなさい。






 そしてお嬢様の支度も終え、いよいよしゅっぱーつ!!リュウオウに私、お嬢様、アシュレイの順で乗る。アシュレイ、ちゃんとお嬢様掴まえててよ!




「それでは空の上ですが。今日の作戦会議しますよ!」


「なにかしら?」


「まずお嬢様、何か不安な事ありますか?」


「そうね…ありすぎるくらいよ…。マナーは問題ないと思うけど…ちゃんとお話とかできるかしら。」


「ふむ。お嬢様、何か困ったら「そうですわね。アシュリィ、あなたはどう思う?」とでも言って私に投げてください。あとはどうとでもしますから。

 大丈夫、今日はご令嬢の集まりですし、王妃殿下もいらっしゃる訳ですよね?物理に訴える事はしませんから!」


「普段からそうしてちょうだいね。でも…あなたの負担になってしまわないかしら…。」


「その為の執事です。ただの従者だと、こういう場でお供出来ないでしょ?サポートはお任せを!

 アシュレイ、あんたもだからね。」


「オレ!?オレ、口上手くねえけど!?」


「そこは期待していない。まず第一に、もしもご令嬢に話しかけられたら、必ず笑顔で対応。それは問題ないね?」


「まあ…沢山練習したし。」


「そして必ずどこか褒めなさい。だけど容姿は褒めない事!!容姿を褒めていいのはお嬢様と王妃殿下に対してのみ!

 他の令嬢はドレスでもアクセサリーでも髪型でもなんでもいい、褒めろ。あとはアドリブだけど…困ったときは曖昧に笑うだけでいいよ。大体それで乗り切れるから。」


「お、おう!」




 その後も細かい打ち合わせをし、王宮が見えてきた。さて、着陸…………。




「馬車用意するべきだった!!?」


「「今更!?」」



 わー!!このままリュウオウで突っ込んで、騒ぎにならないかなあ!?はい、なりますよね!!!



「落ち着いて、アシュリィ。大丈夫よ。上位の精霊を連れているという事は、「私はこれだけの能力がありますよ」と言っているようなもの。

 見たところリュウオウは上位でしょう?それにラッシュも。驚かれる事はあっても、蔑まれる事はないわ。」


 あ、そうなの?良かった…。そういえばジュリアさんも言ってたな。

『こんなにポンポン上位精霊と契約しちゃって~アシュリィちゃん色んなとこから引っ張りだこにされちゃうわよお?

 まあお嬢様一筋ってなら、問題無いかしら?もし王宮魔法師にスカウトされても、浮気しちゃだめよお?』

 …って。浮気なんてしませんとも!



 さて、憂いも晴れたところで、王宮にカチコミじゃーい!!

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