第24話 アシュレイ視点



 そしてやってきたベンガルド伯爵家。

 当主夫妻、執事長と侍女頭にも挨拶し、アシュリィと侍女頭のヴァニラさんは部屋から出て行った。

 アシュリィが出て行く瞬間、こっちを心配そうに見ていたが…ほんとどうしよう?ハロルドさんをちらりと見てみる。



「ふむ…先ほどアシュリィの答えは聞いた。君は?この屋敷で何を学び、何を目指す?」



 …アシュリィほど上手く答える自信はないが…真摯に語れば必ず伝わるって言ってたし…!



「オレ…いえ、ボクも執事を目指します!ただアシュリィよりも更に時間はかかるかもしれない、ですけど。ハロルドさんの知識を教えてください!

 ボク達は、2人でリリー…お嬢様を護ると誓いました。なので最初のうちは、役割分担をします。」


「ふむ。どのように?」


「アシュリィはさっき…ほど言った通りです。

 そしてボクには、お嬢様を護る術とマナーを重点的に。次いでお嬢様のお世話をボクが出来る範囲で。他の必要な事は、アシュリィと一緒に勉強します…!

 とにかく今は、1日でも早くお嬢様の近くにいたいんです。だから、」


「分かった。」


「だから…へ?」


 いや、オレ最後まで言ってないけど…?



「他にも理由があるのだろう?執事を目指す理由。どうやらアシュリィにも伝えていないようだが。」


「!!!!」


 なんで分かんの!?執事って、心を読めなきゃなれなかったりする!?オレ絶望的じゃん…!

 だがそんなオレの様子に、ハロルドさんは苦笑しながら答えてくれた。



「いや…君が分かりやすすぎるだけだ。執事たるもの、表情から心を読まれるような事はあってはいけない。

 先程の奥様の件も含め今日だけは大目に見るが、明日からは容赦しないからな。」


「は、はい…!」


「それで、君が執事を目指す理由はなんだい?」




 …オレは観念して、全部話した。

 話している間、ハロルドさんの表情は変わらないから…考えが分からない。失望されてしまったかな…まだ始まってもいないのに…。

 オレは自分が情けなくて、溢れる涙を止められなかった。オレってこんなに弱かったんだな…。いつもスラムでは兄ちゃん達が、教会に来てからはアシュリィに守られてきた。

 こんなオレが、執事なんて出来んの…?



「…だから、オレはスラムのみんなを探したいんです。

 だけどリリー様を護りたいのも本音で、でも、どっちかしか選べないって言われたら、答えられなくて、それでもオレは、執事を目指じだぐでぇ…!」


 ハロルドさんは、オレがどんなに情けない姿を見せても表情が変わらない。ああ、オレ本当にヘタレ大将だわ…多分言い出したのカルマだわ…。あいつ実は腹ん中真っ黒だから。



「だがらっオレなんかに執事を目指す資格ないんです~~!!!

 でもっアシュリィほっとけないしっ!リリー様の力になりたいしっ!スラムのみんなを助けたいんですよ~~!!」


 ついにオレはうわああああと泣いてしまった。

 


 ああ駄目だ。終わった。今すぐ帰れって言われちまう…でも止まんない。せめて泣き止むまで追い出すのは勘弁して貰えませんかね…?


 …と思っていたのだが。何やらあったかい。…ハロルドさんが床に膝をついて、オレを抱き締めてくれている…?


「はっハロルドさん!服がよごれます!」


「そういう時は、お召し物と言うんだ。」


「あ、はい。お召し物が汚れてしまいます?」


「いい子だ。」


 そう言ってオレの頭を撫でてくれた。さっき奥様に撫でられた時もそうだけど…あったかい…。


 その後オレが泣き止むまで、ずっと頭を撫でてくれた。その優しさのせいで余計に涙が出てくるのだが…多分分かっててやってくれてるんだろうな…。




「すいませんでした…。」


「構わないよ。この応接室は旦那様に話を通して既に貸して頂いている。楽にしなさい。」



 落ち着くと、猛烈な羞恥に襲われる。ほんと大丈夫なのオレ…?



「それに…だな。君の執事を目指す理由は悪い事じゃない。むしろ私は素晴らしい事だと思うよ。」


「…っへ?」


 いやいや、そんな気を遣ってくれなくてもいいのに。でもハロルドさんは、そうじゃないと言った。



「そうだね。君にだけ…教えてあげようか。私がこのベンガルド家の執事になった理由。



 実は…このお屋敷のお嬢様に一目惚れしてしまったからなんだ。」



 絶句。


 …マジ?

 だが顔を赤らめて照れ笑いしてるあたり…マジ?




「彼女は君達の知るサラティナ様の妹君でね。私はしがない男爵家の次男なのだが、パーティーで知り合った妹君、ティアナ様に目を奪われてしまって…はは。」


 お、おお…続きは?


「それで彼女はまだ婚約者もいないと情報を得て、婚約を申し込みたかったのだが…この国では爵位の低い家から婚約の打診は出来ないんだ。

 どうしようかと頭を抱えたが、男女の規定は特にない。ならばティアナ様と恋仲になって申し込んでもらおう!と思ってね…私もまだ13だったから…若気の至りというやつさ…。」


 おおおおお…!それで!?

 オレは、さっきまで自分がみっともなく泣き喚いていた事はもう忘れていた。



「それで、あの手この手でこの家に従者として雇って頂けたのだが…結果だけ言うと、振られた。」





「…なんでえ!?ハロルドさん、こんなカッコいいのに!?」


「はは…ありがたい事を言ってくれる。

 実は最初から、彼女には好いている相手がいたらしい…それが隣国の貴族で…彼女は隣国に嫁いで行ったよ…。」



 ハロルドさんの目に何か光るものがあるのはきっと気のせいだろう。アシュリィも、こういう時は見て見ぬ振りをするべきだと言っていた…!

 オレは完全に自分の事は棚に上げていた。


 そしてハロルドさんはその後、一度始めた事を投げ出す訳にはいかない、と執事長まで登り詰めたらしい。

 そして40近くまで独身だったが、ようやく一緒になりたい女性に出会えて結婚したとか。娘さんが今成人間近で、いずれこの屋敷でメイドになる事が決まっている。






「とまあ、私がこんな理由で始めた訳だし…君の方がよっぽど立派だ。

 それに、君は選べないと言ったね?別に、選ぶ必要なんてないさ。」


「え?いや、でも…。」


「もしもお嬢様が大変な時に、仲間達の情報が入ったとする。そしたらまず考えなさい。

 お嬢様はアシュリィ1人に任せて大丈夫か、仲間の方は今すぐ自分が行く必要があるか。


 だからね、頼れる仲間を作りなさい。自分が大変な時に助けてもらって、相手が辛い時に手助け出来るような仲間達を。


 何も全て1人でこなす必要はない。最終的に、結果が伴ってれば過程や手段は重要ではない、と私は思うよ。もちろん、人道的に問題のある手段は良くないがね。

 皆で力を合わせて、お嬢様が頼りになる旦那様の元へ嫁ぐまでお護りして、スラムの仲間達も助け出す。そんな結果が出せれば全て良しだ。

 だから…少なくとも君の本音は、アシュリィとお嬢様、あとトロという少年には伝えなさい。現時点で既に、3人も頼りになる仲間がいるじゃあないか?」




『他の人は知りませんが、私にとって大事なのは過程と結果!キッカケや動機なんてどーでもいいんですよ。場合によっては過程も二の次三の次!

 それよりも大切なのは、リリー様が教会の皆と仲良くなってくれた事。どんな理由であれ、リリー様が慈善活動に来なければ私達と友達になってくれるっていう今は無かったんです!』



 アシュリィも似たような事言ってたな…そっか。オレ、欲張ってもいいんだ。

 なんだか少し…いや、物凄く心が軽くなった!こんなオレでも執事を目指していいんだ、そう思える。

 ごめん、お嬢様。オレ、ハロルドさんに沢山教わって帰るから!!そしたら絶対、絶対話すから!




「元気になったみたいだね。私も恥ずかしい過去を明かした甲斐があったというものだよ。」


「はい!ありがとうございましたっ!!オレ、頑張りますのでビシバシお願いしますっ!」




 もうオレに迷いはない。オレは弱虫で泣き虫で…欲張りな男だ。だから。望む物を全て手に入れる!




「その勢いでアシュリィも手に入れるのかい?」


「ハロルドさんんんん!!!??」




 そそ、そんなんじゃねーですよーーー!!?




「(…さっき執事を目指す理由に真っ先にアシュリィを挙げてたのは…無意識だったのかな?若いな~。)」













名前:アシュレイ

性別:男

職業:無し

Lv.2


HP  460/460

MP  15/15

ATK 190

DEF 215

INT  49

AGI  99

LUK 30



スキル:※※

称号:※※



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る