第七章 初めての感覚

 1 軽い嫉妬

 11月、高校生活最大のイベントである修学旅行。3泊4日の沖縄旅行で、羽田から飛行機で出発した。空港に降り立つと、本土とは違う空気が漂っていた。1日目はバスで、摩文仁の丘やひめゆりの塔を廻り研修し、那覇のホテルに宿泊した。2日目もバスで観光しながら、美ら海水族館で半日を過ごした。この日から2泊は、恩納村のリゾートホテルに宿泊する。

 私と茜は、他の2人も一緒だが、今晩から同じ部屋に泊まる。真斗とはクラスが違うので、バスで廻る時間も違うため、なかなか出会わない。食事の時に見掛ける事はあるが、目で合図し合うのが精いっぱいだった。しかし、明日は茜と二人で班別研修を抜け出し、真斗たちと合流する事になっていた。

「明日は楽しみだね。愛海も真斗と一緒にいられて嬉しいでしょ。」とその晩、茜が他の子に聞かれないように、こっそりと話し掛けてきた。

「真斗が仲のいいのは藤森君だから、きっと一緒だよ。」と何気なく返すと、茜は気にする風でもなく、本当に楽しみにしているようだった。


 その晩は、同室の白田美樹と河村七瀬と4人で恋バナに花を咲かせた。茜は正直に倉橋英之との事を語り、私も工藤新一とのめから現在に至るまでを語った。もちろん二人とも、キスをした事やその先まで話していた。女子だけのこういう雰囲気の中では、隠し事はできないようだ。

 美樹は男の子との交際経験がなく、聞き役に回っていたが、どうやら先生に恋をしているらしい。中でも、七瀬の告白には驚かされた。大学生と交際しているようで、すでに初体験を済ませたようだ。かなり具体的に話してくれたが、私は頭の中で真斗との事を想像しながら聞いていた。胸がドキドキで、赤面しているのが自分でも分かったが、部屋は暗く気付かれなかったようだ。特に、裸で抱き合ってという所は、私の許容範囲を超えていた。


 3日目の班別研修、私たち二人は予定通りに真斗と藤森君と合流した。ガラス細工の体験をしたり、シーカヤックで遊んだりして過ごした。熱帯植物園で、私は皆とはぐれてしまい、探していると藤森君が声を掛けてきた。

「お一人ですか?僕と一緒にデートしましょう!」と腕を組む格好をしてきた。冗談交じりなのが、何となく許せなかった。

「結構です!一人で大丈夫だから…」言い合っていると、前の方に真斗と茜が仲良さそうに歩いているのが見えた。

「あの二人、仲いいんだよね。幼馴染って言ってたね。」藤森君の言葉に悪意はなかったが、私の心は動揺していた。真斗と二人で歩きたいのに、茜と一緒。

「坂上さんは可愛い所あるから、真斗も離れられないんだよね。桐野さんのために、俺が坂上さんと付き合おうかな。どう思う?」という藤森君を残して、真斗達の所へ走って行った。

 二人は何事もなかったかのように、私を迎えた。遅れて藤森君が来て、

「桐野さんを一人にしちゃ駄目でしょう、真斗。坂上さんは俺と歩くから、真斗は彼女の手をしっかりつないで歩いて。」と無理矢理手を繋がして、私たちと少し距離を置いて歩いていた。歩きながら真斗が、今夜食事のあとで部屋を抜け出して、ビーチで会おうと誘ってきた。私はちょっと驚いたが、うれしくて真斗の腕にしがみ付いていた。後ろから、茜と藤森君が冷やかすように口笛を吹いてきた。

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