-01.入学試験

 豪運、すさまじい。


 俺は、ユリウスさんに聞いてきた柾田教授の研究室を訪ねた。

「ありがとうございます、教授。おかげで試験を受けることができました。」

「え?もう終わったのか?うちの入学試験は相当な量だぞ。」

「はい。日頃から論文ばかり読み漁っていましたから、分量をこなすのは得意なんです。」

 と俺は答えた。

「それは結構だ。で、結果はどうだった?」

「今から採点していただけるということで、明日の朝もう一度うかがわせていただきます。」

「そうか。君なら大丈夫だろう。しかしあの入試問題を3時間で解いたとは…。いや、驚いたよ。」

「ではまた明日、改めて伺わせていただきます。」

「ああ。期待して待ってるよ。私はこの研究室に9時から詰めてるからね。いつでも来るといい。」

 そう言われて俺は研究室を出た。


 よし!!


 俺はバイク置場に行き、バイクにまたがって拠点に戻った。

 途中バーガーキングに寄ってハンバーガーのセットを買ってきた。

 お腹が空いてたまらんのじゃ。


 俺がもぐもぐと食べていると、一人、また一人と帰ってきた。

 みんなどうだったかな?


「ただいま!あ、紀夫だけそんなおいしそうなもの食べてる。」

「そう言われると思って全員分買ってきてるよ。セットの飲み物は全部コーラだけど。」

 俺は帰ってくるみんなにまずは腹ごしらえと、紙袋を渡していった。


 ひと心地着いた後

「どうだった?」

「うん。すごい反応だった。送った論文がかなり評価されたみたいなんだ。MITに入学したいと伝えたら、さっそく事務棟に連れて行かれて事務のキャサリンさんという人に話をつけてくれて、今まで試験受けてた。」

「ハハハ。俺と全く同じ展開だね。俺も論文について2時間ほど話をして事務棟に行って試験を受けたよ。」

 概ねみんな同じような展開だったらしい。

 やはり論文がかなり効いていたようだ。中には日本の高校制度について憤りを訴えていた教授もいたそうだ。


「俺もそうなんだけどみんなも明日結果発表?」

「「「「「「「「「「「「「そうだね。」」」」」」」」」」」」」

「じゃあ、明日は朝から一度日本に戻って高校卒業認定試験の結果が来ているそうだから、それをコピーして持ってこなきゃね。トーフルは9月に結果のスコアレポートが届く予定だけど、学校の方で、確認してもらえるらしい。レポートは届き次第提出すればいいそうだよ。」

 俺たちは作戦がうまくいったことにコーラで祝杯を挙げていた。



「はい。柾田です。はい?今から事務棟?今日連れて行ったNorioの話かい?わかった、すぐに行くよ。」

 私は柾田ハリー。MITで教授をしている。専門は機械工学だ。


 先日論文が私のもとに届いた。年に何度もあることだからあまり意識しなかったが、どうにも気にかかって読んでみた。20Pほどのつたない論文だったが久しぶりにエキサイトした。

 この論文の先にどんな未来があるのだろう、と。そして今日、その論文を書いたという高校生が私のところに来た。すでに夏休みなので講義はないが、私の研究を少しでも進めたくて研究室に出向く途中だった。


 その高校生の男の子は実に興味深かった。ありとあらゆる知識が詰まっているようで、いくつもの論文、いくつもの分野の教授の本を読破しているようで、まるでびっくり箱のようで大変楽しい話ができた。

 ふと気になって、なんで私のところに論文を送ってきたのか尋ねるとMITに入学したいという。驚いたことにまだ高校一年生で16歳だという。つまり飛び級で進学したいということだ。


 私はすぐに事務局のユリウスに会いに行き、紀夫が入学するために越えなければいけない壁について話を聞かせた。ユリウスも紀夫の話し方、物腰に興味をひかれたようで、すぐに試験を開始するといってくれた。私はほっとして、自分の研究室に戻り、改めて紀夫の論文を読んでいた。

 すばらしい。

 紀夫と2時間ばかし話し込んだが、その間に出てきた様々な分野の教授の考えや仮説、実証などが随所に行かされているのがわかる。これはすごい才能だ。


 そうしているうちに研究室のドアがノックされ、紀夫がやってきた。

 どうやら3時間で入試問題をすべて解いたらしい。

 3時間だぞ!通常3日に分けて行う試験なんで、今日は一部の試験で明日からまた試験があるかと思っていたのに…。


 ユリウスはその後採点するといっていたようだが、さっきの電話は結果が出たのかな?

 そう思いながら、私は事務棟に足を踏み入れた。

 興奮した様子の20人ほどの職員や教授がこちらを見た。


 ユリウスが

「柾田教授。あの高校生たちは何なのでしょうか。もし知ってたら教えてください。」

「?どういう意味だね?日本の高校生…。」

 柾田教授が話していると遮ってチェルシーという事務員が私に話しかけた。


「高校生がたたき出すスコアじゃないんです、教授。今日14人の日本の高校生が、ここにおられるそれぞれの分野の教授のもとに来ました。Norioもそのうちの一人です。全員が事前に教授あてに論文を送っています。実に14分野ですよ!そして同じようにそれぞれの教授に促されて入学試験を受けさせてみたのですが…。」

 思わずゴクッと息をのんだ。


「全員がパーフェクトなのです。満点です。こんなこと今までになかったことです。」

 私はそこで今日Norioからもらった大学受験模試のリザルトをポケットから取り出した。

 さっきはあまり意識していなかったが…これは…。


「…パーフェクトだ。紀夫が持ってきた日本の大学の模擬試験の結果のコピーを今日預かったんだが、この試験もパーフェクトだ。いや加点が5点ついてるな。10教科1,000点満点中彼は1,005点を取っている。」

 私がそう言うと、それぞれの教授が預かったコピーを熱心に見だした。

「これが本当のことなのか早急にこの模擬試験を実施した学校に電話して聞いてみなさい。確か日本語のできる職員はいたよね。」

 そう言って、すぐに調べさせた。


 そこでまた、驚くことが分かった。ここに受験しに来た14人が満点で一位なのはこのコピーの通りなのだが、さらにこの子供たちの母親、そしてNorioの中学生の妹まで、加点こそつかなかったが満点だったらしい。どうやら満点のテストを学校で出して、不正を疑われたことに腹を立て、模擬試験で証明したそうだ。教え方で人はいくらでも優秀になれると。

 その話に俺たちは鳥肌が立った。

 なんて子供たちだ。


「…で、ユリウス。もちろん彼らの入学は認めるんだろうな?」

「彼らを受け入れられる大学は、確かにここしかないだろうね。何せ偏屈で通っているこの大学の有名教授14人を実力で認めさせたんだからね。」

 うわーと歓声が上がり、拍手が上がった。


 これで私も彼と研究できそうだ。

 それにしてもほかに13人も優秀な学生がいるのか。明日はその学生たちにも会ってみたいもんだ。

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