第30話 地縛霊
森の入り口の時点でかなりの暗さだ。
手を伸ばすと腕ごと吸い込まれてしまいそうな、真っ暗闇。
異世界だからなのか。
田舎の森はこういうものなのか。
闇に囲まれた中、俺と炊飯器の二人で進む。
森に入ってすぐの場所で被害にあった人もいるとの話だ。
おそらくもう地縛霊の射程範囲だ。
俺は、ランプと水筒を炊飯器に持たせ、3メートルほど先を歩かせてみる。
森は、とても暗い。
自分の足元は、ほぼ何も見えない状態だが、頑張って3メートル先の炊飯器についていく。
当然、俺の姿はほぼ闇に紛れている。
地縛霊はこれでも通行料を取れるのだろうか。
嫌な気配、とでも言えばいいのだろうか。
疲れすぎたせいだろう。少し目眩がする。
本当にお化けでも出そうな気配だ。
少し歩くと、道の真ん中に何か落ちている。
サイフだ。
噂どおりなら、アレは俺のものだろう。すでに盗まれていたとは。
俺は尻ポケットに入れていたはずのサイフを確認する。
確かになくなっている。全く気づかなかった。
深い暗闇でも正確に情報を把握出来るらしい。
触られた感触は、なかったはず。
視認出来ない速さも驚きなのだが、何の音もしないことの方が、より恐ろしかった。
素早く動くと、風の音や着地音はどうしてもしてしまうものだ。
なのに、何も聞こえなかった。
夜の森の中。
木々の葉が擦れ合う音だけが聞こえる。
確かにこれは、霊の仕業と言われた方がしっくりきてしまう。
俺は、落ちているサイフを拾い、中を確認する。
中に入れていた1€がなくなっている。保険のため1€しかお金を入れていなかった。
俺は手に直接もっていた3€をサイフに入れると、今度はカバンにサイフを入れた。
恐らく、これも見られているだろう。
次からが本番だ。
この素早い敵に罠を仕掛ける。
罠にかかるかはわからないが、敵は今までとは違う行動にはなるはずだ。
敵を視認すら出来ていない現状、俺たちはかなり不利だ。
攻撃されたら回避は難しい。
少しでも正体を暴くヒントが欲しい。
こんな罠では敵は倒せないだろう。だが、何かの痕跡は得られるかもしれない。
敵の正体を把握しないことには作戦も立てら
「ナンダヨこれェー!」
間抜けそうな声がカバンの方から聞こえた。
カバンを見ると、中から紐が飛び出ており、その先には風船がプカプカ浮かんでいる。
???
いつの間に。 というか、なんだこれは。
「嫌だァー!ベタベタするぅー!」
声はカバンの中から聞こえる。
風船の紐をカバンの中から引っ張り出す。
ネバネバのパン生地に絡まった、小型ロボットがジタバタしていた。
罠にはかかってくれたらしい。
予想通りの小型タイプで良かったが、まさか手乗りサイズとは。
「攻撃をしかけてこない」「音がしない」「風もない」「視認できない」「接触は間違いなくされている」
状況から、「小型、非力タイプ」以外に考えられなかったとはいえ、夜の森の雰囲気が怖すぎた。
「勝ったみたいね」
炊飯器がこちらに戻ってきた。
これは、勝った。のか?
よく分からないが危険はなさそうなので緊張の糸はほどけてきた。
「嫌だァー!助けてェー!助けてェー!」
コイツ、うるさいな。
このままだと正体も分からないので、ねばつくパン粉をはがしてあげることにした。
持ってきた水筒の水をかけて、少しずつパン粉を取り除いてあげる。
「おぼおぼおぼおぼォ」
シャワーは嫌いなようだ。
パン粉がとれ、正体が見えてきた。
カラーは茶色だ。
四足型の、哺乳動物のようなボディだな。
顔は、極端な垂れ目模様で、手が長い。
これは、どうやらナマケモノをモデルにしているロボのようだ。
腰には風船の紐がついており、これで空を飛んでいたのか。
軽いからなせる技だな。
じいさんのとこのネコよりは、だいぶカクカクしており、機械成分が強めの見た目だ。
シャワーが終わった。
ナマケモノは俺の手のひらの上で少しハッとした表情で、こちらを見ている。
パン粉をとってあげた(助けた)ことに気づいたのだろうか。
「助けてェー!タケシィー!」
さらに強く叫び始めてしまった。
どうしたものかな。早く引き取って欲しい。
というか今、日本人らしき名前を呼んだな?
「またせたなフォリー!」
森の中から、虫取り網装備の短パン小僧が出てきた。
手にはカブトムシを持っている。
この世界で初めての和風(?)衣装の登場だ。
短パンTシャツは和風でいいんだよな?多分。
「タケシィー!」
ナマケモノが目を輝かせながら、俺の手のひら飛び立つ。
タケシがこいつがパートナーのようだ。
捕まえてなきゃいけない気もしたが、風船とナマケモノがどうやって空中を移動するのかが気になってしまい、黙って手を離してしまった。
小型ナマケモノが風船に釣られてぷかぷか浮かんでいる。
なかなかにシュールな絵だ。
ナマケモノの手から何か棒状のものが下にスルスルと伸びていく。
よく見ると、手にはスキーのストックのようなものを持っていた。
そのストックが地面まで伸びて、サク、と刺さる。
「サク、サク」
ストックで地面をさしては後ろに漕ぎ、タケシの方にゆっくり前進していく、風船ナマケモノ。
うーん、こうやって移動していたのか。
確かに音は小さい。
小さいが、気付きそうな音はしている気がする。
俺は再度風船ナマケモノを捕まえる。
「ぎゃッ!」
「フォーーリィーーー!」
「おい!こいつの移動音、最初にサイフ盗んだ時は聞こえなかったぞ。どうやって盗んだ?」
俺は2人に問い詰める。
木々の葉を風が揺らす。
ナマケモノは手の中でバタバタしている。
少年が、ニヤリと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます